第9話
~レンカ~
作戦開始より5日目、太陽は西に傾き始めたころ、レンカは本日8体目の神兵を倒し、一息入れていた。
(中継拠点の周辺に反応があった神兵はこれで片付いたな。さすがにC地区は神兵との遭遇率はD地区以下とは比べ物にならないな。ここにたどり着いてから2日間以上、周囲の探索及び神兵の殲滅を行ってきたが、ようやく反応が無くなったか。)
拠点の周囲にいた神兵が一掃されたことを広域探索の魔術で確認すると、ちょうど通信機に反応があった。
『こちらガレスだ。感度は良好か?』
「こちらレンカです。はい、問題ありません。」
『それは何よりだ。こちらは以前お前が送ってきた中継拠点まで後3時間程度で到着する予定だ。お前の通信機の反応が拠点付近にないが、どこにいる?』
「予定より早く到着できそうで何よりです。私は拠点に近い神兵を念のため排除していました。こちらはとりあえず、反応はすべて潰せたと思いますので、今から拠点に戻ろうかと思っています。」
『拠点付近の神兵の殲滅か…あまり無茶をするな。何かあってもお前は単独なのだから危険な状況にあってもフォローできんのだ』
「はい、申し訳ありません。が、拠点の安全確保は作戦の今後にも響きますので。」
『確かにそうだが…。まあ良い。いや、良くは無いが。お前も拠点に戻るところだといったな?早く戻ってきて合流しよう。』
「承知しました。」
ガレスとの通信を終了すると、レンカは周囲を念のため警戒しつつ、拠点へと足を速めた。
レンカが拠点に到着し、武器の手入れをしていると、ガレスたちも少し遅れて拠点へと到着した。
「レンカ!」
「お疲れ様、ハオリ。ケガは無いかい?」
「うん!レンカもケガとかない?」
「ああ、大丈夫だよ。」
「よかった…。……あっ!」
小走りにハオリが近づいてケガの有無をお互いに確認していたら、何か気が付いたかのようにパッとレンカから距離をとる。
「?ハオリ?どうかしたか?」
「ううん!何もないから気にしないで!」
「そ、そう…。」
どこか様子がおかしいハオリが気にはなったが、気にするなと言われたらこれ以上踏み込むのも気が引けたので、この話題を打ち切ると拠点に入ってきたガレスとファルガをねぎらいの言葉をかける。
「お疲れ様です、ガレスさん。ファルガもお疲れ様。」
「ああ、お前もな、レンカ。お前のおかげで拠点に近づいてから神兵との遭遇は無かったよ。」
「5日ぶりだな!お前も無事でよかった。」
「うん、2人とも問題なさそうで何より。ガレスさん、今後の予定はどうしますか?」
「今日は物資の荷解きをした後は、明日まで休息をとる。レンカも荷解きを手伝ってくれ。」
お互いに無事を確認すると、ガレスを中心として運搬した物資の荷解きを始める。荷解きが終わって、中継拠点に配置し終えると、レンカが思い出したように言った。
「ああ、そうだ。水源が見つかったから、水浴びできるよ。すぐに使える状態だから、あとで入って疲れをとってくれ。」
レンカは中継拠点の場所を見繕っている時に、偶然水源を見つけ、水質に問題が無いことを確認するとそこに拠点を作成していた。水源があるだけで、作戦のリミットはかなり余裕ができるのだ。今回は豊富な水源であったため、レンカは水浴びにも使用していた。
「本当っ!?」
「ああ、うん。まずはハオリからどうぞ…。ガレスさんとファルガも構いませんか?」
ハオリのあまりの勢いにちょっと引きつつ、レンカは2人に確認をとる。
「ああ、問題ない。」
「俺もいいぜ~。」
「じゃあ、水浴び行ってきます!お風呂お風呂!」
ハオリは物資から自分の荷物を取り出すと水浴びできる部屋に早足で向かっていった。
「はあ、あいつは元気だな」
「そうそう、ようやく拠点にたどり着いたんだから静かにゆっくりさせて欲しいぜ。」
「まあ、任務中とはいえ、やはり女ならいろいろと気になるんだろう。」
(…ああ、ハオリが最初に再会した時、突然離れたのはそういうことか。別に臭いとか気にしないんだがな。)
ハオリの浮かれ具合を見ていたガレスとファルガが呆れたように会話していたのを聞いて、レンカは余計なことに気が付いていた。だが、たかが水浴びと侮ることはできない。衛生面は体調管理には馬鹿にできない影響を及ぼす。特に今回のような長期的な作戦の時は、できる限り清潔に保つことは戦闘でベストパフォーマンスを発揮するために必須事項ともいえる。そのことから、レンカはここにきて毎日水浴びをしていた。
「まあ、質のいい休息をとるためには汚れを落とす必要があるか…、ファルガ、俺たちもハオリが出てきたら水浴びをするぞ。」
「うえっ?!一緒にっすか?!」
「気色の悪いことを言うな!当然交代でだ!」
「ああ、そうっすよね!ドン引きするところでした。」
ファルガが余計なことを言ってガレスに殴られているところを横目に、レンカは物資の中から比較的日持ちが短そうな食料を選んで並べていく。
「2人が水浴びをしている間、夕食を用意していますよ。このあたりの神兵は一掃したので、火を使っても問題ないでしょうから。」
「相変わらずこのアホとは違って気が利く男だな、お前は。悪いが頼めるか?久々にまともなものが食えるな。」
「やったぜ!携帯食は腹は膨れるんだが味はいまいちだからな…。」
「栄養摂取が目的で、味は2の次、3の次だからねぇ…。できる限りご期待に沿えるように努力します。」
そんなやり取りをしていると、水浴びを終えたハオリが普段使っている防護ローブを脱いだ、多少ラフな格好で戻ってきた。
「はぁ~。最高だった~。これで湯舟もあれば言うこと無しだったけど。」
「そこまではさすがに難しいかな。」
「わかってますよ~。言ってみただけです~。」
水浴びを終えたハオリは上機嫌で、レンカのそばに近寄ると横に並んだ。今度は距離をとったりしないのを見て、レンカは先ほどの余計なことに確信を持った。
「レンカはご飯の準備?」
「ああ、物資の中でも足が早そうなものを消化してしまおうかと思って。」
「私も手伝うね。」
「ありがとう。そっちの下処理頼める?」
「オッケー。任せて!」
(……爆ぜろ。)
レンカとハオリの恋人のようなやり取りを見ながら、ファルガはそんなふうに思った。
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