第8話
~ガレスチーム~
作戦開始から5日目、ガレスたちは大きな消耗もなく予定通りD区域を超え、C区域へと足を踏み入れていた。
「よし、本日の目標はレンカのいる中継拠点までの移動だ。この作戦の本番は明日からとなるが、とりあえず第一目標の中継拠点までの移動は本日で完遂したい。場所は通信で既にレンカから受け取っているから、日が沈まないうちに到着するぞ。」
「了解です。レンカと合流すれば見張り番が増えるから、もう少し休憩時間が取れるな。」
「そうね。レンカは大丈夫かしら?」
「いや、大丈夫だろ。あいつが苦戦しているところを見たことねぇぞ?」
「わかってるわよ。レンカが強いことは。…でも、心配したっていいじゃない。」
「おい、2人とも。あいつは大丈夫だから、まずは自分たちのことを心配しろ。あいつは不要にリスクの高いことをしないから問題ないだろ。」
ハオリはレンカと離れ4日が立っているため、毎日通信で連絡を取っているとはいえ心配は心配らしい。
午前中に5体の神兵を排除し、昼食をとった後、目標地点への移動を開始していた。
ピピッ
「っ止まれ。神兵の反応ありだ。進行ルートからは微妙に外れているがどうしたものか。」
ガレスは進行ルートに近いが外れている神兵の処理に判断しかねていた。無駄な損耗を控えるなら回避一択なのだが、もしその先で神兵がいた場合、挟み撃ちされる危険もある。今後のことも考えて、慎重に考えていた。
「ガレスさん、とりあえず今反応があった地点で神兵の種別など調査してから判断しませんか?」
ハオリから進言を受けて、ガレスはとりあえず調査することに決めた。
「そうだな。まずは、この神兵どもを調査してから判断する。飛翔型なら回避だ。それ以外ならやるぞ。」
飛翔型を回避するのは損耗率が高いからだ。レンカのように空中戦が出来ないガレスたちからすれば、やらなければならない場合を除いて回避一択である。ハオリの魔術やファルガ、ガレスの機工武器で対処可能ではあるが、魔術以外は消耗したらその分の物資の補充は不可能だ。今回の作戦目標は中級神兵の殲滅が含まれているため、できる限りの消耗は避けたかった。
「神兵目視できました。…4体とも地上ヒト型っすね。武器持ちです。剣が2体。槍が2体です。」
神兵の反応箇所に移動したガレスたちは、ファルガの発見報告聞いて、戦闘準備を始めた。
「地上型だしやるぞ。ヒト型は連携してくるから俺とファルガは前衛で注意を引き付ける。ハオリは後衛で一気に殲滅できる魔術を使用しろ。術式を練り上げるのにどの程度かかる?」
「範囲によりますが、直径10M範囲であれば、30秒もあれば可能です。」
ガレスの質問にハオリは少し考えて答える。
「直径10Mか…。了解した。ファルガ、2体ずつ受け持つぞ。ハオリからの準備完了合図があったら指定された範囲に敵を吹っ飛ばせ。」
「了解っす!…だが、倒してしまっても構わんのだろう?」
「急にどうした?あまりアホなこと言ってんじゃねぇよ。よし、ではいくぞ!」
作戦を伝えると、2人は身体強化魔術を発動し、ハオリは術式の構築に入った。
ガレスは振動ナイフに魔力を流すと2体に向かって投げつけ、ファルガは他の2体に向かって駆け出した。
「「ギイ!!」」
投げナイフの標的の神兵はナイフに気が付くと、手に持っていた武器で弾く。
「ちっ!先制攻撃は取れなかったか!」
ガレスはナイフの攻撃が防がれたのを見て舌打ちすると、身体強化の変換率を上げて神兵へと接近していく。
「ギッ!」
「ギイ!」
ガレスが標的にしている神兵は剣持ちが2体で、接近してきたガレスに左右から剣を振ってきた。
「っふ!はあ!」
2体の剣撃を両腕の手甲で受け止めると、身体強化に任せた怪力で剣を押し返し、ひるんだその隙に胴体に拳を叩きつける。拳を喰らった2体は殴られた勢いで後退するが、ガレスはすぐさま距離を詰めて、再び拳を繰り出した。
「剣を振る間合いはくれてやらん!」
ガレスは連撃で追い詰めていくが、1体が隙を見てガレスの間合いを離れてしまった。間合いから離れた1体は、ガレスの後ろに回り込み、鋭い斬撃を放ってきた。
「っち!これだから知恵の回るヒト型は面倒だ!」
斬撃を回避したガレスだが、代わりに自分の間合いから2体とも出てしまった。
(1体くらいは倒しておきたかったが…)
かなりダメージを与えていたが、まだ倒すには至っていない。さて、どうするか、と思案していたところにハオリから合図が来る。
「ガレスさん、ファルガ!2人の中間の位置にある窪みを目印に集めて!」
「よし、いいタイミングだ!ファルガ10秒後に集めろ!」
ガレスは2体に接近し、あえて攻撃せずに回避に集中する。
(6…7…8…よし、ここだ!)
タイミングを計り、2体の腕をつかむとハオリからの指示があった個所に力任せに投げる。
投げられた神兵はきりもみしながら、目標地点へと落下した。
一方、ファルガのほうは、最初に高速接近して1体に向かってパイルバンカーを叩き込もうとしていた。
「喰らえっ!っと、うおぉ!」
繰り出したパイルバンカーを避けられたうえ、狙っていなかったほうの神兵から槍の反撃が繰り出された。ギリギリ相手の攻撃は回避したが、ちょっと焦った。
(やっぱいきなり大技は避けられるか…、ワンチャン行けると思ったが。連携も厄介だし、小技で稼いで、ハオリに吹っ飛ばしてもらうか)
「うっし!バックパック展開!疑似アーム使用!音声コマンド入力;『接近する攻撃を防げ』」
ファルガはバックパックに使用している機工の一つ、半自立型疑似アーム4本腕バージョンを展開した。この機械機工はファルガが作成した武器の一つで、音声入力で簡単な行動を自動で行ってくれる優れものだ。例えば、『持った武器で、攻撃し続けろ』や『盾の代わりになれ』など単一の命令であれば実行できる。ただし、できない命令を受理すると、すぐにフリーズするのが難点であった。
(よし、神兵の攻撃は2体同時でもアームで防げるな!あとは耐久力の問題がありそうだから、避けれるものは避ける感じでいきますか!)
疑似アームで神兵の攻撃が防げることがわかると、振動ナイフを腰から引き抜き、魔力を流して攻撃し始める。細かいステップを踏み、疑似アームで攻撃を防ぎつつ、振動ナイフでダメージを蓄積させていくとハオリから合図が出た。
「ガレスさん、ファルガ!2人の中間の位置にある窪みを目印に集めて!」
「よし、いいタイミングだ!ファルガ10秒後に集めろ!」
ガレスから新たな指示が出たので、それに従って疑似アームの命令を切り替える。
「音声コマンド入力;『現在の行動を中断して、5秒後に2体を前方に10M投げろ』」
(今の疑似アームだとこのくらいが理解の限界だろうな)
ファルガは疑似アームに命令すると、2体の攻撃を大きく避け、隙をついて疑似アームで2体を捕まえる。疑似アームは命令に従って前方へ2体を放り投げた。
絶妙のタイミングで1か所に4体の神兵が集まるとハオリは即座に魔術を発動する。
「発動します!魔術変換;吸熱凍華」
魔術が発動すると、4体が苦しみだし、突然神兵自体が凍結し、崩れていく。
「うわっ!エッグッ!」
ファルガがその光景を見ながらげんなりとした顔で言う。
「何よ、あんたも凍りたいの?」
「神兵よりもお前が恐ろしいわ。」
「2人とも、無事か?」
ファルガとハオリが無駄なやり取りをしていると、ガレスが歩み寄りながら状況確認してきた。
「うっす!ケガも無し、損耗は疑似アームの電力くらいですが、まだまだ余裕があります。」
「こちらも損耗はイドくらいです、ガレスさんは?」
「俺のほうも、ケガも損耗もない。ナイフも回収済みだ。」
「損耗を気にして戦うと、ちょっと苦戦するな~。」
「確かにやりにくくはあるな。B-2地区では損耗をある程度気にせずに戦えるように今は我慢しろ。」
「は~い。」
「では、中継拠点を目指して移動するぞ。レンカも待っているだろうしな。」
「了解っす!」
「そうですね!レンカが待ってますしね!」
そんなやり取りをしながら、目標地点へ3人は歩を進めた。
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