第7話

~レンカ~

(ふう…。ハオリは相変わらず元気だな…。)

既に日は落ちて、空にはきれいな星の海が輝いている。

通信を終え、簡易拠点を作成したのち、レンカは周囲の警戒を行った。

レンカは携帯食と水を口にしながら、広域に探索魔術を発動し、周囲に神兵がいないことを確認する。その後、いないことを確認すると、イドの節約のため、探索魔術を解除し、探索型機工に警戒方法を切り替える。

(順調だな。まだ初日だから何とも言えないが。)

本日起こったことを思い返し、反省と今後の課題を抽出すると、その思考にひと段落入れ、また別の思考を始める。

(マルクの背後関係を洗ってみたが、特に不審なものはなかった。だが、マルク自身に秘密があったな。やはり‘セカンド‘か。なら、会長が商会に入れたがったのも頷ける。後は能力値が気になるな。戦闘訓練ではガレスさんが担当していたといっていたが、どうしていたのだろう?)

新参のマルクについて考えをまとめていく。そういえば、‘セカンド‘の商会内の割合がまた増えるなというどうでもいいことも思ったが。

(この作戦が落ち着いたら、会長とガレスさんと話をまとめる必要があるか…。‘セカンド‘と言えばファルガは自分が‘セカンド‘だってこと最初は知らなかったな。)

ファルガと最初に商会で出会った時、マギアロイドについて長々説明することになった時のことを思い出していた。


「なあなあ、レンカ…さん?‘セカンド‘って何だ?」

「……マジで知らないのか?後、同い年だからレンカでいいよ。」

「おお、そうか!んじゃ、レンカ、改めて聞くけど‘セカンド‘って何?」

「わかった。知らなかった事情は聞かないよ。少し長くなるけど、まずはマギアロイドについて説明するよ。」


魔術とは魔術適性がある人間が魔術を使用する際、マギアを変換術式で体内に取り込むという工程を踏み、体内でイドと混合し、エネルギーを生み出す。このエネルギーを魔力というが、この魔力をすべて使用して事象変換魔術を介して魔術と呼ばれる事象を発生させる。

だが稀に、体内で変換した魔力をすべて事象魔術に変換しきれず体内に残る場合がある。これが蓄積すると、人体に様々な悪影響を及ぼす。軽い状態であれば魔力酔い程度であり事象魔術で吐き出せば治る現象だが、自覚症状がなく残る場合がある。魔力が蓄積量限界を超えたとき、人体は肉体の再構成を行う。その際の苦痛は大変なものであり、大抵の魔術師はこれに耐えることができず、そのまま死亡する。また、肉体の再構築に失敗するとやはり数日後に死亡する。しかし、この再構築が成功し、安定した状態になった時、人はマギアノイドとして生まれ変わる。これが、マギアノイドの発生する工程だ。では、マギアノイドと人は何が異なるのかという点だが、とても簡単に言うとマギアノイドは魔術使用の際に周囲のマギアを体内に取り入れる工程を必要とせずに、強力な魔術を行使できることである。その理由としてマギアノイドは人体細胞にマギア生成器官を持っていて、常にイドと混合できる状態にあるためだ。さらに体内のマギアで補完できなくなるほど消耗すると周囲のマギアを吸収して魔術を使用できるというメリットがある。ただしイドは消費されるので、永久に魔術を使用できるわけではない。また、マギアノイドの最大の利点は魔術を使用する際の変換率に非常に有利な構造となっていることだ。通常の魔術師が魔術を使用する際は、3つの工程を必要とすることは先ほど説明したが、その変換率を数式にすると、

マギアを体内に取り込む術式A×イドとの混合率B×事象魔術変換C=魔術の威力

このようになる。この数式に一般的な魔術師の限界変換率を代入すると、

A;40%×B;50%×C;50%=10%

と、使用したマギアの量に対し事象変換して行使できるのは約10%程度でしかない。しかし、マギアノイドの場合以下の式で計上できる。

A;不要(100%)×B;100%×C;80%=80%

このように非常に強力な魔術を行使できるマギアノイドは先の大戦でも有力視された。

ただし、マギアノイドは基本的に自然発生に任せるしかなく、大戦中損耗してもよいマギアノイドを人工的に生み出せないか、皇国で人体実験が行われた。

結果として皇国は多大な犠牲を出しながらも、ある1つの種族を生み出すことに成功した。それがファーストマギアノイド(ファースト)と呼ばれるものだ。ファーストマギアノイドと自然発生したマギアノイド(ファーストが生まれたことにより後にナチュラルマギアノイド;ナチュラルと呼ばれるようになる)は構造的に類似しているが、出力が異なった。違いが分かりやすく先ほどの式に表すと、

A;不要(70%)×B;100%×C;60%=42%

このようになる。ナチュラルよりも半分程度の変換率だが、戦闘面に関しては非常に有用だった。また、ナチュラルとファーストの大きな違いはもう一つある。それは、ナチュラルは人体構造が変質しているため、遺伝子、つまりは子供を成すことができないが、ファーストは変質しているが通常の人類より確率は下がるが、子を成すことができる点である。ファーストから生まれた子供はマギアノイドと同様に細胞核にマギア生成器官があった。ただし、その細胞量は少なく、全体の40%程度であった。この子供たちをセカンドマギアノイド(セカンド)という。セカンドの能力値を数式にすると、

A;不要(40%)×B;100%×C;50%=20%

となる。因みにこの子供たちが子を成すと一般的な子供が生まれることもあれば、セカンドとして生まれることもある。(セカンドとして生まれてくる事は稀)セカンドとして生まれてきた子は、ファーストから生まれたセカンドと同程度の能力を持つ。このことから、セカンドから生まれたマギアノイドたちはサードの名を冠することなく、セカンドと呼ばれるようになった。


「これがマギアノイドが生まれることになった経緯だよ。ファルガはセカンドだから親がセカンドか、ファーストということになるね。」

「……なるほど。でも、ファーストって大戦時代の人物なんだろ?マギアノイドになると寿命でも変わるのか?」

「確かにマギアノイドは一般人よりも長い寿命になる傾向があるけど、せいぜいが100年くらいだよ。人類でも長寿の方は100年以上生きるし、あまり関係ないんじゃないかな?だからファーストが大戦から生き続けているわけではないよ。大戦時に何人かのファーストを何年続くかわからない大戦の中すべて消耗しないために、研究材料としてコールドスリープしていたらしい。だが実際にコールドスリープを解除する前に大戦が終わってしまった。その後冷戦がはじまったため、再度大戦がはじまった時のためにコールドスリープ装置が解除されることはなかった。それから、神下災害が起こって、その災害時にコールドスリープ装置が解除されたって事情らしいよ。詳細はあまり資料が残ってなかったけど。」

「なんだよそれ!ひどすぎないか!」

「言いたいことはわかるよ。非人道的になれるのが戦争だから…で片付けられないことだけど。でも、その人たちは確かに存在するし、過去を背負って前を向いている人たちでもある。あまり同情的な目で見ないで欲しい。」

「…そう…だな。悪い、感情的になった。」

「いや、ファルガが怒ったこと自体は悪いことではないよ。」

(それにファルガの人となりも理解できたしね)

「因みに俺以外にもこの商会にマギアノイドが居るのか?」

「ああ、同じチームだし教えておこうかな。リーダーのガレスさん、魔術特化のハオリもセカンドだよ。」

「…聞いていいかわかんねぇけど、レンカは?」

「俺はセカンドじゃないよ。…ナチュラルだよ。」


(ファルガとはこの話をしてからほんとのチームになれた気がしたな)

当時のやり取りを思い出して、少しだけ口角を上げた。

(さて、明日も早朝から目的地への移動があるし、そろそろ休むか…)

体を壁によりかけて、武器を手元に置くと、レンカはそのまま目を閉じた。


(あれ、そういえばあの時からずっと説明キャラ俺じゃない?)

今更気が付いた。

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