第5話

「十分だ、レンカ。説明ご苦労。」

会長にそう言われて、レンカは席に座った。

「さて、マルクよ。今の説明であらかたは理解できたか?」

「はい、現状とこの商会の目的が理解できました。事前に商会の目的は聞かされていましたので、今回は細かい部分の確認でしたが、納得できました。」

マルクが会長への質問に対し、そのように回答した。

「ふむ、今回は自衛の訓練が終わっていないため作戦への同行は不可だが、今後は加わってもらうだろう。今回の議題は以上だが他に何かあるか。」

そういう会長に対し、ガレスが発言する。

「では会長、物資の到着と作戦開始日、作戦終了推定日数を開示願います。」

「物資の到着は3日後、作戦開始は7日後の早朝からだ。今回は短く見積もっても作戦期間は20日はかかるだろうと予測している。」

「了解いたしました。各々武器や食料の準備は怠るな。」

「「「はい。」」」

7日後、新たな作戦が始まる。


任務受領から7日後、指定されていた時間にレンカは地下シェルターの入り口に来ていた。

「おはようレンカ。準備はいいか?」

「おはようございます、ガレスさん。問題ありません。」

既に来ていたガレスに挨拶と準備についての回答を返す。

「おはようございます。ガレスさん、レンカもおはよう。」

「おはようございます!ガレスさん、おっす!レンカ。」

武装したファルガ、ハオリが到着し、各々挨拶を交わす。

「それでは改めて、作戦の確認だ。今回の目標はB-2地区の通信網の回復、当地区の作戦の妨げとなる神兵の撃破だ。B地区での活動は慎重を期すため、10日程度を見ている。そのためには中継拠点の確保が最初の仕事になるだろう。中継拠点に関しては私たちの能力

と目標地域までの距離を考えるとC‐2地区に設けるのが妥当だと考える。私たちはいつも通り、レンカが単独で中継拠点作成地の調査で先行し、私たちが退路を確保しながらそこまで物資を運搬しつつ移動する。レンカ、中継拠点作成地までの期間はどの程度だと見積もる?」

「現時刻から3日程度あれば拠点作成可能だと思います。」

「相変わらず早いな…。了解した。こちらが移動するまで恐らく5日程度かかると予測される。連絡は密に行え。」

「了解。」

ガレスさんといつも通りのやり取りを終えるとファルガとハオリが話しかけてくる。

「拠点調査頼んだぜ!レンカ。ぶっちゃけ、この仕事が作戦成功へのカギだからな。安心して休みが取れるところよろしくな!」

「わかってる。それよりも物資の運搬を頼んだよ。」

ファルガとそんなやり取りをしていると、隣からレンカの手を取ってハオリが話しかけてくる。

「いつものことだけど、…死なないでね。何かあったらすぐ連絡して!」

「…ああ、ありがとう。そっちも何かあればすぐに連絡してくれ。助けに行くよ。」

ハオリとそんなやりとりをしてから、レンカたちはシェルターの入り口を開け地上に出た。


前回の作戦終了から1か月ぶりの地上に出る。現在は早朝のため、うっすらと日が見え始めていた。地下シェルター内もシェルターの自動制御システムにより昼夜の概念があるが、やはり地上で本物の日に当たると、人類は地上で生活する生き物なのだと本能で理解できた。レンカたちの世代は地上での生活をしていたことはないが、それでもそう感じてしまう。

(だからこそ、取り戻さなければな。)

肺いっぱいに地上の空気を吸い込むと、廃墟と化している建物の向こう側にある作戦拠点を見据える。

「ガレスさん。それではC-2地区まで単独先行します。」

「了解した。…気をつけろよ。」

ガレスと短いやり取りをすると、レンカは自身に強化魔術を行使し、一気にその場から跳躍した。その跳躍で10M規模の建物をやすやす飛び越え、目標に向かって走り出す。

その光景を見ていたハオリは感心したようにため息を漏らした。

「…相変わらずとてもきれいな魔術式。彼が特殊だとしてもやはり素晴らしい腕前ね…。」

「だな。マギアの変換効率がアホみたいに高い。あんな制御方法無理だぜ、普通は。」

「おい、二人とも。いつまでも呆けていないで俺たちも出るぞ。レンカが先行しているのに俺たちが遅れれば、あいつはその分一人で行動する時間が増えるのだからな。」

「「すみません!」」


(今のところ順調だな。神兵との遭遇もなくE地区を踏破できそうだ。っと、そう思っていたら出てくるかね…。これがハオリの言っていた物欲センサーってやつか?)

身体強化魔術で飛ばしていたレンカは既にE地区を踏破間近まで迫っていた。そこまで神兵との遭遇もなかったため、この速度を出していたが前方に神兵を発見し警戒態勢に入る。

(数は1、2…11か。面倒な翼人型で多少数が多いが、殲滅は可能か。このルートは後でガレスさんたちが通るし、片づけておいたほうがいいな。)

遭遇した神兵は下級の翼人型であった。神兵には階級以外に種別があり、地上型(獣型、ヒト型、虫型)、飛翔型(翼人型、鳥類型、昆虫型)、まだすべて発見されていないが海中型がいる。現在の人類はあまり海中にはいかないため被害はそれほどではないが(海中資源への被害は別だが)、飛翔型の対処は難しいとされている。なにせ常に飛翔しているため飛び道具でなければ攻撃が届かないのだ。また、翼人型は耐久力も高く、魔術も簡易なものは効果が薄く、通常の弾丸程度なら弾いてしまう程体が硬い。さらに槍や剣のような武器まで使用してくる。

レンカは素早く両足のホルスターに手をかけ、拳銃型の魔道具を引き抜く。

(まずは直近の3体を打ち抜く。その後、近接戦にて残りを排除。1体も逃さん。)

本来ならマギアを体内へ吸収するための変換魔術を使用して、体内のイドと混合し、魔術式を用いて体外へ魔術として事象を変換するのだが、それらの一切を無視してレンカは強化魔術を付与した拳銃型魔道具の引き金を引いた。

魔道具から発砲音と同時に魔術的に強化された弾丸が飛び出し、神兵に衝突すると爆発して、神兵を吹き飛ばす。

弾丸は狙った通りの軌道を描いて3体の神兵を吹き飛ばした。吹き飛んだ神兵を一瞥し、体の半分が消滅し、こと切れていることを確認するとレンカは拳銃型魔道具をホルスターに収納し、代わりに腰に装備している大ぶりのナイフを引き抜いた。当然ただのナイフではなく、レンカが自ら改造している魔道具である。ナイフへ振動魔術を行使すると、身体強化の魔術変換率を上げ、空中にいる翼人型神兵へ弾丸のように跳躍した。

神兵は仲間がやられたことへの怒りか、それとも敵への警戒を周囲に促しているのかわからないが耳障りな咆哮を上げ、レンカへ飛翔する。今回の翼人型は槍のようなものを持っているのが5体、剣のようなものを持っているのが3体(先ほど銃弾で吹っ飛ばしたのは剣のようなものを持っていた)で、直近で迫ってきているのは槍持ちが2体だ。接近してきた2体は1体が突きを、もう1体が薙ぎ払いを仕掛けてきたので、突きを体を捻ってかわし、薙ぎ払いは捻った回転を加えてナイフで迎え撃つ。槍と接触したナイフは多少の抵抗を持って槍を切断した。レンカはその回転を利用したまま、ナイフで2体の神兵の首を切り飛ばした。切り殺した神兵の体を足場にし、残りの神兵へと跳躍する。残りの神兵の集団の真ん中まで跳躍すると、即座に準備していた事象変換魔術を使用する。

「魔術変換、放電(スパーク)!」

レンカを中心に雷撃が発生し、神兵たちに襲い掛かった。

「「「「「「ギイィィィィィィ!!??」」」」」」

突然飛んできた人間から強力な雷撃を喰らった神兵は痛みのあまりたまらず絶叫した。

4体は今ので絶命したが、少し距離が離れていた2体はまだかろうじて生きていた。

「すまない、一撃で殺し切ってやれなかった。」

残りの2体はそんな声を聴きながら、ナイフが自らの首に迫ってくるのただただ見ているしか出来なかった。

地上に降り立ったレンカは雷撃で倒した神兵の首を念のためナイフではねた。

「…周囲に神兵の反応なし。殲滅完了」

戦闘態勢を解除し、最低限の周囲への警戒を残し、緊張を緩めていく。

戦闘で多少上がった息を整える時間を使って、先ほどの戦闘の考察を行う。

(最初の一撃はやりすぎだな。そこまで変換率を上げなくても倒せていたかな。一方で放電は魔術の変換率がいまいちだな。まだ改良の余地があるか…。)

事象変換魔術、放電は範囲攻撃用に作成し、今回初めて運用してみたが、実際に使い勝手は悪くないとは思うが、魔術の使用エネルギーと威力が釣り合わないので改良しなければ使えないと判断した。

(さて、体力も戻ったし、先を急がなきゃな。)

神兵の死体と戦闘跡を残し、レンカは目標地に向かって駆け出した。


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