第4話

あの会議から2週間後、アルマ商会からの呼び出しを受け、レンカたちは商会へ出向いていた。

レンカが商会へ着き、セルガから会議室へ行くように伝えられ、会議室の扉を開けた。

会議室内には会長、ガレス、そしてマルクが座っていた。

「お疲れ様です。会長、ガレスさん。到着が遅くなりまして申し訳ありません。」

「ああ、お疲れ様、レンカ。まだ、ファルガ、ハオリも来ていないし、遅いわけではないから謝罪は不要だ。」

ガレスから硬い挨拶をもらい、自分の席へと座る。

ちょうどその時、会議室の扉が勢いよく開き、ファルガが入ってきて、その後にハオリがついてきた。

「お疲れ様でーす!ファルガただいま参上しました!」

「お疲れ様です。この馬鹿とは無関係なので、そんな生暖かい目で見ないでください…。」

ファルガが元気よくあいさつし、ハオリがその後に恥ずかしそうに挨拶をした。

「うるさいぞ、バカ一名。ハオリはお疲れ様。」

ガレスがそう挨拶すると、2人は自分の席に座った。

「これで全員揃ったな。それではこれから、改め任務を言い渡す。」

会長が全員着席したのを見て、重々しくそう切り出した。

「今回の任務は、B-2地区にて通信網の装置の起動だ。通信送受信装置を運搬し、B-2地区の神兵撃破及び通信網の構築をお願いしたい。B-2地区は知っての通り、下位だけでなく中位の神兵が徘徊する地域だ。もし、異常な危険を感知した場合、作戦の中断を行い即時撤退だ。人命を第一として、無理のない範囲で作戦を実行せよ。」

「B-2地区ですか…。危険度はC以下の地区より跳ね上がりますが、このチームなら可能でしょうね。」

会長の任務に対し、ガレスがそう返答した。

「うむ、というよりお前たちが最大戦力であるため、当商会ではお前たちにしか依頼できんのだ。悪いが無理のない範囲で受けてくれ。」

そういうと会長はマルクを一瞥し、その後の話を進める。

「マルクは今回の作戦に不参加だが、この地域の情報や常識が帝国のものとはズレている可能性がある。そういったズレ修正のため、一度情報を整理しようと思って連れてきている。レンカ、悪いが説明を頼む。」

「よ、よろしくお願いします。」

「了解しました。まずは‘神下災害‘、‘柱‘、‘神兵‘のあたりからでしょうか。」


この世界は今から250年前まで大小の国が入り乱れ、国土や技術の取り合いを行う世界大戦を行っていた。その戦争は100年もの間終戦宣言を行うまで続き、当時世界の人口が10億人いたのに対し5億人まで減少させた。大小あった国は滅亡・吸収され、最終的には4つの大国が残ることになった。それが帝国、王国、皇国、州国である。各国の特色としてまとめると以下の通りである。

・帝国…機械技術が発展した大国。軍の規模が大きく、軍事力の強化第一を掲げている。食料や生活物資の生産、制作を担当する生産者が大国の中で最も少ない。国内自給率が低く、機械製品を輸出し、食料を輸入に依存している。

・王国…肥沃な土壌を国土の多くに持つ大国。農業が盛んな国で国土としては大国の中で最も広い。帝国、皇国に食料や衣服などの生活物資の輸出を頻繁にしており、外国から技術を受け入れているため、技術的にも弱くなく、大国の中でも最もバランスが取れた国。

・皇国…人類史でもっとも古くからある魔術大国。魔術適性を持つ国民が多く、魔術の研究や改良が国家機関で存在する。他国の魔術適性を持つ人間が3割から4割程度に対し、国民の7割が魔術適性を持つ。残りの3割は生産者であり立場が低い。

・州国…もともとは小国の集まりで正式な名称は「群州統一国家」。戦時中大国に抵抗するため、当時の小国の中で大きな力を持っていた国が代表としてほかの小国をまとめ上げたのが始まり。小国の集まりだった名残で文化形態が多様で、当時は衝突も頻繁に起きていた。戦後は当時の小国同士のいさかいはあまり見られなくなったが、戦後の逃走兵や国にいられなくなった人間が流れ込むようになり、治安が悪かった時期がある。ただし、そうした事情があるため、様々な国の技術力が集結していることもあり、魔技師の人材は最も豊富である。


この4つの大国が大戦後、お互いに牽制し合う冷戦時代が100年続いたが、世界的な大災害が発生し、冷戦などしていられなくなったため、4大国が合同で「人類相互援助制度」を取り入れた。この人類が相互に援助しなければ生きていけなくなった災害が「神下災害」である。

現在から50年前、空から巨大な柱が降ってきた。隕石などを観測する機関にも引っかからず、まさに急に空から現れたとしか言えない状況だったそうだ。その柱は7本あり、帝国に2本、王国に1本、皇国に1本、州国に3本降ってきて、周囲の地形すら変える大災害となった。当時は各国が行った攻撃だと思ったが、各国に被害があったことにより原因解明や今後の処理は混迷を極めた。しかし、この柱は降ってきただけでなく、柱の周囲に謎の生命体を生み出した。金属的でもありそれでいて有機生命体のような不思議な生命体であり、後に‘神兵‘と呼ばれる生命体である。この神兵へ当時の国々が交渉を持つために近づいたが、言葉を交わすことなく攻撃された。神兵は柱の周囲に神兵以外の生命体が侵入すると非常に獰猛となり、無差別に攻撃を仕掛けてくる。ただし、行動制限エリアがあるらしく、当時は柱の周囲から動かなかったが、その後少しずつ行動エリアを広げてきた。各国はこの神兵及び柱を人類への敵対者として扱い、自国の柱に対し国を挙げての総攻撃を開始した。しかし、神兵との全面戦闘は人類の敗北で幕を閉じた。その後人類は広がりつつある行動エリアに歯噛みしながら、いつか柱を破壊することを目標として生きている。現在では神兵の行動エリアは各国とも人類の居住エリアにまで及び、少しずつではあるが人類は衰退の一途をたどっている。特に州国は3本もの柱があり、地上は国土の7割が行動エリアに含まれているため、地下シェルターを作成し、そこで生活することを余儀なくされている。


「以上が、ここ300年くらいで起こった世界的な状況のまとめです。大雑把ではありますが、ここまでで情報の齟齬はないでしょうか?」

長い説明を終え、レンカはマルクに対し、意識の共有に相違は無いか尋ねた。

「はい。帝国とは視点が微妙に違うため、多少言い回しに差異はありますが、大きく僕の認識とのズレはありません。」

「それはよかった。では、これから私たちの商会の行動と目標を説明します。」

情報の共有化が図れたことを確認し、レンカは再度説明のために口を開いた。

「まずこの街ですが、州国の地下コロニー型シェルターの一つです。州国には他にも地下シェルターが多数あり、他国との貿易やシェルター同士の生活用品のやりとりで生活しています。地下でも現状生活が成り立っていますが、これは他国の貿易があるから成り立っているにすぎません。他国も神兵の行動エリアが進み、州国のように地下での生活を与儀される可能性があります。そうなれば人類は食料を人口の分賄うことができず、さらに衰退することになるでしょう。また、衰退した人類が今後神兵にかなうとは思えない。となればそうなる前に1つでも多くの柱の破壊を行う必要があります。私たち商会の目的は州国にある3つの柱の破壊にありますが、小規模単体でできることではないので、とりあえず柱の情報収集及び現在失われている州国の地下シェルターへの連絡網の構築を図るための通信設備の復旧を行わなければなりません。今回の作戦は州国にある第5~7柱のうちこのシェルターから一番近い第6柱のB-2地区に通信網の回復です。今回はB区域と言いましたが、このアルファベットは柱からの距離に応じてつけられています。柱から最も近いA地区を始め危険度が低いE地区、それ以外は神兵エリア外となっています。神兵エリア外は少しずつではありますが浸食し始めていますので、現在は、と言う文言が付きますが。神兵にも種別と階級があり、上級、中級、下級と人類は分類しています。柱からの距離に応じて神兵は上級、中級、下級と出現範囲が異なります。一番近いA地区は上級、中級、下級のすべてと遭遇します。B地区は中級以下が出現し、C地区以下は下級しか出てきません。ではC以下はどのように分類しているかというと、下級神兵の遭遇率から算出してつけられています。また、アルファベットの後ろについている数字は柱の東西南北を北から時計回りに1~4の数字で分割して表しています。今回はB-2地区なのでB地区の東側エリアでの作戦となります。一通り説明しましたが、情報整理はこんなところでしょうか。」

レンカがまた長い説明を終え、出されていたお茶を口に含みつつ会長に目を向けた。

「十分だ、レンカ。説明ご苦労。」


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