第3話

ファルガとマルクがガレスに連れていかれると、会長が口を開いた。

「悪かったな。突然の話で。」

謝罪を聞きつつ、レンカは疑問を返した。

「構いません、まあ、突然のお話で驚きはしましたが…。ただ、いつもの会長らしくない勇み足のお話だったもので疑問を持っただけです。」

「すまないが、いずれ話すので今は聞かないでほしい。」

「…承知しました。では、失礼いたします。」

「失礼します。」

「ああ、今回の突然の呼び出しにも手当を出す。セルガから受け取って帰ってくれ。」

「ありがとうございます。」


ハオリと一階に降り、セルガに話しかける。

「セルガさん、お疲れ様です。会長から今回の分の手当を受け取れと言われたのですが。」

「ああ、話は聞いているよ。はい、レンカとハオリちゃんの分。突然の呼び出しで申しわけなかったね。これでおいしいものでも食べて、英気を養ってくれ。」

「ありがとうございます。失礼しますね。」

「ありがとうセルガさん。とりあえず新しい作戦じゃなくてよかった~。」

セルガにお礼をいって、商会の建物を後にする。


(さて、時間もいいくらいだし、昼食でも取って帰ろうか。)

「ねえ、レンカ。」

「うん?」

「ご飯食べに行こ!」

「ああ、どこにしようか?」

「おなか減ってるし、しっかり食べられるところがいいな。甘いものがあればなお良し!」

「そうか、じゃあトレミアに行こうか。」

「おお、ユキちゃんのお店か!あそこのハンバーグおいしいよね!パンケーキもおいしいし!」

「前回のカフェはハオリが出していたし、今回の会計は俺が持つよ。」

「うーん、前回のカフェは私がほとんど食べてたから私が出したけど、今回は割り勘でいいよ?」

「俺の気が済まないだけだよ。」

「…うん!ありがと!」


商業区の一角に大きくはないが、雰囲気のいい店舗があり、レンカはその店の扉を開けた。

「いらっしゃいませ。お客さm…レンカ、ハオリ!いらっしゃい!」

かわいらしい制服に身を包んだ、小柄の少女が元気に歓迎してくる。

「こんにちは、ユキ。2人なんだけど席は空いてる?」

「うん!ちょうどよかった。今ひと段落したところだから、お好きなところへどうぞ!」

店内をざっと見渡し、窓際とは逆サイドの2人席に腰を下ろす。死角を癖のように選んでしまったことに座ってから気づき、2人で苦笑いをこぼす。

その席へ水を運んできたユキが話しかけてくる。

「注文が決まったら呼んでね。」

「いやもう決まってるよ、ハンバーグセットとパンケーキ2つ。」

「私、パンケーキトッピング全乗せで!」

「俺のパンケーキはバターだけでいいよ。」

「はーい、かしこまりましたー。少々お待ちくださいね。」

ユキが厨房へ戻っていくと、レンカはハオリに話しかける。

「全乗せって、甘すぎない?」

「それがよいのだよ。」

「…さようか。」


料理が運ばれてきて、食べながら先ほどの会議の内容を思い出し、ハオリの意見を聞いておくことにした。

「ハオリ、遮音結界お願い。」

「?うん、ちょっと待ってね。」

ハオリはそういうと音が周囲に漏れない結界魔術を組み上げる。

「これで良し!それでどうしたの?」

「さっきの会議の話だよ。マルクについて、どう思う?」

「それは彼自身について?それとも編入について?」

「どちらも。」

「うーん正直あまりピンと来てない感じかな。機械技師で優秀って会長が言っていたし、商会に歓待するのはいいことだと思う。帝国の情報も手に入るし、逃すのはもったいないと思うよ。ただし、編入はどうかと思う。」

「彼の内情を洗っていて問題がないのであれば俺も商会への歓待は賛成だよ。会長がそのあたりでミスするとは思えないしね。編成に関しては、やはり彼の戦闘技能が問題?」

「うん、それが一番問題。個人の力が低すぎると連携にも支障が出るし、もし誘拐とかで身柄が捕らえられたら情報を吐き出すかもしれない。その辺の信用が今の彼には無いから。」

「ごもっとも。ガレスさんに期待しよう。」

(大体は俺と同じ意見だな。彼自身の話もあるが、それより会長の対応が気になるな。信用していないわけではないが、こちらでもある程度背景を洗ったほうが良いか)

先ほどの会話について思案していると、遮音結界が解除された気配がして、思考の海から意識を現実へ引き上げた。

「お・ま・た・せ~!しました!当店自慢のパンケーキです。こっちが普通ので、こっちが全乗せ!」

レンカの前にはおいしそうなパンケーキ、出来立てなのでバターが溶けながら芳醇な香りを発している。その向かいには、さっきのハンバーグセットよりも大きいパンケーキにアイスクリームやらチョコレートやら生クリームが惜しげもなく使用されたモンスターがいた。

「うわ~!超おいしそう!」

(本人が喜んでるならいいが…)

レンカは目の前のモンスターを気にしないことにした。

ハオリは興奮してユキと話している。

「今日のパンケーキ全乗せいつもよりすごくない!?」

「久々にハオリが来たから張り切っちゃった!」

「すごくおいしい!ありがと!」

「それはよかった。でもちょっとお高めになっちゃったけど大丈夫…?」

因みにパンケーキ全乗せは注文する人に合わせて時価である。

「問題ないよ。」

レンカは心配そうなユキに答えた。

「さすが、レンカ!男前だぜ!」

ユキはその回答に満足したのか、いい顔でサムズアップしている。

「ヤバいのは値段よりもカロリーだけどね!」

その一言を聞いてハオリのスプーンが止まった。


君たちは値段よりもカロリーを気にしたほうがいい。

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