第2話
「会議を始める前に紹介する者がいる、入ってこい。」
会長がそういうと、会議室の扉が開き、一人の少年が入ってくる。
「この少年の名前はマルクだ。もともとは帝国で機械技師をしていたらしい。だが最近の帝国は第二柱への侵攻作戦に従事し、軍役強化や技師への兵役徴用を行い、戦争への強制参加が法律で義務化されたらしい。機械装甲兵や人体実験を行った強化兵を産出し、半年後に第二柱への侵攻を考えている。そこに年齢制限はなく小さな子供を含めた人体実験を行っているそうだ。このマルクも人体実験の強制義務に選ばれたため逃げてきたということだ。」
会長が少年、マルクがこの地にいる事柄を説明しているが会議室の中は疑問と疑念が飛び交っていた。あのお調子者のファルガですら眉間にしわを寄せている。
「…端的な説明ではありますが、ある程度理解いたしました。多々疑問はありますが、会長がここに連れてきたということはいろいろと裏が取れて、その少年への信頼性はある程度担保されているのでしょう。念のためお聞きしますが、この少年をこの場に連れてきた理由をお願いできますか?」
ガレスが強面の顔をさらに険しくし、小さな子供なら漏らしてもおかしくない凶悪な表情で会長へ話を促す。
「それは当然、この貴重な機械技師であるマルクをこの商会で働かせるからだ。さらに言えば、ガレスのチームで新たな組員として編成してもらうためだな。」
「………ふー…。技術能力はどの程度でしょうか?」
凶悪な表情を緩め、今度は疲れた顔をしながらいろいろな言葉を飲み込みガレスは次の質問を行った。
「技術力を事前に調査させてもらったが、非常に有益だと判断した。技術分野が異なるため、ファルガと比較することは難しいが、兵器分野で言えばファルガに比肩する器はある。」
会長の言葉にファルガは興味を持った顔をしていた。ファルガは能力主義の部分があり、高い能力を持っている者には敬意を払う人物である。だから新参者が自分と比肩するといわれても、邪険にせず、新たな知識を学べる機会ととらえ、興味を深くしていた。
「それは重畳。高い技術を持つ技師は歓迎いたします。当然、敵対の意思のないものに限りますがね。それと、戦闘能力はいかほどでしょうか?」
「戦闘技能についてはあまり期待しないでもらいたいそうだ。銃火器や光学迷彩などで自衛はある程度できるが、‘神兵‘相手では難しいだろうな。」
「下級神兵でも難しいでしょうか?」
「難しい。」
ガレスはこれまでの情報を整理するように、目をつむり考え事にふけっている。
その間会長がレンカに目を向け意見を求めてきた。
「レンカ、君はこのチームの意見番であるため君の意見も聞きたい。今までの情報からマルクをこのチームに編成しても問題ないだろうか?」
ファルガ、ハオリはレンカに目を向けたが戸惑っているようだ。ガレスは片目だけ開け、視線だけレンカに向けている。
「正直判断はしにくいですね。私たちは技師であるとともに‘神兵‘と戦闘を行う兵でもあります。単独戦闘が難しいとなるとなかなかに厳しいと言わざるを得ません。なので、ある程度は戦闘訓練を受けてもらい、その結果次第で判断する、というのはいかがでしょうか?」
(会長がここまでことさらに話を急ぐことは珍しい。ではこのマルクという少年には何かがあるのだろう。チーム編成への拒否は不可能ではないが、ただ拒否するのでは軋轢を生む可能性がある。この辺が落としどころだろう。)
マルクの持つ機械技術に興味を持ったファルガ、あまり興味はないが不穏分子になる可能性がある存在を入れることに消極的なハオリ、いろいろなことに疑念があるが編入は命令ととらえているが、戦闘能力が低いものへの対処を考えているガレス、ごり押しに近い形で編入を希望する会長、レンカはチーム内の空気を読みながらそう判断した。
「ふむ…。妥当なところか。了解した。戦闘訓練をマルクに受けさせ、その結果次第で編入を許可する、というところでよいか?」
会長はガレスに目を向けるとそのように質問をした。
「承知いたしました。その方向でこの話はまとめでよいでしょう。因みに、マルク君。君は今の話に異論はないかな?」
ガレスは会議室に入ってから、緊張の面持ちで黙って会議を聞いていたマルクに初めて話を向けた。
「は、はい!突然のお話で申し訳ありません。自衛は苦手ですが、懸命に訓練を受けて戦闘できるようになります。どうか結果次第ではご再考いただきたいと思います!」
「…正直私は若者が戦闘技術を身に着け、危険な区域へ調査へ赴くのは反対だ。自衛として身に着けるのは推奨するがね。だが、本人たっての希望であるならば否定はせんよ。」
「では!」
「ああ、君の努力次第では編入を考えよう。会長、戦闘訓練に関しては私が請け負いますが構いませんか?」
「構わないよ。ガレスであれば何も問題ない。」
会長との話を皮切りに今回の会議は終了した。
マルクからちょっとした話もあったが。
「あの~、若者が危険な区域へ赴くのは反対とガレスさんはおっしゃっていましたが、他の三名の方は僕と同じくらいの年齢に見えますが、よろしいのでしょうか?」
「こいつらは…まあ別だ。戦闘能力も高いしな。」
ガレスがこちらを一瞥し、そう言った。
「まあ、先輩としていろいろ教えてやってもいいぜ!」
ファルガが調子に乗ってそういい始めた。
「調子に乗るな馬鹿者。お前の戦闘の動きは特殊だからまずは俺が教える。余計なことはするんじゃないぞ。」
ガレスにすぐにクギを刺されていたが。
「え~。まあ、マルクあんまり心配すんな。ガレスさんはなんだかんだ優しい人だからさ。顔は超怖いけどな!」
ファルガがマルクへ向かってそういうと、マルクはどう反応していいかわからない顔をしていた。
ハオリが呆れた顔をしながらつぶやいた。
「……あほ」
「ほおぉう。ファルガ。なかなかにいい度胸をしているじゃないか。貴様も参加しろ。しごき倒してやる。」
ガレスは顔に血管を浮かべたままいい顔でファルガにそう命じていた。
助けを求めるようにこちらを見ないでほしい。
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