第53話 夜走り、夏

「もしもし、カツ?夜走り行かねぇ?」

「いいよ、どこ行く?」

「お」

「おっ て何だよ? テルも行くって?」

「ああ、OKだってさ」

「んで?どこ行くだ?」

霧ヶ峰きりがみねでどーよ?」

「お」

「おっ って何だよ?w」

「いや、先週…先々週か、行って来たからさ」

「何だよ、誘えよ」

「一人で行きたかったんだよ」

「ふ〜ん、まあいいけど、じゃあ時間とかまた連絡するわ」

「りよーかーい」


そして当日、集合場所のコンビニでつい話し込む男3人。

「おい、そろそろ行こうぜ」

「そうだな、んじゃ、しょんべんして来るわ」

「あ、オレも行く」

テルと2人で用をたして戻る

「よし、行こうぜ」

「あ、タバコ火ぃつけちった」とケンゴ

「あのなあ…」

「しょうがねえなあ」とテルもタバコに火をつける

「行く気あんのかお前らw」

「まあまあ、いいじゃんタバコの1本くらい」

「ま、いいけどな」

2人がタバコを吸い終わった所を見計らって

「よし、今度こそ行くぞ」と声をかけるとケンゴが

「あ、オレしょんべん」

「「オイ!」」

「何だよ、しょんべんするなって言うのかよ」

「さっき一緒に行っとけっつんだよ」

「これだからケンゴは…」とタバコを取り出すテル

「おいソコ!タバコに火ぃつけようとすんな!」

「あ、ばれた?w」

まったく、楽しいやつらだよ。


ケンゴのスパーダ、俺のXJR、テルのサベージの順で走り出す。

夏の夜の空気は独特だ。

体にまとわりついてくる生暖かい空気の中を走っていると、時折ときおり、ひゅっと涼しい風が通り抜ける。

時刻は21時頃か、この時間の諏訪すわ湖畔は街のネオンや車のヘッドライトでまだ明るい。

1日ツーリングをして帰ってくるような時間帯に走りに出るっていうのは、ちょっとワクワクする。

諏訪湖を離れ、上諏訪かみすわ駅前を通って、霧ヶ峰に上る信号を左折する。

急な上り坂の両側は住宅地だ。ネオンがなくなり、周りの音もなくなって、

バイクの排気音が響く中を走る。

夜景で有名な立石公園を過ぎ、清掃工場を過ぎると峠道に入り、気温がすぅっと下がった。

まだ峠の入口なのに革ジャンを着ていても涼しい。

(霧ヶ峰まで行けば寒い位かも知れないな…)


夜の峠道は真っ暗だ。

バイクのしょぼいハロゲンライトの灯りはいかにも頼りなくて、

行きたい方向、見たい方向を照らしてはくれない。

前を行くスパーダのライトの灯りで先の状況にあたりをつけて走る。


闇の中、灯りはバイクのライトだけ、聞こえるのはバイクの排気音だけ。

夏の夜に非日常的な空間が出来上がる。

異世界に迷い込んだような、夢の中に居るような、この不思議な感覚、嫌いじゃない。

もちろん、ケンゴとテルが一緒に居るからだ、1人で来たいなんて少しも思わない。

だって、怖えもん。


2車線の道を上り切って霧ヶ峰到着。

メットを外したケンゴが開口一番、

「寒ぃんだけど!」

「だろうな」

「そんなナイロンジャケット1枚じゃなあ」

「いや!すげぇ寒ぃんだけど!」

「だろうな」

「見るからに寒そうだもん」

「いや!冷静かよ!」

「だって俺らは革ジャン着てるしなあ」

「なあ」

「ずりぃぞ!お前らだけ革ジャン着てるなんて!」

「いや、ずるくはねぇだろ」

「むしろお前の方がずるいわ、1人だけそんなペラッペラのナイロンジャケット着てるなんて、あ~うらやましい」

「じゃ、替わってやるよ!」

「つーか、誰もいないのな」

「唐突な話題変更!」

「あっちに車がいるわ」

「ホントだ、怪しい…ヤッてんじゃね?」

「そうかもな」

「バイクのライトで照らしてやるか?w」

「やめといてやれよw」

「さ~て、じゃあどうする?こんな何も無いトコにいてもしょうがねーし」

「毎度の事だけど、ココに来ようって言ったのケンゴだからな?」

「良し、じゃあ白樺湖の方行くか、来た道ただ帰ってもつまらんし」

「「そう言うと思ったよ」」


霧ヶ峰~白樺湖間は走ったばかりだ、もっとも、前回は昼間で今は夜。

同じ場所なのにまるで違う道みたいだ。

とてもじゃないけどスピードなんか出せない。

でも、走るほどに暗さに慣れ、体の力が抜けて、夜の峠道の走り方が分かってくる。

また、3人だけの世界になる。いい感じだ。


別に目的地に何もなくても良いんだろうな、3人で走る事が目的で、バカ話をすることが目的なんだから。

目的地がなけりゃ只の迷子だけど、極端な話それでも良いのかも知れない。

どこに行こうとゴールは決まってる。自分の家だ。

言ってみれば、半分迷子。みたいな?

ハーフストレイライダー? いや、絶対間違ってるなw


























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