第49話 心動く春

たとえば目覚めの朝、開けてくれるのを待ち望んでいるかの様な光に満ちたカーテン


たとえば1日の始まり、玄関のドアを開けると、やわらかな光と空気が頬をなでる


たとえば通勤中、朝日に照らされた街並みと、気温が上がりそうな気配


たとえば通学中、桜色に染まり始めた街路樹


たとえば授業中、教室の窓から見える校庭と青空


たとえば昼休み、建物から出た時に肌に感じた暖かな陽射ひざ


たとえば帰り道、ふと見上げた空に、長い長い尾を引いて、まっすぐに描かれていく飛行機雲




――― たとえば車の運転中、信号待ちで隣にならんだ、その姿


たとえば横断歩道、目の前に停まって静かにアイドリングする、その姿


スリムで、グラマラスで、小さくて、荒々しくて、華奢きゃしゃで、無機質で、

躍動的で、可愛くて、情熱的で、セクシーで、攻撃的な、その姿



たとえば高速のパーキングで、ふと目にとまったその1台


色鮮やかで、格好良くて、スポーティで、大きくて、クラシカルで、頼もしくて、

繊細で、武骨で、クールで、挑戦的で、自由で、不自由な、その姿


(もしこれが、わたしの物だったなら…)


たとえば休日出かけた先で、聞こえた排気音に思わず振り返ったあなたの前を、風の様に通り過ぎ、光の中に溶ける様に走り去っていく、その姿


(もし、あのライダーがわたしだったなら…)


ほら、目を閉じてごらん、見えるだろう?

最高の相棒にまたがり、春の暖かな陽射しの下を、風と共に走るあなたが



たとえば自分の部屋で、風にふわりと揺れるレースのカーテンが陽の光を浴びて白く輝いて見える


「ふむ… バイクか…」


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