第47話 夏ツーリング 乗鞍ヒルクライム

ヴォオオオーン!!

良い音をさせてクマガヤさんのXJRが加速していき 少し離れてクスダさんとアマイさんが続く

(やっぱクマガヤさん速えー!)

アマイさんから更に遅れてケンゴ 俺 テルと続く

待ってましたとばかりに飛び出したクマガヤさんはすぐに見えなくなり カーブを何個か抜ければアマイさんも見えなくなる

ケンゴもビュンビュン飛ばしてる感じだけど 前3人とは速さが明らかに違う とはいえ俺からすれば速いって感じるペースだろう

(さっきまでの俺ならな… 今宵こよいのXJRは一味違うぞ…)

「まあ まだ真っ昼間だけど 行くぞ 先を先を見〜る!」


くどいようだけど視線一つでびっくりするくらいバイクの動きが変わった そんな事普通にやってる とか 出来て当たり前 とか言われそうだけど 視線なんてあまり気にしたことないっていう人は是非試して頂きたい そして変わったのはバイクの動きだけじゃなかった


気が付くと今までとは景色がガラリと変わっていた

ここまでは山の中の道って感じだったけど 今は山の上の道って感じだ

一気に視界が開ける 空が広い

目に飛び込んで来るのは 青 白 緑 空の青 雲の白 山の緑だ

路肩にはデカくてゴツい岩が転がってる

陽の光をうけた木々がやたらキレイだ

そんな開放感あふれる夏山の景色を見ながら走る


勾配がだんだん急になってきて250ccのスパーダじゃあキツそうだ こういう登りは排気量が物をいう

「はっはー どうしたケンゴ ブっちぎるんじゃなかったのかー?」

排気量やバイクの性能差でマウントを取りに行くのは嫌われるバイク乗りの典型だ 口だけでさほど上手くもないクセに最新バイクや高額バイクや大排気量をさも自分がすごいと言わんばかりの態度をとる勘違い野郎 そんな奴が好かれる訳もないし そんな奴にだけはなりたくないもんだ まあつまり今の俺な訳だけどw

ちなみにテルはこのかん 割りと普通に付いてきている ホント何なのアイツw


登るほどに勾配がキツくなり 時に一速まで使って走る そんな急勾配じゃあ周りを走る車のペースも当然ガクッと落ちる

大人しく車の後ろについて走り 車が増えて来たなと思ったら渋滞になって車の動きがピタリと止まった

「何だこの渋滞 事故でもあったかや~?」

「どうする?」

「路肩行けるか?」

「ゆっくり行くか」

俺達は3台並んで車の脇をゆっくり走りだした

長い渋滞の列が続く 動く様子は無い

と路肩にクマガヤさんが止まっていた 近付いてバイクを寄せると

「上行っていいよ 後から行くから」との事

「わかりました」と返事をして走り出すと今度はクスダさんが止まっていた

バイクを寄せるとオーバーヒートだという

「アマイは先行ったからサイトウ達も行けるなら先行きな オレも水温下がったら行くから てゆーかバイク何でもない?」 

「そう言われるとフケが悪いっていうか 何か変かも」

俺のXJRは空冷だから水温も何もないし油温計もない やばいのか?と思いつつ先に行くことにした


頂上に近づくと もう渋滞なんだか路駐してるんだか分からない状態だ

車を降りて路肩を歩いている人もいる

「どうなってんだコリャ」

調子の悪いエンジンを吹かし気味に頂上の駐車場に辿り着くと渋滞の理由がわかった

駐車場はすでに車で一杯で入る余地がなくて交通整理の人も困っているみたいだ

一台出て一台入るみたいな感じだろう

すり抜けて行くと バイクはあっちあっち と指示されて駐車場脇の空きスペースに行かされる

ゆっくり走っていくとアマイさんがCBを停めていたので 俺達も並んでバイクを停めた

「お 来れたか」

「はい何とか」

「クスダさんとクマガヤさん大丈夫ですかね?」

「ん〜大丈夫じゃね?ニンジャは水温が下がれば来れるだろうし クマガヤさんもキャブをFCRに替えてから何回かあるみたいな事言ってたし やっぱセッティングがシビアなんかな? 標高が高いからなあココ」

「そうなんすね」


四人連れ立って眺めの良さそうな方に歩いていく

「お〜」

「うお〜 すげぇ」

「ん〜」

「おお〜」

その景色は 本当にすごい景色だった

言葉を失う まさに絶景だ


まず圧倒的な開放感 夏空が遥か先まで広がっている

見上げると その青は濃く深く そして近い 見ていると空が迫ってくるような 覆いかぶさって来るような そんな錯覚におちい

視線を移せばその青空をバックに真っ白な入道雲がモクモクと立ちのぼっている しかもバカでかい

山がまた美しい 目の前から緑の絨毯じゅうたんが広がってそのまま遠くの山々につながり その広さ大きさに圧倒される 陽の光を浴びた木々は緑一色ではない 光と影によって 明るい綺麗な黄緑から生命力あふれる緑 黒に近い深緑まで どこを見ても美しい 

爽やかな風が吹き木々を揺らして渡っていく ふと日が陰り 風の後を追うように低い雲が山肌に影を落としながら流れていく


ああもう! 俺の語彙ごい力じゃあこの景色を この感覚を伝えられなくてもどかしい! 言葉を並べれば並べるほど嘘くさくなっちまう

だからやっぱりこの景色にふさわしい言葉はこれだと思う


乗鞍 すげえ!!




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