第40話 マフラー交換

「ただいま〜…」

一日の仕事を終えて会社から帰ると玄関にデカいダンボールが置いてあった

(来た!)

仕事の疲れが一気に吹き飛ぶ

靴を脱ぐのももどかしくテープを剥がして中を確認すると銀色に光るパイプが見える

「おかえり 何かでっかい荷物が届いてるけど…」

と言いながら母親が近づいてくる

「バイクのマフラーだよ」顔がニヤけるのを止められない

「何よ もう壊れたの?」

「違うよ!これに替えると格好良くなって性能も上がるの!」

「ふーん… ご飯でいいのね?」

「あ…うん 食う」

歩いて行く母親の背中に ’興味ナシ’ とでかでかと書かれていた

俺は急いで晩飯を食って ダンボールを自分の部屋に運んで開けていく

(おお〜 カッケェ…)

ダンボールの中身は

OVER のフルエキ ステン・カーボンだ


最初はバンス&ハインズのSS2Rにしようと思っていた リボルバーを思わせるアルミサイレンサーが格好良いのだ でもSS2RがXJRにすんなり付くのか分からなくて悩んでいた そんな時オーヴァーフルエキのアップタイプを装着したXJRを雑誌で見て目を奪われた

ピカピカのステンレスパイプとノーマルよりもケツがカチ上がった黒いカーボンサイレンサーの組合せ

これだと思ってソッコーで注文した


次の日 車に積んで会社に持っていった

そして昼休み

ダンボールを休憩所に持っていき 俺はニヤニヤしながら

「マフラー買っちゃいました」

「お〜 買ったんだ」

「どこのよ〜?」

「オーバーです」

「いいじゃん カッコいいじゃん」

クスダさんもアマイさんも自分の事みたいに喜んでくれてるのが嬉しくて 俺は更に笑顔になる

「フルエキか 高かったら〜?」

「はい もう金がないですw」

「だろうなw」

「明日仕事終わりにここで替えようと思ってるんですけど…」

「工場長に言っとけよ〜」

「はい」


そして次の日

バイクで通勤した俺は 早くマフラー交換したくて仕事どころじゃなかったし ずっとニヤニヤしてたと思う


そして仕事終わり

作業に付き合ってくれてるクスダさんとアマイさんに見守られながら ノーマルマフラーを外していく

フランジのボルトが錆びていたけど さほど手こずることなく外す事ができた エンジンの排気側にはポッカリと穴が空いているだけで何も付いていない状態になった

そこでふと思った

「この状態でエンジンかけたら超爆音ですかね?」

「ん? かけてみりゃいいじゃんw」

「やってみw」

二人とも悪そうな顔をしている

「壊れないっすよね?」

「だいじょぶじゃね?」

「じゃ かけてみます」

キーをオンにしてドキドキしながらセルをまわすと


キュキュキュッ

ポポンッ ポョンッポポッポョッポッポッ…

変な音がして慌ててセルスイッチから手を離す

「何すか!? 今の!?」

「ぷっ… 何いまの!?」

「ポヨンポヨン言ってたぜ!?」

「あっははははっ!」

「うははははっ!」

世にもマヌケな音がして 3人とも大笑いだ

「あっははは マフラー付いてないとこんな音するんだ!?」

「もっかいやってみ?」

「じゃ 今度はちょっとアクセル開け気味でかけてみます」


キュキュキュッ…

ポッ ポッ… ガァアアンッ!! 爆音が轟く!

「うおっ!」

「かかった!」

更にアクセルをあおる!

ガガァァアーン!! ゴガガァアアーン!!!

(すげぇ!!)

とんでもない轟音が響き工場のシャッターがビリビリ震える

「ちょっ!待て待て!止めろ止めろ!!」

(やばっ やりすぎたか!?)

キーをオフにして恐る恐る二人を見ると

「うははっ!とんでもねぇ音だったな!」

「うるさすぎる!近所から苦情が来るわw」

「…ははっ カミナリみたいだったっすね!」

俺はホッとしてマフラーを取り付けにかかった


フロントパイプからボルトを仮止めしながら集合部 サイレンサーと差し込んでいく 差し込み部はスプリングを引っ掛けて止める

「バイクのマフラーって差し込むだけなんすね」

「そうだな 車だとつなぎ目はガスケット挟んでボルト締めが普通だけどな」

全体のバランスを見ながらボルトを本締めしていく

そして…

「出来た!」

「おー いいじゃん!」

新しいマフラーが取り付けられたXJRを見て俺はニマニマしていた 控えめに言って超格好良い!

「じゃ さっそく…」とワクワク顔でエンジンをかけようとすると

「待て待て パイプに付いた指のあとパーツクリーナーで拭いとかないと焼き付いて残るぞ」

「あっ そうなんですか?」

「焼き色だけじゃなくて指のあとがベタベタ残ってもいいならいいけど?」

「…拭きます!」

「まあ キレイな軍手して作業すればそんな事しなくても済んだけどな」

「最初に言ってくださいよ! あ… でも届いた時すでにベタベタ触ってました…」

「じゃどっちにしてもダメじゃんw」


パーツクリーナーとキレイなウェスでパイプを拭き上げる

「出来た! よし じゃあ今度こそ… いいっすよね?」

「どうぞw」

「じゃ… いきます」

キュキュキュ…

ブォオーン!

何回かレーシングする

ブォオオーン! ブォォオオーン!

更に高回転へ

フォァァアーン! フォアアーーン!! 

「カッケェ!」

「爆音って感じじゃあないな」

「レーシーないい音するじゃん」

アイドリング付近から低回転はブォォォ… って感じで 高回転域はフォォオーン!って感じの高音だ

ノーマルよりも音は大きいけど耳障りじゃない上品な音だと思った

「空冷は乾いた音がするって言うけど回したときの高音がいいな」とはクスダさんだ

「確かに 相当抜けがよさそうっすね」とアマイさん

「エグザップ取っちゃうと下がスカスカにってやつだなw」

「あ〜 マンガで見た気がする」

「まあ実際低速トルクは落ちるだろうな〜」

「そんなに変わりますか?」俺は少し不安になる

「そんかわし上が伸びるぞきっと」

「まあ乗ってみな それが一番手っ取り早い」

「ですよね 付き合ってくれてありがとうございました」


片付けをして着替える

メットとグローブを丁寧につけてキーをオン そしてエンジン…始動

キュキュキュッ ブォオーン!

まだ排気音が聞き慣れない

「調子に乗ってコケんなよ〜」

「気を付けて行けよ〜」

「はい お先に失礼します」

クスダさんとアマイさんに見送られながらバイクをスタートさせて道路に出ていく


(さて… じゃあまあ 取り敢えずは諏訪湖一周か)

ブォオオーン!

俺はアクセルを開けて走り出した



















 


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