第39話 事後報告

ケンゴの場合

「コケた!?」

「ん〜 もう結構前だけどな」

「ケガは!?」

真っ先に体の心配をするのがケンゴらしい 電話の向こうで本気で心配してくれているのが分かる

「あ〜 ケガはほぼ無し バイクは廃車だけど」

「廃車!? 何やってんだよ…つか良く無事だったな」

「メットと革ジャンのお陰かな」

「…まったく どこでよ?」

「遠嶺で スピード出しすぎて曲がれなくてガシャーンって」

「はあ〜… まあケガが無くて良かったけど 気を付けろよな〜 カツはしっかりしてるように見えて結構やらかすからなあ」

「ケンゴにだけは言われたくねぇよw まあでも確かにあん時は調子に乗ってたわ」


「でも そうか… これで当分バイクはおあずけだなぁ…」

残念そうにケンゴが言う 俺がもうバイクに乗らないと思っているのかも知れない

俺は空とぼけて

「そうだなぁ 梅雨だしなぁ」

「いやいや そうじゃなくて… バイク廃車なんだろ?」

俺はニヤニヤしながら 努めて何でもない事の様に

「ああ だから新しいバイク買ったよ」

「は!? マジで!?」

コレを伝えるために電話したんだ

ケンゴの驚いている顔が目に浮かぶ

「マジw」

「良くまた乗る気に… いや良く金あったじゃん」

「ギリギリな もう無いけど」

「はは… マジか… もうコケんなよ!」

「ああ コケるのもう当分いいわw」




テルの場合

「コケた!?」

「ん〜 もう結構前だけどな」

「何やってんだか…」

電話の向こうでテルが黙る

「え? それだけ?」

「何が?w」

テルのニヤニヤした顔が目に浮かぶ

「いや普通 ケガは!?とか どこで!? とか聞くだろ!」

「ああ…んじゃあ… え!?カツ コケたん!?ケガは!?体は大丈夫なん!?」

「いや 白々し過ぎるわ!」

「どこでやったのよ!?相手は!?オレに出来る事があったら言えよ!?」

「いやごめん…もういいわ」

「電話してくるって事は無事って事だろ?w」

「そうだけども もうちょっとこう…」

「バイクは?」

「…廃車 でも新しく買ったから」

ビックリさせる気も失せて普通に伝える

「え!?マジ!?買ったん!?」

「おい!コケたって言った時より食い付いてるじゃねえか!」

「何買ったのよ?」

あまりにもいつも通りなテルに毒気を抜かれる

「はぁ〜… XJRだよ 色は青」

「またXJRか 好きだねぇw」

事を大げさにしない為に 敢えてふざけて接する これがテルの気の使い方だ


「メットと革ジャンも新しくしたよ 保険で 今度自慢するわw」

「保険て何よ?」

「結構な額おりてさ 白のアライとバンソンのシングルライダース 超格好良いぜ」

「どっちもタダでもらっといて何だよ〜 やらなきゃ良かったわ〜」

「まあ ケンゴにも言ったけど メットと革ジャンのお陰でたいしたケガしなかったんだと思うよ マジ助かったわ」

「そう思うんなら今度コーヒーでもおごれよな」

「覚えてたらなw」

「でもまあ… ケガが無くて良かったよ…」 

「おう だから梅雨明けたらツーリング行こうぜ!」

「ははっ! またコケても知らねぇぞ〜」

「もうコケねぇよ!」




母親の場合

「俺さあ この前バイクでコケたんだよね」

晩飯を食いながら言う

「で バイク買い替えたんだよ」

「やっぱり おかしいと思ったよ バイクの色が変わってるし」

「ああ ごめん」

「一人で転んだの? 誰か一緒に居たの?」

「ああ クスダさんとアマイさんが一緒だったけど単独の自損だよ」

「誰かを巻き込んだりはしてないのね?」

俺にケガもなく体が無事だって事は分かってるからかそこには触れてこない

「巻き込んだっちゃ巻き込んだかな…コケた後クスダさんとアマイさんが色々助けてくれたんだ」

「ホントにもう よくよくお礼言っときなさいよ」

「分かってるよ」

「だからバイクなんか… 大ケガしてたかも知れないんだからね?」

大ケガどころか死んでいたかも知れないとは言えなかった

「…分かってる」


もうバイクに乗るなとは言われなかった

心配をかけているのも バイクに乗って欲しくないと思っている事も分かっている

でも俺はバイクに乗ることを選んだ

新しくバイクを買ってから伝えたのも その意思表示の為だ

「バイクだから 絶対コケないとは言えないけど気を付けるよ 今回のは俺が調子に乗ってスピード出しすぎたのが原因だから」

「とにかく 危ない事はやめてよね あんたに何かあったら…」

「分かってるよ あ バイク替えたついでにマフラーも買ったから」

空気を変えたくて声を張って話しをそらす

「近々デカい荷物届くと思うから」

「あんたは…ホントに分かってるの?」

「分かってるって 超格好良くなるから で安全運転するから」

「ホントにもう… なんだか分かんないけど とにかく気を付けなさいよ」




心配をかけたくないと思っているし

気を付けて走らないといけないとも思っている

でもバイクに乗っていると忘れてしまいそうになる

走ることが楽しくて もっと上手に もっと速く と

バイクが危険な訳じゃない

全ては乗り手次第なんだと思うし バイクに限った事じゃないよな とか

そんな事を考えた






























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