第35話 ターニングポイント

母親には バイクが壊れたから修理に出した 結構時間がかかると思う と嘘をついた

クスダさんの言うとおり 時間が経つにつれて体のあちこちが痛くなってきたけど どうやらスリ傷と打撲で済んだみたいだ

ヘルメットや革ジャンなんかの装備はダメになってしまったけど


次の日 改めてバイクを見たけどそこら中バキバキだった

フロント周りは大破 タンクはへこみ マフラーは取れかかり ノーダメージのパーツの方が少なそうだった

でも バイクがこんなにダメージを受けるほどのスピードでコケたのに 俺の体は ほぼ無傷

運良く対向車が来なくて 運良くガードレールにぶつからなくて 運良く大ケガをしなかった

運が良かったとしか言いようがない


死にそうな目に会って バイクも壊れた こんな事があれば

もうバイクに乗るのはやめよう とか

バイクを運転するのが怖い とかなっても不思議じゃないと思う

なのに 俺が考えている事は

バイクの修理代いくら位かかるかなぁ

あんまりかかるなら買い替えたほうが良いかなぁ アマイさんもフレームまで逝ってるかもって言ってたしなぁ

メットと革ジャンも買わなきゃだよなぁ とかそんな事ばかり考えていた


冗談抜きで 死ななかったのは運が良かっただけ 一歩 いや半歩でも間違えれば本当に死んでいたと思う そう頭では理解しているつもりなのに

(いやいや そうは言っても死にはしないでしょ)

とか もっと言えば

(自分が死ぬ訳が無い)

そんな考えしか出てこなかった


もしかしたらこの時の俺は 事故直後に体の痛みが麻痺していたのと同じ様に

真の死の恐怖から精神を守るために 恐怖心が麻痺していたのかも知れない

それとも ただ単に何も考えていないだけのバカだったのか

そんな事は確かめようがないけど はっきりしている事もある

それは この時俺は バイクに乗る事を選んだって事だ



 


 

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