第36話 中立
私はどちらかと言えばインドア派だ
昔からゲームや読書が好きで 休みの日には1日中ゲームをして本を読んでゴロゴロして 家から一歩も出ないなんてザラにあったし 部屋に一人で居る事は少しも苦じゃなかった
だからと言って 人付き合いや 体を動かしたり外に出るのが嫌いという訳でもない
学生時代は運動部だったし 友達を家に呼んで遊んだり BBQしたり スノボに行ったり 週末飲みに行ったりも普通にしていた
それでもやっぱり 一人で家に居る時間の方が間違いなく長かったと思う
別にそれがダメだとか 良くないとか言うつもりは無いし 自分の好きな事 やりたいことに時間を使っているのだから 有意義な休日の過ごし方だと言って良いと思う
でも… 楽しいはずのゲームや本を 楽しいと感じない日があった
そんな日は 見慣れた自分の部屋がやけに狭く感じて
何故かは分からないけど 何か行動を起こさなきゃいけない様な気になって
外に出なきゃいけない様な気になって
(こんなに良い天気なのに家に閉じ籠もっていて良いの?)と言われている気がして
だけど… 外に出て何をするの?
どこに行くの?
何の為に行くの?
友達に電話してみようか? でも予定があるかも知れないな…
そんな様な事を考えて もやもやして
結局 何もせず 何も行動を起こさず休日が終わる
そんな事を感じたり そんな事があるのは私だけなのか それとも世間一般に普通にある事なのかは分からないけれど
少なくとも 私にとって もやもやして悶々とした日は 楽しくはなかったし 良い気分でもなかった
そして そんな日は忘れた頃に ひょこっ ひょこっ とやって来た
それがある時を境に ほとんどやって来なくなった
そう バイクを手に入れてからだ
それは 大げさに言うのなら 世界が変わった というやつだ
特に予定のない 良く言えばのんびり 悪く言えばダラダラした休日
窓から差し込む陽の光に目が止まる
(家に居ていいの?)何かが囁く
「よし 出かけよう」
革ジャンをはおり ジーンズにウォレットを押し込み グローブとメットを身に着ける
後はバイクにまたがり走り出すだけだ
(どこに行くの?)
決まっていない
(何をしに行くの?)
バイクで走りに
(何の為に行くの?)
さあ?分からない
ほんの30分 諏訪湖を一周するだけでも良い
峠の自販機でコーヒーを飲むだけでも良い
気になっていた店に行ってみても良い
気分が乗らなければ Uターンすれば良い
気分が乗れば 陸の終わり 海まで行っても良い
お腹が空いたら目に付いた食堂に寄れば良いし コンビニでおにぎりを買って駐車場で食べても良い
ルートは自由
ペースも自由
目的地も自由
ただ一つ決まっている事は
最後は必ず 家に帰る という事だけ
バイクで走りながら自分を解放する
「暑いなあ」
「寒いなあ」
「風が強いなあ」
感じた事をそのまま言葉に乗せて開放する
「どこに向かってるんだ俺は」
「何で走ってるんだ俺は」
思った事をそのまま言葉に乗せて開放する
「♪〜♫〜♬〜」
思いついた歌をメットの中で開放する
そして走る
アクセルを開けて加速し
バイクを傾けてカーブを曲がり
ブレーキをかけて減速し
足を付いて立ち止まり
そしてまた走り出す
前が空けば加速して
カーブが来ればバイクを傾けて
前が詰まれば減速して
シフトアップして
シフトダウンして
ドウゥゥゥー…
右手に合わせて排気音が響く…
ゴオォォォー…
スピードに合わせて風が鳴り 風景が流れる…
視線を 先へ 先へ…
バイクは 前へ 前へ…
やがて私の頭の中は バイクで走る その一色に染められる
「ふ〜 … 」
いつしか自然に呼気が漏れ
呼気と共に もやもやが 悶々が 吐き出される
解放し 吐き出したあと 私の中に残っている物は
自然体の自分
素直な自分
物事に真摯に向き合える自分だ
そこからは吸収が始まる
ふと見上げた空を 広い と感じ
木々の緑を 美しい と感じ
風を 心地良い と感じ
陽光を 眩しい と感じる
そして家が近付けば 見慣れた風景に 安心 を感じる
当たり前の事を 当たり前のように感じる
自分の
―─ もし あなたが もやもやした感情を抱いたことがあるのなら
悶々とした日を過ごしたことがあるのなら
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バイクで 走れ
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