第34話 早朝、峠、衝撃 その2

塩尻側は岡谷側と違って 道幅の広い上り二車線でキツいカーブも無い だから岡谷側よりもスピードレンジが上がる あれ?これ前にも言ったっけ?

下りは一車線で 今は下っている最中だ 下りは流して上りのみ攻めるらしい 途中の自販機の所か最初の信号の所でUターンするみたいだけどどっちにしてもかなり距離が長い

今のうちに説明しておくと 上りの前半はそれなりにクネクネしていて後半は緩いカーブだけのほぼ直線に近い道になる 普通に100キロとか出せるんじゃないだろうか 車でもバイクでも何度も走っているから道は知ってるけどそこまでのスピードを出した事はない もしかしたらこれから出すかも知れないけど


10分位下ったかな 最初の信号近くの転回できる場所で一旦停まる

「んじゃ こっから頂上まで行くから サイトウ こっち側はスピードがから気をつけろよ?」 

「?はい わかりました」

「よっし 行くかぁ」


赤信号で3台が並ぶ シグナルスタートだ

ガァァアアーッ!!ヴォァアーッ!!

信号が青に変わりニンジャとCBが加速して行き俺も付いていく 少しスピードを抑えめにしているみたいだ

最初のコーナー 二人は腰をイン側に少しずらして曲がっていく その動きはスムーズでむしろゆっくりにも見える なのに

(同じスピードで曲がれない!)

車線をはみ出しそうになって慌てて減速する

(くっそー!何が違うんだ!?)

コーナーを抜けてアクセルを開けると二人が少し近付く気がする

直線は本気で開けてない? それでも 2つ 3つとコーナーを抜ける度に徐々にペースが上がっているのか みるみる差が開いていく

けど 塩尻側は見通しが良いから遠くに二人が見える

二人との差を少しでも縮めたい!


三人の走り 特にクマガヤさんの走りに感化されていたのか それともまた 自分にも出来ると勘違いしてしまったのか 俺はコーナーで遅い分を取り返そうと直線ではアクセルを目一杯開けて走った

コーナーを速く走るには技術がいるけど 直線は誰でもスピードが出せる アクセルを開けるだけで良いからだ

でも俺は気付いていなかった これこそがクスダさんの言う 《無理に付いて行こうとして自分の限界を超えている状態》だという事に…


こっから先はキツいコーナーは無い

頂上までに少しでも追いつくぞ!

俺はアクセル全開で加速しながら登坂車線の車を1台ズバッと追い抜く

この時点で自分では制御不能なスピードをしまっていた

この先はコーナーとも呼べない様な緩いS字だ

まずは右

(え? バイクが倒せない!?) 

そして左

(ダメだ!速すぎる!曲がれない!) 

俺は咄嗟にブレーキをかける!

バイクは直立し道路とほぼ平行に対向車線に飛び出して行く!

頭が真っ白になり 体が硬直する

右側にガードレールが迫る!

(くっ…!!)

ブレーキを更に強くかけた瞬間!!

ガシャンッ!!ガリガリッ!!ゴゴッ!!ザザザーッ!!

耳を塞ぎたくなる様な音と衝撃が俺を襲った

そして静寂…


―─ 俺は恐怖のあまり閉じてしまっていた目を開けた

目の前にガードレールが見えた

俺はガードレールの真下に倒れていた

早く動かないと と思った所で冷静な自分が待ったをかける

もし 首の骨や背骨が折れていたら?そう思うと怖くて体が動かせない

とは言え いつまでもこのままではいられない

俺は意を決し(頼む…!)

祈るような気持ちで慎重に首を動かした

痛みは… ない

「ふうぅ…」

次は手足を動かす

(…大丈夫だ 動かせる)

そして

ゆっくりと体を起こす

「はああぁぁ〜…」

俺は大きく安堵のため息を吐いた

どうやら大ケガはしていないみたいだ


俺はゆっくりと立ち上がってグローブとヘルメットを外した グローブは破れ ヘルメットは傷だらけでシールドが無くなっていた

自分の体を見ると 革ジャンの左袖とジーンズの左足が破れて 脚のすり傷から血が出ていたけど深くはなさそうだった 不思議と痛みもない

辺りを見回すと 数メートル先のガードレールに潜り込むようにXJRが倒れているのが見えた

(あそこなら車の邪魔にはならないよな…)

俺は路肩の安全な場所まで一歩一歩体の具合を確かめながら歩き

(やっちまったぁ… ああ…どうしよう…どうすればいいんだ?…)

冷静なつもりだけど どうしようから先に考えが進まない 俺はその場にへたり込んでしまった


ガウッ ガウウーン! ヴオォーン!

クスダさんとアマイさんが戻って来て 俺の方に駆け寄って来る

「サイトウっ!」

「大丈夫かっ!」

慌てて走ってくる二人を見て俺は立ち上がった

「良かった…大ケガはしてないみたいだな 取り敢えず座ってろ 頭痛いとかないか?」

「オレ バイク見ときます」

「ああ 頼む」

アマイさんが離れて行く

「体は大丈夫っす」

「いや 事故った時は痛みが麻痺してるんだ 骨折にも気づかないとかあるからな だんだん感覚が戻ってくると痛みも出てくるはず」

「すんませんクスダさん…」

「はぁ… 何でこんな何でもない所で… いや… もっとゆっくり走るべきだった ごめんな…」

「いや クスダさんは何も悪くないっす 俺が調子に乗って勝手にコケただけなんで すんません…」

「まあとにかく 体が無事で良かったよ」

アマイさんが戻ってきて

「バイク廃車かもな…フロントから突っ込んでホイールとフォークが変形してる フレームまでいってるかも知れんわ そこら中ガリガリだしな」

「そうですか…」


それからは クスダさんの後ろに乗せてもらって峠を下りて 会社の車を借りてXJRを取りに行き ひとまず会社の駐車場に降ろした

道中 車の中で俺は沈黙を嫌ってペラペラとしゃべり続けた

「いや〜 道路のギャップではねちゃって…」とか

「車がいて曲がりにくくて…」とか

「マジで 対向車がいたら死んでましたよw…」とか

言い訳じみた事や笑って済ませようみたいなカッコ悪い事をペラペラと…


俺がコケる直前に抜いた車のドライバーがクスダさん達に「バイクがコケてたぞ 君らの仲間じゃないか?」と知らせてくれたと聞いた

自分がコケた理由もハッキリしてる

スピードを出しすぎてビビって曲がれなくて握りゴケした ただそれだけの事

クスダさんに何度も何度も「無理に付いてくるな」「自分の限界を超えんな」って言われていたのに

「スピードを出せちゃうから気をつけろ」って言われていたのに

俺は自分が情けなくて カッコ悪くて…














 


 




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