第33話 早朝、峠、衝撃

俺はクスダさんとアマイさんに続いて遠嶺をゆっくり上っていた

休みの早朝なら車が少ないだろうという狙いだけど 確かに車がいない 前にもいないしすれ違いもしない 俺が知ってる遠嶺とは違う場所みたいだ


クスダさんが左側の駐車スペースに入りバイクを停めた

アマイさんと俺もバイクを停めると

クスダさんが近付いてきて

「え〜とな ここから頂上まで道の状態を見ながら上って 頂上でUターン で またここまで走る 良い?」

「はい」

「んで 二往復目からペース上げるから で まあ行けそうなら何往復もする と わかった?」

「わかりました」

「あと くどい様だけど 絶対ムリに付いてくんなよ?自分の限界超えるとコケるからな?良い?」

これは 俺がバイクに乗り始めてから何度もクスダさんに言われている事だ

「はい わかりました」

「さて…んじゃあ 行ってみるかぁ」

(おお…緊張してきた…)

クスダさんがニンジャに跨がり走り出す

ガウッ ガウウゥー

ヴォン ヴオォォー

アマイさんが続き 俺も走り出す

峠に来て 気分が上がっているのか クスダさんのペースが速い気がするけど 秘密特訓が効いてるのか付いては行ける

頂上でUターンしてさっきの場所まで下って来る 道路の確認はOKだ


ガウッ ガウッ

クスダさんが後ろを確認しながら走り出す

(よし! 行くぞ!)

と気合を入れたけどクスダさん達は普通に走り出す

(あれ?二往復目から行くんじゃなかったっけ?)

と思った瞬間

ッガァァアアーッ!!

ヴォァアアアーッ!!

(うわ!? 音が!!)

今まで聞いた事がない音を響かせて加速して行く!

(え!? え!?)

一瞬訳が分からなくなり 慌てて俺も加速するが すでに二人の姿は見えず

ガァアアーッ! ヴォァアーッ!と排気音だけが聞こえる

(速っ! 付いていくどころじゃない!)

俺は必死にペースを上げて頂上まで走ると 二人はすでにUターンして待っていた

アマイさんの後ろに付くと クスダさんが振り返り 俺に(行けるか?)と目で聞いてくる 俺はメットをコクリとうなずかせた

ガウッ ガァァアアッー!!

ヴォン ヴォァアアーッ!!

2台が加速して行く! 今度は俺も何とか付いていく が

(速っ!!)速さにビビってアクセルが戻る

二人は腰をイン側にずらしてコーナーに突っ込んで行く!

(うおお〜! すげぇ〜!)

俺も目一杯飛ばしてるけど コーナーを2つも抜ける頃にはまた二人は見えなくなる

下のUターン場所で転回して二往復目

二人の走りを見たいけどまるでついて行けない

頂上まで走るとクスダさんが振り返る 正直俺はすでに結構キてたけど 流石にまだギブアップするには早すぎると思ってうなずく

もう一度下って 上って来る頃には俺はヘロヘロだった

頂上に着くと 満足したのか俺がヘロヘロなのに気付いたのか二人は少し奥にバイクを停めて降りていた 俺も近くにバイクを停めて降りる

(速く走るってこんなに疲れるのか…いや 全然速く走れてはいないけど…)


「どうよ サイトウ」

「いや どうって言うか 訳分かんないですけど 二人がメッチャ速いって事は分かりました…」

「ははっ そうか 久し振りの峠でテンション上がったわ」

「まず音がすごくてビビりましたよ 引っ張るとあんな音がするんすね」

「ああ 街中じゃあんなに上まで回さないからなぁ」

「て言うか ツーリングの時ってホントにゆっくり走ってたんすね」

「そう言ったろ?」

「でもこれでもまだ全開じゃないんですよね?」

「そうだなぁ まだ余裕はあるかな なあアマイ」

「そうっすねぇ」

「はあ〜 もうすごいとしか言えないっす…」

「まあでも うちらよりも速いやつなんていくらでもいるからな」


そんな話をしていると

ッカァァアアアーッ!!

バイクの排気音が聞こえてくる

「おっ 開けてんなあ」

フォンッ ァァアアアーッ!!

すごいスピードでバイクが通り過ぎる

「あれ?クマガヤじゃん」

「え?クスダさんの知り合いですか?」

「昨日話した 鬼バンクの片割れだよ 見ててみ 多分Uターンして来るから」

と言って道路に近付いて行くと


ウォン! ウォァアアアーッ!! 

!!

ビビる位のスピードでバイクが目の前を通り過ぎ そのままのスピードで下りのコーナーに突っ込んで行く! 次の瞬間!フォンッ! ペタリとバイクが寝たかと思ったら ガガガガッ!「あっ!?」

俺はそのライダーがコケたと思った が

ゥォァアアアーッ!!

バイクが起き上がり加速して行く!


まさに 衝撃だった


「え! な、何すか今の! 俺 絶対コケたと思いましたよ!」

「クマガヤさんあいかわらずっすねぇ」

「ああ あいかわらずおかしいなアイツは…」

クスダさんが呆れた様に言いながらバイクの近くに戻る

「え?え? バイクってあんなに寝かせて走れるんすか! それにガリガリッて!て言うか速っ!」

「ああ あれは膝のバンクセンサーが擦れる音だよ ちょっと落ち着けw」


(すげぇ! すげぇ!! )


俺の中に《バイクは速くて格好良い》という子供じみた考えが刻まれた瞬間だった


「ちなみにアイツのバイクもXJRだぞ?1200だけどな」

「1200!?俺のバイクの…4倍!? はあ〜…」

もうため息しか出ない

そこへ ヴォン ヴォォォォ…ボボボボ…

XJR1200が入ってくる

「お 来た来た」


そのライダーはシールドを上げてニカッと笑い

「おいっす 珍しいじゃんクスダが峠に来るなんて」

「会社の後輩が峠を走りたいって言うから連れてきたんだよ」

「はざっす」アマイさんが挨拶する

「ああ アマイくん ちわっす …と誰だっけ?」

「そいつはサイトウ まだ免許取り立てなんだよ」

「はざっすサイトウです」

「ああ ちわっす」

「クマガヤこそ珍しいじゃん遠嶺に来るなんて」

「今日は時間なくてさ タイヤの皮むきだけしに来たんだよ」

「お NEWタイヤにしたのか」


クマガヤさんは革ツナギを着てても分かるくらいのヤセ型で 優しい顔をした人だった とてもあんなとんでもない走りをする人には見えなかった

「じゃあ そろそろ行くわ」

「え? もうか?」

「だから時間ないんだって」

「そうか んじゃな」

「ああ じゃあな」

走り去るクマガヤさんを 俺は憧れの眼差しで見送った


「クスダさん 皮むきって事はタイヤの慣らしってことですよね?」

「そうだな」

「て事は クマガヤさんは全開じゃなかったって事ですか?」

「そういう事だな」

「うへぇ〜 信じられない あれで慣らし運転とか…」

「真似すんなよ?死ぬぞ?w」

「真似なんか出来っこないですよ!」

「さって… どうする? せっかく来たしもう一回走るか? それとも今度は塩尻側走ってみるか?」

「え〜と じゃあ塩尻側でお願いします」

「そっか じゃあそっちにするか」

「はい」


3人の走りを見て興奮冷めやらぬ俺はバイクに跨がり走り出した





























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