第25話 隙間

3月初旬

三寒四温が─とか 桜の標本木が─とか言い始める少し前

長野県の冬はまだ終わらない

いつ雪が降ってもおかしくないし 山や陽当りの悪い場所には雪が残っている そんな時期


目が覚めたけど さむっ と思って二度寝していた俺は カーテンの隙間から差し込む陽の光を感じて目を開けた

あくびをしながらカーテンを開けると

窓の外には陽の光が降り注いでいた

休日と晴れが重なった貴重なその日

「うお! めっちゃ晴れてんじゃん」

時計を見るとすでに昼近い

あわてて飛び起きて 一階に降りる

「おはよう」

「何がおはようよ もう昼だわね」

と言う母親に

「飯食ったらちょっと出てくるわ」

と言って 食パン2枚を牛乳で流し込んだ

「ごっそさん」

「何?バイク?」

「そう ちょっと乗ってくるわ」

「気をつけなよ」

「はいよ」


着替えてバイクに乗る準備をする

「え〜と メットと革ジャンと…あ 先に暖気しといた方がいいか」

「グローブと…あれ?カギどうしたっけ」

とか言いながら階段をドタドタ登ったり降りたりしていると少し汗ばんでくる

バイクに乗りたくてウズウズしていた

「んじゃ行ってくる」

玄関から外に出ると暖かな陽射しで一杯だ

冬の陽射しとは違う

これは春の陽射しだ

キーを差し込みセルを回す

キュキュキュッ ブゥーン!

冬眠中もちょこちょこエンジンをかけていたから掛かりは良好だ

タイヤとチェーンを点検してからメットとグローブを着ける

久し振りに着けたせいかやたらと窮屈に感じた

「よっし 行くか〜」

一発目だし 諏訪湖一周にしようかと思っていたけど

あまりに天気が良かったから 快適なスピードで峠を流したいと気が変わって 塩尻峠を目指した

国道を車に続いて走る

陽射しはポカポカと暖かいけど 風は冷たい

それは 冬の空気と 春の陽射し

冬が終わった訳でもなく

春が来た訳でもない

冬と春の隙間の季節


ほどなく峠に入った

岡谷側は勾配がキツくてカーブのRもキツい 車に続いてゆっくり上る

あおってるわけじゃないからね と思いながら スラロームしながら走ったり ギュッとブレーキをかけたり 車間をあけてからガバっとアクセルをあけたり

体とバイクの慣らし運転をしながら走る

頂上を過ぎて塩尻側の下りに入ると周りの車のペースが上がる

「気持ち良い〜!」 

空は快晴

遠くには雪をかぶった山々が見える

街中よりも更に空気が冷たいけど我慢できない程じゃない

対向車線を上ってくるバイクと何回かすれ違う

(やっぱ 乗りたくなるよなあ)と嬉しくなる


塩尻インターの少し手前 小坂田公園のパーキングに入る

車はそこそこ停まってるけどバイクは居ない

なぜか自販機の前がガラ空きだったのでそこにバイクを停めた

グローブとメットを外して自販機でホットコーヒーを買おうとして まてよ…と思い留まる

走行風で体が冷えたけど 今は陽射しが暖かい アイスコーヒーもアリか?

俺は少し考えて…ホットコーヒーを買った


バイクの近くの縁石に座って日向ぼっこしながらゆっくりコーヒーを飲む

時折峠を走るバイクの排気音が聞こえてくる

体の中と外から暖められてポカポカしてきた

(アイスでも良かったかな?)

お日様の力は偉大だ

(さてどうしよう 諏訪湖も行こうかな?…まあ 走り出してから決めるか)

今度は今来た道を戻って行く

(走り出すと冷えて来るんだよな やっぱホットで正解だったかな?)


冬の空気と春の陽射し

冬が終わった訳でもなく

春が来た訳でもない

そんな隙間の季節

貴方ならホットにしますか?

それともアイスにしますか?













 









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