第23話 寒中走行

新潟ツーリングのおかげでグッと腕を上げた(つもりの)俺はちょこちょこバイクに乗っていた

仕事が終わってから軽く諏訪湖一周したり

休みに半日位で帰ってこれる近場を走ったりバイクライフを楽しんでいたんたけど 一つ問題があった

気温である

11月下旬ともなれば日中にっちゅうはまだしも日が落ちると一気に寒くなって

12月に入ればいつ雪が降ってきても不思議はない 俺が住んでるのはそういう地域なんだ

もう今シーズンのバイクは終わりかな?

とか思っていたらケンゴから電話がきた

「カツ ヨバシリ行かねぇ?」

「ヨバシリ?(どこだ?それ?)」

「そう 夜走り」

「…ああ! 夜走り」

「だからそう言ってるじゃん 次の土曜 行こうぜ」

「いや 夜はもうさみぃだろ」

「だいじょうだいじょう」

「出たよ ケンゴのだいじょうは全然大丈夫じゃねぇんだよな」

「テルにも言ってあるから3人で行こうぜ」

「ま 行くけどさ」

「良し決まりな ん〜じゃあ そんな遠くに行くつもりはないけど…取りえず8時に水門な」

「はいよ〜 了解だ」


そして今現在 12月上旬 夜8時過ぎ

「全っ然大丈夫じゃねぇ!さみぃ〜!」

自分の息でヘルメットのシールドが白くなる

手はかじかんで からだ全体がまんべんなく寒い

俺達は上川かみがわバイパスを茅野ちの市に向かって走っていた

このバイパスは上川の川沿いをはしる信号の無い道で 橋をくぐるたびに下って上ってを繰り返すジェットコースターみたいな楽しい道なんだけど

寒くてそれどころじゃない

ちなみに行き先は白樺湖しらかばこで ここよりも間違いなく寒い

白樺湖の周りにはスキー場があると言えば寒さを想像してもらえるだろうか

バイパスを抜けて茅野市街 国道152号に入って信号で止まる

「うおー 手ぇつめった」

手をほぐすようにブラブラ振って ぎゅーっと握りしめていると

ケンゴがスパーダのタンクをかかえるように前屈まえかがみになった

(何やってんだ?) と思ったら 手でエンジンを触っている

(ん?もしかして手をあっためてるのか? ニャロウそういう事は教えとけよな〜)

後ろを見るとテルはG1のポケットに手を突っ込んでいた

(あれ?サベージでも出来そうなもんだけど)

信号が変わって走り出す

(よし次止まったら俺もやろ)

とか思ってると止まらないんだよなあ

しばらく走って 蓼科たてしな方面との分岐で止まった

チャ〜ンス! エンジンを横からのぞき込んで恐る恐る手をあてる

グローブを通してじわーっとあったかさが手のひらに伝わってくる

(おお〜 あったか〜 これは良い)

触り続けるのはヤバいか?と思って手を離してグローブを見ると 溶けたり焦げたりはしてなさそう レザーグローブで良かった

手の感覚もちょっと復活 とは言え走り出したらすぐ寒さにやられるけど

白樺湖に近付くにつれて車がいなくなって 大門街道だいもんかいどう名物(多分違う)連続ヘアピンカーブに突入

俺はヘアピンがきらいだ 何故なぜならうまく走れないから

スピードを出しすぎると曲がりきれずにはみ出しそうになるし

スピードを落としすぎるとバイクが倒せなくて フラフラと不安定な曲がり方になってカッコ悪い

その走りを後ろのテルに見られてると思うとなおさらカッコ悪い

自分が下手くそなだけなんだけど 寒くて体が固まってるのと手がかじかんでうまくアクセルが操作出来ないせいだって言い訳して走る

連続ヘアピンを抜ければ白樺湖まではもうすぐだ

何もない暗い道の先に宿泊施設の灯りが見えてくる

白樺湖は湖周をぐるりと囲むように宿泊施設や遊園地 博物館やスキー場があって 特に都心からの観光客が多い人気の観光地らしいけど

今のこの時間だ〜れも居ない

ガラ空きの駐車場にバイクを止める

「うお〜 寒ぃ〜」

「誰だよ白樺湖行こうなんて言った奴は〜」

「「お前だよ!」」

「あの自販機生きてる?コーヒー買おうぜ」

「オレ便所行ってくるわ」とケンゴ

「はいよ」

テルと二人で歩きながら

「いやマジ寒い」

「寒いしか言葉が出てこんわ」

「良し じゃあ今からって言ったら100円な」と俺が言うと

「何が良しか分からんけど分かった」

「え?何が分かったん?」

「いやだからって言ったら100円だろ?」

「はい100円〜」

「うあ!ずりぃ!」

「ずるくね〜よ 分かったって言ったじゃん」

「う〜わ ムカつく〜!」

「あ ムカつくで思い出した」

「エンジンで手ぇあっためると良いって教えといてくれよ」

「ああ ケンゴがやってたな でもオレ出来ないから」

「出来ないってなんで? サベージ エンジンき出しじゃん」

「じゃなくて オレのグローブ指切りだから 素手じゃ触れんだろ?」

「指切り?マジ!?こののに? え?何それ ポリシーなの?バカなの?」

「はい100円〜 え?バカなの?」と速攻でやり返される

「うあ!しまった!」

と そこへケンゴが手をさすりながら戻って来る

「いや〜  

「「はい200円」」

「ん?何が?」

って言ったら100円てさっき決めたから」とテルが説明する

「いや知らんし!」

すかさず俺は「はいテル100円ね」

「いや今のは説明の為だからノーカンだろ!」

「…テル…勝負の世界は非情なのだよ…つらいんだよ俺も…」

「い〜やそれは納得出来ん って言わずに説明なんて出来ないだろ!」

「はいまた100円 ちなみに俺なら ’’さ’’ と ’’む’’ と ’’い’’ を続けて言ったら100円て説明するかな」

「…む……頭良いな」

「あれ?知らなかった?」

「カツはこういう事だけは頭がまわるんだよな~」

「こういう事だけまわれば十分だよ」とニヤリ


三人共自販機でホットを買って手と体を温める

ちなみにお金はそれぞれで出した 仲間内の賭けなんてそんなもんだ

「は~ あったけ~」

「走り出すと真っ先に指先やられるよな」

「あとふとももがヤバい」

上半身はライダースの下にシャツやスウェットを重ね着してるけど

下はいつものリーバイスのジーンズ グローブも普通のレザーグローブだ

もっとも上だって風の侵入がないだけで寒い事に変わりはないんだけど

「スキーウェアでも着なきゃだめだな」

「それはカッコ悪いからやだ」

カッコ良いバイクに

カッコ良い服で乗って

カッコ良い走りをする これはゆずれない

ただ 何をカッコ良いと感じるかが人それぞれなんだよな

「さって そろそろ行こうぜ こんな何もないトコにいつまでもいてもしょうがねぇし」

「こんな何もないトコに来ようって言ったのはケンゴだけどな」

「まあまあ いいじゃん 行こうぜ」

「はいはい」


バイクに戻るとテルが

「ああそうだカツ グローブこうやっとくと暖かいぞ」

と言ってサベージのエンジンの上に置いてあったグローブを取る

「あ!何それ!」とケンゴの方を見ると

「あれ?カツやってねぇの?」

と言いながらエンジンの隙間からグローブを取り出す

「だから教えとけよそういう事は~!」

「ひとつ賢くなったな~」

「次からやればいいじゃん」

「にゃろう やっぱコーヒーおごらせれば良かった」


装備を着けてXJRにまたが

「白樺湖ぐるっと回って帰ろうぜ」

「はいよー」

とは言え さほど大きい湖じゃないから一周っていってもたかが知れている

白樺湖を右に見ながら走り出すとすぐに冷気が襲ってくる

半周ほどした所でスパーダが止まった

俺は横に並びながら

「おいおい またエンジン止まるとか言わんよな」

「違う違う アレ」

と言ってケンゴが指さした先には 牛の顔部分に穴の開いた顔出しパネルがあった

観光地によくある写真撮影用のアレだ

「写真撮ろうぜ ほらカツからな」

「え?いいよ別に…」

「いいじゃんいいじゃん」

「良し いいぞ~」テルはすでにカメラを構えている

「分かったよ」

俺はヘルメットのままパネルに顔を合わせる

「撮るぞ~」パシャ! 写ルンですのフラッシュが光る

「良しオッケー 行こうぜ~」

「何だよ 2人共撮れよ」

「「やだよ カッコ悪い」」

「あのなあ なんで俺だけ…」

「1人撮りゃ十分だよ」

「寒っ! 早く行こうぜ」

「まったく…」


バイクに戻り 3台連なって走り出し おとなしく来た道を戻りながら考える

寒い時期の 寒い時間に だ〜れも居ない白樺湖に来る

それもわざわざバイクで

寒さに震えながら エンジンで手を暖めながら走って 寒い寒いと文句を言って バカ話をして 100円で暖まって 訳のわからん写真を撮って また震えながら帰る

何やってんだか と自分でも思う

けど これが楽しいんだ

これがもし バイクじゃなくて車だったら? 男3人1台の車に乗って だ〜れも居ない白樺湖に来て 帰る

つまらない事はないと思う いやコイツらとならきっと楽しいだろう けど

今日ほど楽しくはないと思うんだ

バイクだから って思うのは 俺がバイクが好きだからかな?

バカで 楽しくて バイクが好きで そんな奴が 3人も居る

そんな事を考えてたら嬉しくなってきて 自然と笑顔になってしまう

なんだか心と体までポカポカしてきた

…なんて事はなかった


「あ〜っ!さみぃぞコノヤローっ!!」


俺はギアを2速落としてアクセルを開けた…


 



























 






 







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