第22話 初ツーリング っていつまで?

「到着~」

「お疲れ~」

「着いた~」

三者三様に声をあげ装備をはずす

自販機でダイドーのショート缶 紅茶花伝のミルクティー ケンゴは良く分からん飲み物を買ってみんな座り込んだ

テルとケンゴはタバコに火をつけ

「ふ~…」とうまそうに煙を吐き出す

「そんなにうまいモンかね タバコって」

「おこちゃまには分かんねぇだろうなあ」

「うまいって言うか もう習慣だな~」

「ま 人それぞれって事か」

「そんな事より 初ツーリング どうだった?」

「あん?どうも何も…(楽しかった)」 と言葉を飲み込み

「どうもこうもねぇよ 疲れるわ ケツ痛てぇわ 海まで遠いわ 立ちゴケするわ スパーダ止まるわ 雨に降られるわで さんざんな目に会ったわ!」

「ははっ!そうだな~」

「で?」

2人はニヤニヤしている

俺は笑顔になり

「おかげで 超~楽しかったわ!!」

「だろ?」

「だから言ったろ? バイクは楽しい って」

「ああ! それに (2人が一緒だったからな…)」

「それに なによ?」

「それに… ラーメンも美味かったしな!」

「ラーメンかよ!」

「ツーリング関係ねぇ~」

「まあ 美味かったけども」

「空腹は最高の調味料って言うしな」

「そこはツーリングだからって言っておけよ!」

そこからはもうツーリングの話しが止まらない

同じ時間を共有した事

バイクツーリングという新たな繋がりができた事

ツーリング直後で興奮していた事で 次から次へと言葉が溢れ出す

話題はツーリングの話しに留まらない

そういえばこの間さあ…

会社でさあ…

色んな話しをした

話の間 二人の顔はずーっと笑顔だ

俺もそうだっただろう


ひとしきり話して ふっと話しが途切れた

「いや〜話し込んじゃったなあ」

「そうだな〜 そろそろ帰るか」

「腹も減ったし」

とっくにコーヒーは飲み終わり ケンゴとテルの足元にはタバコの吸い殻が何本も落ちている

「じゃあココで締めで 流れ解散て感じか」

「うい」

「あ でも家に帰るまでがツーリングだからな!」

「遠足かよ」

それぞれに装備を着けてエンジンをかける

ブルルンッ ブゥーン ドドンッ

今日一日で聞き慣れた排気音が響く

「お疲れっ!」

「じゃーなー!」

「お疲れー!」

3台連なって走り出して 俺が最初に隊列を離れる

ウィンカーを出してプッとホーンを鳴らす

ケンゴとテルが左手を挙げて走って行く

(カッコいいじゃん…)


二人と別れてから家まではほんの5分だけどとても心細く感じた

家にだどり着いて いつもの場所にXJRを停める

(これでツーリングも終わりだな…)

家に帰ったら立ちゴケのキズとかを確認しようと思ってたけど どっと疲れが出て 明日明るいトコで見よう と言い訳しながら玄関をくぐった


「ただいま」

「お帰り 遅かったじゃん ご飯は?」

「食べる」

「お風呂行くならまだ温かいから湯船入りな」

「先に飯食う」母親に素っ気ない返事をしながら食卓へ

「はいコレお土産」

「今日はどこ行ったんだっけ?」

「新潟 海行ってきた」

「ケンゴとテルも一緒?」

「そう」

「おーやだやだ バイクなんて」

やだやだ と こわいこわい は母親の決り文句だ

「ごっそさん」

「もういいの?」

「ああ 風呂行くわ」と言って席を立って自分の部屋に行くために階段を上る

(お〜 体が重いわ〜)


メット グローブ 革ジャンを放り出し 着替えを持って風呂に行く

いつもならシャワーですませる所だけど今日は湯船に浸かった

「う…ぁぁ〜… …」

自然に声が出てしまう

一日の疲れがお湯に溶け出ていくみたいだ

湯船が気持ち良いと思ったのは久し振りな気がする

ゆっくりと体の芯まで温まってから風呂を出る


自分の部屋に戻って寝る準備をしていたら睡魔が襲ってきた

(今日はもう夜ふかししないで寝よう)

布団に潜り込んで目を閉じる

すぐに寝ちゃうだろうと思ったけど 何だか体がふわふわしている

走っている風景がまぶたの裏に映って バイクの振動や音を感じる

まだツーリングしているかのような不思議な感覚


どうやら初ツーリングは夢の中まで続くみたいだ


俺は すうっと眠りに落ちていった…















 

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