第17話 とある冬の日

「いい天気だ」


気温は低いが気持ちの良い青空が広がっている

休日の午後 バイクに乗るつもりはなかったが

窓の外に見えた青空に誘われるように走り出した

冬装備に身を固め 諏訪湖の湖周を走る

時期的にもういつ雪が降ってもおかしくはない

今日が走り納めになるだろうか

体に冷気を受け 吸い込む空気は冷たさを感じるが

停車すれば日差しがジワリと体に染み入ってくる


「行ってみるか…」


街を離れ峠に向かう

トンネルを抜けて和田峠へ 標高が上がると気温が急激に下がる

指先がかじかんで 体が硬くなる

すれ違うバイクは一台もいない

失敗したかな?と思うが 私の気持ちとは逆にバイクは絶好調だ

電光掲示板の気温表示は見なかった事にして旧和田峠に入る

陽の光が木々に遮られ路面温度はかなり低いだろう

タイヤが温まらず接地感が乏しい為 極力バンクさせない様に走る

はっきり言って少しも楽しくない

寒さと緊張で顔がこわばる きっと冴えない顔をしているだろう

何をこんな寒い日にバイクで峠に来ているんだか

自分でも馬鹿だとは思うが 走ろうと思ってしまったのだから仕方がない


美ヶ原まで行こうかと思っていたが 気付いたらT字路を霧ヶ峰方面に左折していた

気持ちとは裏腹うらはらに体は寒さに耐えかねていた様だ

と 道路を横断するように鉄柵が現れて行く手をはば

そして 鉄柵には注意書きが一言

’’この道は来年4月末まで通れません’’

「ふふっ」

思わずこわばっていたほおがゆるむ


エンジンを切り バイクを降りる


ヘルメットのシールドを上げ 長く息を吐き出す


「ふうぅー … 」


息が白い


「冬季閉鎖か… 今年ももう終わりだってさ…」


むなしい様な やりきったような

何とも言えない気持ちになる


「ふぅ … よし!」


気持ちを切り替え バイクにまたがる


とりあえず家に帰ったら うんと熱いシャワーを浴びよう










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