第14話 初ツーリング その往路

塩尻峠を上って行くと逆に気温が下がるのを感じる

1度か2度か バイクだと温度表示より先に体で感じる

塩尻峠の頂上を越え 下りに入る

上ってきた岡谷側は道幅もさほど広くないクネクネとした道路で 80年代には走り屋が集まり ギャラリーコーナーもあった(らしい)

対して塩尻側は道幅も広く ゆるいカーブが続く

60km/h位で流すには丁度良い感じだ 車では何度となく通っている道だけど とても新鮮に感じる

バイクのせいなのか 初ツーリングと言う気持ちのせいなのか


広く 遠くまで見通せる感覚

五感が開放される感覚

すごく遠くまで行けそうな感覚


全部が心地良くて 気持ちいい


峠を下り切ると国道19号と交差する

まっすぐ行けば 木曽高速と言われる木曽方面 今回は右折して新潟方面へ

国道19号から147と148号を繋ぐ 通称糸魚川街道がケンゴが選択したルートだけど その前に松本の市街地を抜けないといけない

空気が変わり 気温も上がってくる

塩尻から松本のこの区間は渋滞しがちで 車なら退屈な区間だけど バイクは意外と忙しい

A/T車の様にアクセルとブレーキだけじゃなくて クラッチとシフトチェンジも必要で 当然だけど停車時は足を着かないと倒れてしまう

そんな訳で両手両足とも休まる時間があまりないんだ

止まって動いての繰り返しは 半クラを多用する事になるから クラッチレバーを握ったり放したり握力を鍛えている様なもので まだ走り始めて1時間も経っていないのに オレは早くも左手がダルくなってきていた


「ふう…」

信号でケンゴに並んで止まったオレは ギアをニュートラルに入れて 両手をプラプラと振って 指をストレッチした

そんなオレを見て 速攻でケンゴが茶化す

メットのシールドを上げてデカい声で

「もう疲れただけ〜?」

オレもシールドを上げて答える

「ん?いや全然?」

「ココ抜けりゃあ楽になるよ」

ちょっとした会話で元気が戻る


ケンゴの言葉通り 松本を抜けると車の流れがガラリと変わる

松本の先で糸魚川街道に入る

予報通り快晴で気温も上がってきた

半クラのストレスからも開放され 快適そのものだ


しばらく走るとケンゴかウィンカーを出した 最初の休憩だ とは言えコンビニなんか無い(無かったと思う) 休憩場所はトイレがあるパーキングかドライブインだ


3台並んで停める

「どーよカツ 行けそう?」

「全然よゆー」

「その割にエンストしてたじゃん」とテル

「テルのバイクがうるさくて自分の排気音が聞こえないんだよ!」

サベージはスーパートラップのマフラーを付けていて ディスクの枚数を変えてわざわざうるさくして来ていた

「下手くそなのを人のせいにすんなよ」

「うっさいよ でもオレの後ろにいてあの音って事は テルの後ろに付いたら相当うるさいな」

「でも この位の音じゃないと車が気付かないだろ? 安全の為にしょうがなくうるさくしてんの 周囲にアピールしないとバイクは見落とされがちだからなー」

「あ〜それはあるなあ まあオレもそのうちマフラー替えるけどね もっとレーシーでいい音がするやつに」

色々言っても結局 音がデカいのがカッコいいと思っていた

「それでエンストすると余計に恥ずかしいぞ」

「うっ… 音が聞こえりゃエンストなんかしないわ!」

「どーだか」


一息入れて ツーリング再開

日本海はまだ遥か先だ 同じ隊列で走り出す


風と

陽射しと

振動と

排気音と

一緒に走る仲間

分かってはいたけど再確認

やっぱりバイクは楽しい







 



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