第10話 KCBM今昔

昔一度だけ KCBM つまりカワサキコーヒーブレイクミーティングに参加した事がある

KCBMとはカワサキ主催のイベントで

ちょっとしたステージとショップのブースが用意された広いスペースに来場者のバイクを並べ

KCBMマグカップが販売されてコーヒーが無料で振る舞われるというもので 事前予約も参加費もいらない

このイベントの目玉はステージやショップブースではなく

2000台規模の来場者のバイクである カワサキ車以外でも参加出来るが他社のバイクは駐車場が分けられ メインの駐車場には旧車から最新車までカワサキのバイクが並べられ その様は正にカワサキバイクの博覧会 カワサキ乗りなら一見の価値ありと言えよう



―――その日オレは中央道を飯田方面に南下していた 行き先はKCBM in浜名湖

仲間のカワサキ乗りと予定が合わず一人での参加だ

この時のオレの愛機は ’99 ZX−9R C型 マレーシア仕様のフルパワーモデルだ

良いペースで走っていると はるか先にバイクが合流して来るのが見えた

そのバイクもそれなりのペースで走り始めたようで差が縮まらない

オレは幾分ペースを上げ そのバイクに近付いていく


(ん…あのテールは…ZZ−Rか…)


ZZ−R1100 世界最速の称号と共に発売された カワサキのフラッグシップモデルだ

そのZZ-Rは近づいて来るオレに気付くと加速し始めた


(ほう…いいねえ)


オレも負けじと加速する!が差が開いていく

(うは!コイツ っええ!)

お世辞にも走りやすいとは言えない中央道のこの区間を

危なげなく走っていくZZ-Rとの差を詰めようとするがついて行けない

視線の先に高速道路にしてはキツイ左カーブが迫る!

まずはZZ-Rが進入し 続いてオレが…と! そこでビビリミッターが作動し

アクセルが戻る

オレの体にはビビリミッターが標準装備されていて 9Rのリミッターよりもかなり早めに作動する 常に最高感度に設定されていて リミッターカットや取り外しは出来ない構造になっている


(…なるほど …性能差か…)


バイクの性能差ではなく 乗り手の能力差だということは

言うまでもない事なので言わないでおこう…


オレは飯田インターで高速を降りR151で浜名湖を目指す この道は所々狭い区間もあるがおおむね気持ちよく走れる快走路だ

浜名湖にたどり着いたオレはKCBMの会場である 浜名湖競艇場対岸駐車場を 会場入りした


そして 会場からのカワサキ車の渋滞を横目に受付を済ませてステッカーをもらい

500円(義援金含む)を支払いマグカップを購入した


ステージでは 私達もお見送りにいきま~す とか言っている


無料のコーヒーを飲みつつ 一通りブースを覗き


まだ残っているバイクを見ながら帰り支度を済ませる


KCBMの開催時間は9時~12時30分


現在時刻は12時30分


オレはバイクの列に並び KAZEギャルに手を振って会場をあとにした


滞在時間15分


なぜこんな事になったのか皆目見当かいもくけんとうもつかないが


家を出るのが遅かったのと

道を待ちがえたり 迷ったりしたのが原因かもしれない……


やっちまったー!

なにやってんだオレ!

しっかりしろオレ!

浜名湖に行けば何とかなるだろうと思い きちんと下調べもせず勢いで来たが

なんとももならなかった…

浜名湖を北側から左回りにぐるりと一周し 開催時間内に会場にたどり着けたのは奇跡に近い


かなりヘコんだが 反省は後回しにして ツーリングマップルに載っているうなぎ屋を目指した

腹が減っていたのだ


まだスマホなんか無い時代だ 場所が良く分からずウロウロし 何とかうなぎ屋の駐車場に着いた

そこに居たライダーに挨拶すると

「これからそこのうなぎ屋行きます?」

「はい そうですけど」

当然だ 腹が減っているのだ


「でも今行っても白飯が無いみたいですよ?うなぎはあるんだけど KCBMから流れてきたライダーが大挙して押し寄せて白飯が無くなったみたいで 店のおばちゃんがイライラしながら炊けるまで1時間とか言ってましたよ」


なんと!…1時間…


そんなには待てない

腹が減っているのだ


ライダーにお礼を言って 駐車場を後にした


気を取り直して ツーリングマップルに載っているもう1軒のうなぎ屋に行くと


超~ 行列が出来ていた…


…待てなかった…


そう 腹が減っていたのだ


結局2軒目のうなぎ屋の近くのレストランでウナギ茶漬けを食った


うな重は高かったのだ


そこそこおいしいウナギ茶漬けを食べ終わり

今回のツーリング 何がいけなかったんだろう…

そんな事を考えながら食後のお茶をすすっている自分に気付き


いかん!こんな事じゃだめだ!

あきらめたらそこでツーリングは終わり

そうですよね? 安西あんざい先生?



――― あれから 時は流れ 現在2021年11月

オレは中央道を東京方面に向かって走っていた 行先はKCBM in東京

今の愛機は’18 ニンジャ1000

前回はいつだったっけ? なんて考える余裕は無い

すでに指先の感覚はほぼ無く 全身が冷え切っている

気温表示は6度 

普通に考えれば 冬仕様のもこもこ装備とハンドルカバー 電熱装備があってもいい位の気温だが 革ジャン革パンの下になるべく着込み いつもの革グローブにインナーグローブ という恰好で走っていた

それと言うのも 会場となる東京の気温が20度近くまで上がる予報だったからだ

ポカポカ陽気のKCBMに冬のもこもこ装備で参加するという事態を避ける為の苦肉の策だったが 走り出してすぐに後悔した

クソ寒い! もう一度言おう クソ寒い!

体感温度は間違いなく6度以下だが とにかく走るしかない

お隣の山梨県に入る辺りで暖かさを感じた

気温表示は8度だ

2度の差ってすげぇ 寒い事に変わりはないけど…

オレは寒さに耐えながら走り続けたが 談合坂で限界を迎え サービスエリアに逃げ込んだ


130円で買えるぬくもり 熱い缶コーヒーを握りしめ冷え切った指先を温める

指先を温め終わり ぬるくなった缶コーヒーを一口飲んで はたと思いとどまる

コーヒーはKCBMで飲むじゃん お茶にしとけば良かった…

ここまで来ればだいぶ気温も上がっている インナーダウンとインナーグローブを外し ガスを入れてKCBMの会場 改修中のサマーランドに向かう


前回と違い 今回は文明の利器スマホがある グーグル先生もいる

オレは予定通り11時頃に会場入りした


会場はすでにカワサキ車で埋め尽くされていて 入ってすぐの場所に停める事になった もしかしたら一番混んでいた時間帯で 入場規制がかかる寸前だったのかも知れない


カワサキ車がズラリと並ぶその風景は圧巻だった

その数3500台以上

様々なバイクと様々な人たち 会場はイベント特有の空気に包まれ

その場に居るだけでワクワクしてくる

これがKCBMか…


オレはまずKCBMマグカップを買った

昔はステンレスシングルマグだったが ダブルマグになり 1000円になっていた

3種類あったが 白地に黒文字の物にした 普段使いにも良さそうだ

早速コーヒーを貰い バイクを眺めながら一杯

ショップブースを覗きTシャツとマスクを購入 一旦荷物をバイクに置きに戻り

革ジャンを脱ぐ 歩くと汗が出る程まで気温が上がっている

もこもこ装備で来なくて良かった

2杯目のコーヒーを貰い ベンチに座り ステージでのトークや歌を聴きながら

バイクと人間ウォッチングでまったり


やはりほとんどの人がグループで来ている様だ

オレの仲間にカワサキ乗りは2人いるが クスダさんのGPZ900Rは休眠中だし

同じくGPZ乗りのイシクラさんはこう言う集まりが得意ではないという事で

今回も1人での参加となった

次回の参加があるとしたら その時は連れがいるだろうか


のんびりと時間を過ごし 12時30分からステージでジャンケン大会が始まるとアナウンスがあったので シャイなオレはその前に帰る事にした 帰りの渋滞に巻き込まれる事も避けたかったし なにより

腹が減っていたのだ


オレは前回の反省も踏まえコンビニで昼食を済ませ

ナップス多摩境店を物色してから帰路についた


ナビの指示に従い高速に乗る

本線に合流する時にハチロクが良いペースで走って行った

来たときと違い 暖かくて気持ちが良い

しばらく走行車線をテレテレ走っていたが

寒くなる前に家に帰りつきたいと思い ウィンカーを右に出した


それなりのペースで走っていると 前方にハチロクが見えた

合流した時にいたハチロクだろうか

オレが追いすがって来たことに気が付いたのか そのハチロクは加速し始めた


(ほう…いいねえ)


オレもハチロクに合わせて加速する


2台はそのまま加速を続ける が ハチロクの加速が止まる


(おっと ハチロクさん までかい?)


(まあ オレも までなんだけどね) と思わず笑みがこぼれる


ハチロクのドライバーも苦笑いしている事だろう

しばらくランデブーを楽しんだが ハチロクとは分岐でお別れとなった


気温が下がるのを感じたオレはパーキングに入った

バイク用の駐車場には2台のバイクが停まっていて 近くのベンチに夫婦らしき男女が座り 笑顔で話しをしていた

(夫婦でツーリングか… いいなあ)

高速走行で肩に入っていた力がふっと抜けた

オレはインナーダウンとインナーグローブを身に着け走り出した


車の流れも良く 良いペースで走っていると

やけに車幅の広い 平べったい車に追いついた その車は

ランボルギーニ アヴェンタドール

もしかしたら違うかもしれないが いずれにしろ スーパーカーと呼ばれるたぐいの車である事は間違いない

オレが後ろにつくと そのランボはグッと加速した

(おっ 第二ラウンドはランボか?)

と思ったが すうっと走行車線に移っていった

(う~ん 大人の余裕を感じるねえ)

オレはチラチラとランボを見ながらゆっくりと追い抜き加速した

(ランボ カッコいいわ~ 良いもん見れた)

上機嫌で走っていたが 気温がぐっと下がって来た

(やっぱり あのタイミングで着といて正解だったな)


先の方で車が詰まり気味になっているのが見えた

(ん?覆面でもいるのか?)

近づいていくと

どうやら 追い越し車線をペースカーよろしく 70~80km/hで走っている車が居る様だ そのスピードで巡行したいのなら 少なくとも走行車線を走るべきだと思うが そのペースカーは速度を上げる事もなく車線を変更する事もなく走っている

車2台を挟んでオレが居る訳だが オレの後ろにも車が詰まり始めている

さて どうしたもんか?と思っていると 登坂車線を先ほどのランボが加速し そのまま走り去っていく

大人の余裕を感じたのは気のせいだった様だ

ランボの走りに触発されたのか ペースカーの後ろの2台が 走行車線から続けて抜いていく

そこでようやく自分が邪魔だと気付いたのか ペースカーが走行車線に移った

オレは追い抜きながらドライバーをチラリと見ると 年配の女性が真っすぐ前を見て運転していた バックミラーやスピードメーターを見る余裕がない位 いっぱいいっぱいだったのかも知れない それはそれで問題だが 第二ラウンドはおばちゃんの一人勝ちってとこか


八ヶ岳の辺りで今度はロータスエリーゼに追いついた

ランボを見た後だから やたらと小さく見える

第三ラウンドはロータスか?と思ったが道を譲られた


オレは最後にフル加速してから高速を降りた


今日のツーリングも終わりが近い…

家が近づいて来ると少しだけ感傷的になる


バイクがZX-9Rからニンジャ1000に変わり

ツーリングマップルがスマホのナビアプリに変わっても

KCBMは変わらずに開催され

馬鹿なバイク乗りのやっている事もさほど変わらない


時が流れ 

変わる物もあれば

変わらない物もある…


…なんて カッコ良さげにまとめようとしても

そもそも内容が薄すぎて纏めようがない なんて事は

言うまでもない事なので言わないでおこう…





追記

1人の偉大なライダーが引退した

これも時の流れか…

ありがとう ロッシ






















 












 


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