第5話 初公道

バイク乗りとしての記念すべき第一歩を踏み出したオレは

夢見心地ゆめみごこちだった いや夢うつつ?

バイクに乗っているという現実感がなく 俯瞰ふかんで自分を見ている様な… 

つまり 軽くパニクッていた

(何かおかしい!?何か違う!?教習所では普通に乗れてたのに何で!?)


何かおかしいのは極度の緊張のせいだし

教習車はCBで今乗っているのはXJRなんだから

何か違うどころか 何もかもが違うんだけど

そんな事も分からないくらい余裕がなかった


すでに暗くなり視界が悪くなっている事もパニックに拍車はくしゃをかけていた

(何かやばい! 落ち着けオレ! どうする? 一旦いったん止まるか?)

と ウィンカーが点滅している事に気付く

(しまった ウィンカー出しっ放しだ)

慌ててウィンカーを消す

余裕がないながらも何とか走っていると 踏切にさしかかった

踏切はかまぼこ型で 軽い坂道発進になる

(うっ 坂道発進か… 大丈夫 行ける!)と自分に言い聞かせ

踏切手前で一時停止

(ギヤ1速 リヤブレーキに踏み替えて 大きめにアクセルを…)

ブオーン!!

(うっ 開けすぎた! 恥ずかしい! 少し抑えて…半クラで…)

ブウーン ブウ~…

(あれ?発進しない クラッチが…遠い)

ブウ~ン ウウ… ブウウ~ ン 

(ふうっ…)

やたらと長い半クラ走行で何とか踏切を渡る

(よし 車も少ないし落ち着いて行けば大丈夫だ)

坂道発進を乗り切りオレは少し落ち着きを取り戻した


シフトペダルの感触を確かめる様にギヤチェンジしながらゆっくり走る

(なんか夜のせいかスピード感覚がおかしいな 今 何速だコレ?5速?)

オレは加速しながらシフトアップする

ブーン! ガチャッ ブー…ン…

(あれ? 6速から6速に入れちゃったよ ずっ)


と 前の車が右折待ちで止まった

「おっと」

シフトダウンする間もなくブレーキをかけて止まり

ガチャガチャと1速までシフトペダルを踏みつける

前があいたので発進しようとアクセルを開けてクラッチを繋ぐ

「あれ?進まない 何で?」

メーターに緑色のニュートラルランプが点灯しているのに気付く

「何でニュートラになってんの!?」

蹴とばす様に1速に入れて再発進する


しばらく信号で止まる事もなく車の流れに乗って走る

(よしよし 感覚を思い出してきたぞ)

道の先の歩行者用信号が点滅している

(変わるかな?)

前の車が赤信号ギリギリで突っ切り オレが信号待ちの先頭になる

(ふう… だいぶ緊張がほぐれてきたな)

ニュートラルに入れ 背伸びをしてから もう一度ふうっと息をはく


信号が青に変わる

「よし」

前に車がいないので 幾分いくぶん大きめにアクセルを開けて加速

2速に入れてアクセルを開けると

ブオーン!!!

派手にからぶかししてしまう

「うわっ!何!? ニュートラル!?」

慌てて1速に入れなおすとバイクがガクっとブレーキをかけた様になり

体が前につんのめる

(うわ~ カッコ悪すぎだろオレ…)


失敗ばかりでヘコんだが 

その後は車の流れに合わせて何事もなく走行していた

ププー!!

いきなりクラクションを鳴らされ 思わずビクッとなる

(え?なに?オレ何かした?)

キョロキョロと周りを見まわして 後ろの車に気付いた

(あ そうだ クスダさん達が付いて来てくれてたんだ

そんな事も忘れるくらいオレは緊張していたのか…)

自分で自分にあきれると同時にふっと力が抜ける

交差点にさしかかかると ププッとクラクションを鳴らして

クスダさん達が左折して行く

(もう大丈夫だって判断してくれたのかな?)



――― 約30分の初走行を終え オレは何とか家にたどり着いた

玄関脇の今まで自転車を停めていた場所に慎重にバイクを停める

「おっと ギリギリか バイクってデカいんだな」

サイドスタンドをおろしてバイクから降り ヘルメット外す

ふうーっと息をはくと 体から力が抜けるのがわかる

後半はかなりリラックスして乗れたと思ってたけど まだ余計な力が

入っていたらしい


玄関の灯りに照らされたバイクは

メッキパーツやタンクが光を反射していた

「もう オレのバイクなんだよな…」

嬉しい様な 気が引き締まる様な 何とも言えない気持ちになる

バイクの横にしゃがみこんでエンジンを見る 

空冷エンジンの特徴であるフィンがキレイだと思って見ていると

エンジンから キン キン カキン と音が聞こえる

「あ…この音の事か…」


「走った後にエンジンが キン…キン…っておとを立てるんだけど

その音が 何か… 良いんだよ」とクスダさんが言っていたのを思い出す


熱されたエンジンが冷える事で鳴っているのか

その音を聞いていると バイクに「お疲れさん」と言ってやりたくなる

確かに 何か良い音だ


オレは立ち上がり XJRのシートに触れ

「これからよろしく相棒」と あえて声に出して言ってみる

気分はドラマか映画の主人公だ

が すぐに素に戻り 誰にも見られてないよな と逃げる様に家に入った





 













 






 



 






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