第一図 こうばい

 その後、あの一夜ひとよは何だったのだろうと気懸かりなまま日々を過ごしていると、ある日の夕目昏ゆうまぐれ前々さきざきの如くくだんの女房達が又しても推参するではないか。そして何と瑰麗かいれいなるかな、熟々よくよく凝らし見れば彼女らは皆、二十歳はたちに足らぬ年端としのはと見ゆる末嫩うらわか夭桃おとめ達である。

 優雅みやびやかなるその韡曄いようの筆端に尽くせぬあでやかさ、「一体、何処いづくの里より御出おいでか」「如何いかなる種姓しゅしょうの御方々でいらっしゃるか」などとはやり気にただしても捗々はかばかしからぬところ、その中に少しく﨟闌ろうたけて見ゆる女房が「ゆる月に、飄然ふらり誘引おびかれてしまっただけなのです。みやこ宏闊ひろしといえど何処どこも住みづらく、仮初めの宿こそございますものの常住とこすむことの叶いそうな的処あてどとてございませんで、れどこのわたりを気に入りまして、一年ひととせと言わず過ごしおりますけれど指したることもなく空しう日を暮らしおりますれば、つい思い余りまして」などと言う様子も愈々いよいよと思慮深く思われ、細やかなる情趣おもむきも感じられて、通宵よすがら、何それとなく夜伽よとぎしてあざれ興ずるのであった。

 昧爽あかつきを告ぐる諸刹てらでら鐘声かねのねの聞こゆると、女房達は名残惜しみつつ還って行く。その中に紅梅こうばいうすぎぬ着栄きはやす女房の芳菲ほうひとして馨香きょうこうを漂わせているのに強く心奪われた私は、この女房も去りがた気色けしきを見せるのが大層好もしうて、彼女一人とその後もしば喃語むつがたりするけれど、ついに明らみ弥増いやま凌晨しののめの空がこの上なく怨めしい中でわかれた。

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