青年とランプの精
てふてふ
第1話
昔々あるところに、アラジンという裕福な家の男の子がいました。
アラジンは生まれた頃から何不自由なく暮らしていました。
何かを食べたいと思う前に、たくさんのご馳走とお菓子が並んでいました。
これで遊びたいと思う前に、たくさんのおもちゃを用意されていました。
いつもいつも両親も周りの大人たちも嬉しそうに、アラジンの前にものを並べます。
アラジンはその中から相手が特に選んでほしいものを手に取り続けました。
シェフが一番その日に手間をかけた料理、一番細工の美しい模型、一番複雑なパズル、一番高価な宝石。
一番のものに囲まれ、一番美しいものを身につけ、国一番の専門家たちから沢山の知識を得たアラジンはいつしか、とても優秀な青年になりました。
人々はもう、自分がアラジンに渡せるものがなくなると、外の世界の話をしました。
「昔、商人が持ってきた生地が素晴らしかった。光に当たるとキラキラと輝くんだ」
「旅人が教えてくれたが、どんな病も直せる薬があるらしい。」
「本で読んだんだけれど、遠い遠い国では雨が凍ってふわふわと綿のような白いものが振るんだ。一晩のうちに当たりが全て真っ白で、それはそれは美しい風景らしい」
嘘か本当かわからない話を大人たちは夢見るように話しました。
アラジンは決まって「じゃぁ、俺が見てきてやるよ」と答えました。
そういうと大人たちは嬉しそうに笑いました。
ある日、アラジンは旅に出ることにしました。
国中の人が、アラジンにたくさんのものや御呪いを持たせようとしましたが、アラジンは全て断ってしまいました。
とうに歩けなくなった老いた父親に、どうしても、どうしても持っていけと渡された煤けたランプだけは、「まぁ、これくらいならいいか」と持っていきました。
生まれて初めて、アラジンはただの青年になりました。美しいとされているもの、素晴らしいとされているものも何も持たない青年はしばらく歩き続けました。
火が沈み始めた頃、なにもないただ真っ暗な場所になった時、心細くなったのかあの煤けたランプを擦ってみました。
そうすると、蛍光色の煙がもくもくと立ち込めて辺りを照らしました。
びっくりしながらそれを眺めていると、煙の中から大男が一人出てきました。
「私はランプの精、外に出してくださり
ありがとうございます。なんなりと、ご命令を」
青年は、しばらく目の前の大男を眺めていましたが、なにかを納得したようで、
悩むように唸り声を出しました。
うーん、うーんとしばらく唸った後に
「話し相手になってくれないか」
と言いました。
「‥‥は?」
もう一度、今度ははっきりと
「話し相手になって欲しい」
と大男に伝えました。
大男は一瞬眉間に皺を寄せた後、笑顔を作り直してから説明を始めました。
「私はランプの精、なんでも願いを叶えられます。命令すれば、どんな美人でもお城でも金銀財宝、ご馳走なんでも手に入ります。ここは砂漠のど真ん中、もう日も暮れている。さてさて、ご主人様、何なりとお申し付けください」
「話し相手になってくれ」
「なんでだよ!
‥‥あぁ、俺がランプの精だって信じてないのか。」
「信じているよ。目の前で見るまでは本当にいるとは思わなかったが。
本当に、美女もご馳走も金もいらないから、話し相手になって欲しいんだ。」
ランプの精はまだ何かいいたげでしたが、大人しく青年のとなりに座って、話を聞き始めました。
青年は、今まで貰った贈り物や食べ物、物語の話をし始めました。
ランプの精はその話を聞くたびに、目を輝かせて、「今、目の前に出しましょうか?」「連れていきましょうか?」「見にいきましょう!」と誘いました。
途中から、自分が見たいから命令をしろとせがみました。
青年は少し微笑むだけで命令はせず、また次の話を始めました。
一晩中、青年は話し続けました。
真っ黒だった空が、少しずつ薄くなって白っぽくなった頃、話は終わりました。
「話を聞いてくれてありがとう。
一晩中、考えたけれど、願いは何も見つからなかった。」
「私はランプの精、命令がないと何もできません。」
ランプの精は少し悲しそうな顔をしながらそう呟きました。
「だから、俺の代わりにお前の願いを叶えて欲しい。」
青年がそういうと、ランプの精はとても驚いたようで、目を丸くしました。
「何かを欲しいと望むまで待ってくれたのはお前だけだったよ。ありがとう。」
独り言のような小さい声でそう呟くと、青年はランプに吸い込まれていきました。
昔々、あるところに大きな体をした旅人がいました。
その旅人は煤けたランプを肌身離さず持っていました。
旅人は色んなところを旅をしていました。
美しい景色を見て、美しい女性と出会い、美味しいご飯を食べました。
旅人は、これは素晴らしいと思うたびにランプを擦りました。
青年とランプの精 てふてふ @tehutehu1215
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます