第8話 初めてのクエスト!! の巻

「そんで、ミノタウロスってどんぐらい強いんですの?」


 クエストの現場であるダンジョンに赴いた私は、ケヴィンに尋ねた。


「……あのですね、ミノタウロスって、普通駆け出しが相手するようなモンスターじゃないんですよ」


 ケヴィンは、恨めし気にこちらを見やっている。この間サバ折り仕掛けたものだが、自分のためにこの依頼を取ってきたことが、内心嫌でしょうがなかったのだろう。


「ミノタウロスは、レベル20相当のモンスターです。それも、レベル20でもパーティがフルメンバーで、ようやく1体相手にできるような……そんな相手ですよ」


 フルメンバーというのは、前衛として戦う戦士、中衛のレンジャー、後衛の僧侶や魔法使いという、役割分担がきっちりとされているパーティの事だ。


「……とてもじゃないですけど、駆け出しで2人パーティで挑むようなもんじゃありません」

「成程ね……。腕が鳴りますわね!」


 私は指をボキボキと鳴らしながら、笑みを浮かべる。レベル的には(相手の方が)心もとないが、何とかなるだろう。


 何より、ケヴィンが自分のために頑張って取ってきてくれたクエストなのだ。相棒として、報いないわけにはいかないだろう。


「大丈夫、絶対負けませんわ。私、こう見えて強いんだから」



 ぐっと力こぶを作って、私はダンジョンに突入した。


********


「げえーーーーーーーーーーーっ!」


 私は、ダンジョンの中で盛大に嘔吐していた。


「……大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫じゃない……気持ち悪い……」


 先程拾った宝箱に、罠があった。

 本来なら、斥候系の人に罠解除を任せるのだけど、そんなのいないので、私が開けたのだ。

 結果、毒針で毒状態に。

 いくらステータスをあげても、状態異常はどうにもならない。


「一応買っといてよかったですよ、毒消し薬」


 ケヴィンが買ってくれた毒消しのおかげで解毒はできたのだが、その薬がまあ不味いこと不味いこと。


 私が吐いてしまったのは、あまりに不味いからである。


「……うう、すっきりした……」

「そりゃよかったです」


 ケヴィンはそう言って、私にハンカチを渡してくれた。私はそれで口を拭くと、彼に返そうとする。


「いや、いりませんよ。それ、使い捨て用ですから。その辺に棄てといてください」

「そ、そう……」


 私はハンカチを捨てると、溜め息をついた。


 何やってるんだろ、私。息まいてクエストに来たのに、から回っている。


 今だって、最初こそ私が前になって進んでいたのに、今はケヴィンが前衛だ。


「ごめんね、ケヴィン」

「何がです?」

「何か……迷惑かけてばっかりで」

「そうですねえ」


 うぐ、そうはっきりと肯定しないでよ。そこは、「そんなことない」っていうところでしょ。男なら。


「まあ、ロビンには昔から、迷惑かけられっぱなしだったし。今更って感じですよ」

「え?」

「筋トレしててケガした、とか、メイドと喧嘩して仲直りできなかったらどうしようって泣きついてきたりとか」

「そ、そんなことあったっけ?」


 ヤバイ、全然覚えてない。

 困惑する私をよそに、ケヴィンは周囲を警戒しながら進んでいく。


「でも、ま、持ちつ持たれつですよ、お互い。相棒なわけだし、ロビンにできないことは俺ができればいいですから」

「ケヴィン……」


 歩いていた足を、ケヴィンが制する。ズシン、と地面が揺れる感触があった。


「だから、まあ、その」


 地面の揺れは、どんどんと大きくなる。


「俺がどうしようもないことは……お願いしますよ?」


 黄色い肌の、自分たちの1.5倍はあろう、ミノタウロスが、目の前にいた。

 バカでかい戦斧を持ち、鼻息をふんふんと鳴らしている。 


(改めて見ると、あんな斧どこから持ってくるんだろう)


 そう思いもしたが、とにかくまずは目の前のこいつだ。

 私は指を鳴らしながら、ケヴィンの前に立つ。


「――――――ええ、引き受けましてよ。相棒」


 ケヴィンが下がると同時、ミノタウロスは襲い掛かって来た――――――。


 が、遅い。


「ステータス」


―――――――――――――――――――――――


【ミノタウロス】【レベル20】【地属性】



 体力:280

 魔力:3

 力 :150

 守り:100

 魔法:4

 魔防:60

 速さ:33

 器用:27



―――――――――――――――――――――――


 なるほど、これがミノタウロスか。確かに、パワーが高い。

 一方で魔防が低いから、セオリー的には魔法で戦うんだろうなあ。


 まあ、関係ないけど。こっちは最初から、魔法なんぞ使うつもりはないし。


 ミノタウロスの動きと、周囲の環境を観察しながら、私は何の技を使うかを考えていた。


(……天井が低いから、ドロップ系の技は威力が落ちそうね。だったら……)


 ミノタウロスの斧の振りかぶりに合わせて、股の間をすり抜ける。そして、背面でミノタウロスの足に乗り、両手を取った。

 ちょっと強く握るだけで、斧は手から零れ落ちる。


「……●LAP―――――――っ!!」


 そのまま相手の手をひねり上げれば、技の完成だ。


「ブモオオオオオオオオオオオオっ!」


 私の引っ張る力に、ミノタウロスの手足がミシミシと音を立てる。やがてベキっという音がして、奴の腕が異様に伸び始めた。肩と腕の関節を破壊したのだ。


 たまらず倒れこんだミノタウロスの首に、エルボー・ドロップを決める。首の骨が折れる感触とともに、ミノタウロスはぴくりともしなくなった。


 私は額の汗を拭って、さっと立ち上がる。


「ロビン……凄い!」

「……なんの、まだまだよ」


 私はミノタウロスを担ぐと、にっこり笑った。


「ほら、帰りましょ? 帰るまでがクエストなんだから。道案内、頼むわね?」

「……ええ、もちろん」


 ケヴィンのエスコートを受けて、私たちはダンジョンから無事に帰還した。


 こうして、私たち二人は、鮮烈なデビューを果たしたのである。

 

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悪役(ヒール)令嬢はフィニッシュホールドで無双したい! ~必殺技を再現するために、私めちゃめちゃ鍛えましたわ~ ヤマタケ @yamadakeitaro

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