憧れはいつでも僕を強くする 読み切り
鷹山
第1話 一ページ目をめくる。
僕が七歳のころ、父さんと母さんは家から消えた。家に残っていたのは父さんが持っていた赤いスカーフと母さんが残した緑の石がはめ込まれていた指輪のみ……。
「父さん?? 母さん?? どこにいっちゃったの???」
そして家の床を見るとそこには赤くドロドロした液体が水たまりのようにたまっていた。
「これって……」
匂いを嗅げば一瞬でわかる。“血液”だ。
「みたな??」
その時、鈍く鋭い衝撃が僕を襲った。
「うあああああああああああああああああ!!!!!!」
周りを見渡すとさっきまでの光景はない。あるのは見慣れた少し古い木造3畳ほどの何もない部屋だった。
「な……なんだ……。夢か……」
(あの夢を見るのは久しぶりだ)
耳下ぐらいの長さの黒い髪に母ゆずりの黒い瞳のまだ幼さが残る顔立ちのカエデは首元につけているスカーフと指につけている指輪に目をよこした。
「あ!!! こんなこと、してる場合じゃなかった!!! 狩りに行かなきゃ!!!!」
そうカエデは言うと古い床を激しく軋ませながらダンジョンに向かった。
この世界には
(僕は弱いから、誰よりも早くダンジョンに潜らないと生活するためのお金がたまらない……)
「よ~し!! 今日も頑張るぞ!!!」
アナスィスのダンジョンに続く大通りを走っている時だった。
「何がダンジョンだ! 弱いくせに」
一人の片手に酒を持ったおじさんがヤジを飛ばしてきた。
「知ってるか? お前はアナスィスの笑いもんだ。弱すぎるってな?? 冒険者なのに
それがあれば妖精の能力の一部を使うことができる。ある者は手から物体を出せたり、またある者は自分の能力を底上げしたりとそのものによって様々な能力を使うことができる。
しかし僕には
「でも僕は……まだ死んでない!」
「あぁ?? お前は死ぬさ。もうすぐな。だってお前はギルドにすら入れてないじゃねえか!!」
ギルドとはたくさんの
カエデはそこには在籍していなかった。在籍できないからである。
当然彼も様々なギルドにお願いをした。しかし多くの者は彼が
「でも……でも僕は!! ヘルメイ様のような英雄になるんだ!!!」
「ヘルメイ様?? みんなの憧れの人の名をお前のような愚者が簡単に口にするんじゃねえよ!!!!!!」
おじさんは、自分が持っていた酒の瓶でカエデを殴りつけた。
「あのなあ?? あの方はアノスを除く人類史上最速の19歳で英雄になられた方なんだよ!! お前のような
何度もカエデを殴り、蹴った。
それを見かけた警備兵がおじさんを押さえつけ、連行した。
「大丈夫かい?」
「だ、大丈夫です……」
「あぁ。カエデくんか。夢を見るのもいいけど、口にはしないことだ。今後ああいう輩に絡まれたくなかったらね」
警備兵はカエデの手をつかむとカエデが起きるのを手助けした。
「ありがとう……ございます」
(確かに僕は弱い……!! 弱いけど!!!! 絶対に諦めてやるもんか!!! 英雄になって、父さんと母さんを驚かせるんだ!!!)
酒を浴びたのを気にもせずに、彼はダンジョンへと向かった。
ダンジョンは階層性になっており、何階層あるかはまだ把握されていない。
しかし、下に行けば行くほどどんどん強くなることはもはや今では周知の事実だ。
(僕はせいぜいいけても3階層……。それ以上は確実に死んでしまう)
「よし!! 今日は少し頑張って四階層を目指すぞ!!」
「はあはあはあ!!!!」
カエデはダンジョンの端で冷たい地面に尻餅をつきながら追い詰められていた。
(やめておく……べきだった!!! 最初の考え通り、四階層で止まっておく……べきだった!!!!)
カエデは予定通り四階層で戦っていたがあまり
しかしそこからカエデは、ならまだいけるだろうと高を括り五階層まで下りてしまったのだ。
その結果がこれだ。五階層には
(ああ……もうだめだ……。ここで死ぬ)
ぐがああああああああああああぁあああああ!!!!
ディアウルフの頭が砕け散った。
「大丈夫かよ?? 小僧?」
そう野太い声で赤いローブをした青い髪をした短髪で髭が口周りに生えた身長190㎝ぐらいの男は言った。
「あ……。ああ!!!」
カエデはこの男に見覚えがあった。書物で読んだあの人物だ……!!!
「ヘルメイ様!??」
なんと、目の前に現れたのはみんなの英雄ヘルメイだった。
「けがはねえか??」
「ないです!! ありがとうございます!!!」
思わず立ち上がり大きな声でお礼をする。
「小僧、お前……何年生まれだ??」
「え、えっと……。ヘルメイ26年です……」
「マジか!!! 俺の時に生まれてんのか!! 老いっていやだねえ……」
英雄西暦制度。英雄が死に次の英雄が生まれたその次の年から1年と数えていく。
ヘルメイは19の時に英雄になったためその次から数え現在ヘルメイ41年である。
「ま! それよりだ。小僧? 見たところあまり強くはないようだがこんなところで何をしているんだ??」
「えっと……実は」
僕は今までの経緯をヘルメイ様に話した。するとヘルメイ様は怒るわけでも、あきれるわけでもなく……
「ぐぁぁあはっはっはっは!!!!」
笑った。
「怒らないんですか??」
「怒る??? なんで俺が?? それよりおもしれぇじゃねえか!!」
「面白い???」
「実はよ?? 俺もここだけの話なんだがな。お前ぐらいの年の時に同じことをやったんだ」
ヘルメイ様は僕の頭を優しくなでた。
「ヘルメイ様も!??」
「そんで死にかけてよ? そしたらなんか手から白い光が出て声が聞こえたんだよなぁ。そんで目を開けたら
なんてことだ。今までどの書物にも書かれていなかった情報をあっさりと僕に教えてくれたのだ。
「あ! やべ!! これは言っちゃいけねえ情報だったか!!! がっはっは!!!!」
そういうとまたカエデの背中をたたきながら大きく息を吸い笑う。
(なんだか想像と違った……。でも……すごいいい人なのは合ってた)
「あ……あの!!! ひとついいですか??」
「なんだ??」
僕の真剣な様子を悟ったのか急に笑うのをやめた。
「僕も……英雄になれますか???」
「しらん」
即答だった。
「し……しらん???」
「ぶっちゃけ英雄になれるのは妖精に選ばれたものだけなんだよ。なれるかどうかなんてあいつら次第さ」
「それってどういう???」
「あ!! もうこんな時間か!!! 俺行くわ!!」
そういうと準備を早々とし、走り出した。
「ま!! そのうち小僧にもわかるさ!!!」
最後にそれだけ言い残した。
夜、カエデは眠れなかった。もちろん今日の死にかけた恐怖のせいもあったが、それ以上にヘルメイにあった衝撃の余韻の影響が大きかった。
(今日はヘルメイ様と話せて本当によかったなあ……。いろんな経験、知識、技量……。すべてが一瞬でオーラだけで分かった)
「でもなんか……。嗅いだことのある匂いだったなあ……。ま! 気のせいか!!」
コンコンコン!!
「郵便でーす!」
扉を叩く郵便配達員らしき人の声でカエデは目を覚ました。
「ふえ??? あ”!! はーーい!! 今行きます!!」
急いでドタドタと音を鳴らしながらドアを開けるとそこに立っているのは三人の子供だった。
「みろよ!! これが“最弱”の顔だぜ!!!」
「ほんとーだ!! ぷぷ!! よだれまでたらしてんの~~」
「だめだよ~~。そんなに笑ったら! 泣いて逃げちゃうよ??」
ドアを開けるや否や、三人は馬鹿にするようにカエデを笑った。
実はこれは初めてではない。様々な人がカエデに嫌がらせをする。
しかしカエデは慣れてしまって、気にもしない。
「ダメじゃないか。みんなお家に帰りなさい」
カエデは14歳ながら大人の対応をする。しかしそれが子供をつけあがらせる。
「なんだこいつ~~!!!」
「つまんないの~~!!!」
「これでもくらえ!!!」
子供たちは道端に落ちていた石をカエデに投げた。
「いて!!! やめて!!」
もちろんやめろと言われてやめる輩はいない。
そんな時だった。
「やめなさ~~~~い!!!!」
クリーム色のブラウス、ボディス、袖、紫のベルベットベスト、グリーンのレイヤーが付いた紫のスカートが付いたロングドレスを着た青髪ロングの瞳もきれいな青の女性が大声で子供たちの方に走ってくる。
「やべ!! シリアだ!! にげろ~~~!!!」
子供たちは走って逃げていった。
「もう‼ あの子らったら……。大丈夫?? カエデくん??」
この女性はシリアさん。酒場で働いていて、僕より二個上の16歳。僕に優しくしてくれる数少ない一人だ。
「だ、大丈夫です。慣れてますから」
「そんなこと言わないの!!! ほら頬ケガしてるじゃない!!!」
シリアさんが僕の顔に手を触れた。その瞬間だった。
ぼんやりと景色が浮かぶ……。
「大……夫!!……た!!……と会え……」
なんだか初めて聞く声なのに、懐かしい気がした。
「……エデくん!! カエデくん!!!」
「はい!!!?」
「も~! いきなりぼーっとしてどうしたの?? やっぱりお医者さんに診てもらった方がいいよ???」
(なんだったんだ?? 今の声?? 空耳か??)
「いや! 大丈夫です!! そんなに重症じゃないので!!」
「それならいいけど……。でもこれ!!」
シリアは持っていた手提げからハンカチを取り出した。
「せめてこれぐらいは使ってね!!!」
こんな天使が僕と話してくれるなんて幸せだ……。
「あ、ありがとうございます……。それよりシリアさんは今日も教会ですか??」
「そうよ」
シリアさんは教会に毎日通ってる。どうやら『会いたい人がいる……』とかなんとからしい。会いたいという言葉を察するになくなってはいないと考えて妖精だろうか??? 本人も特に自分から話す様子はないし、僕も聞くのは避けている。
「私、酒場の仕事があるからもう行くね? カエデ君ももしよかったら来てね~~‼
いっぱいサービスするからね~~!!」
手を振りながらシリアは酒場に向かっていった。
カエデも手を振り返した後、ダンジョンに向かった。
ダンジョンの帰りに今朝のことを思い出し、カエデは酒場に向かうことにした。
木製のきれいな建物だ。決して大きくはない一階建てだが、アノスィスでは人気の酒場の一つだ。
そんな酒場の名前は“ガエサンの酒場”。どうやらガエサンさんという女主人が経営をしているところからその名がついたらしい。
カエデは優しく酒場の扉を開き、中に入った。
「いらっしゃーい!! ってカエデ君じゃない!! 来てくれたのね!!!」
出迎えてくれたのはシリアさんだった。
「あ……どうも」
僕は周りの白い目を気にも留めないシリアさんに驚きつつも案内された席に座った。
「何を食べる?? 私のオススメは“青巒公のビィーノソース和え”かな??」
「じゃ、じゃあそれを……」
僕は恐る恐るその食べ物の名前が書いてあるメニュー表に指をさした。
「了解! ガエサンさん!! 青巒公のビィーノソース一つ~~!!」
「あいよ」
シリアさんはガエサンさんと思わしき人に話しかけていた。
(でもなんでシリアさんは僕にこんなにも気さくに話しかけてくれるのだろうか……)
「シリアさん」
思わず声が出てしまった。
「どうかした??」
「あ……えっと……。どうしてそこまで僕に優しくしてくれるのですか??」
「私は“弱いから”とかそんな理由で人を見たくないの。昔とっても大事な人がね、『種族や強さなんて関係ない。必要なのは他人を思う気持ちだけだ』って言っててね。それを今でも私は大事にしているだけ」
「その方はとっても素敵な人ですね」
(世の中にはそんな言葉をかけてくれる人がいるんだな……)
「そうね。でも弱いというだけで迫害をするようなそんな人間にだけは一生なりたくないものだわ」
凛々しい顔立ちでシリアは言った。しかしそれは酒の入った他の冒険者からすれば挑発のように聞こえてしまった。
ドン!! と音を立てながら一人の冒険者がカエデの座っていた席の机を蹴っ飛ばした。
「おいおい嬢ちゃん?? それは誰のことを言ってんだ?? あぁ??」
怖い顔立ちの目の間に一本線の傷がはいった30代ほどの腰に刀を付けた男は大声で怒鳴った。
「お客さん。机は蹴るものではありません。やめていただけませんか??」
「うるせえよ。俺の質問に答えろ? なあ??? おい」
そういってシリアの髪をつかもうとしたその瞬間だった。
カエデがその男の腕をつかんだ。
「あぁ!!! ふざけた真似してんじゃねえよ。“最弱”!! 放せや」
「あの……その……。女の子の髪を掴もうとするのはどうかと思います」
いつになくカエデはまじめな表情をする。
「まぁ? 別にお前の力なんて弱ぇから自力で振り払えるんだけどな??」
男冒険者はカエデの掴む手を振り払おうとする。
「おぉら!!! くそ!! なんでだ!??」
なかなかカエデの手を振り払うことができないことに男は困惑する。
「おいおい!! どうしたんだよ?? “最弱”を振り払えないのか??」
周りの他の冒険者はヤジを飛ばしながら笑っている。
「うるせえ!!! くそが!!!!」
男はカエデに殴りかかった。おそらくカエデは酔っ払いのパンチなど避けることも、反撃することもできた。しかしカエデはあえてそれを頬で受けた。
「か、カエデくん!??」
それを見たシリアは心配と共に困惑する。
「ぐへへ!!! 当たったぜぇ!! 雑魚がよォ!!」
この男以外はわざと当たったことを誰もが気づいた。
「これで満足ですか??」
「あぁ!??? なんだてめ……」
さらにもう一発殴ろうとしたところでそれを手で止めたと思ったら、カエデは続けて口を開いた。
「僕のことをどう思おうが、殴ろうが好きにしてください……。でもガエサンさんが自分の夢を持って経営しているこのお店でこれ以上暴れるのはやめてください!!!! 自分のせいで周りの人間に被害が出るのは嫌なんだ」
「誰がてめえの話なんか聞くかよ!!!」
カエデを再び殴ろうとした時だった。
「よせ……」
厨房の方から声が聞こえた。
「だれだ……?? ひぃ!!!」
中から出てきたのは白髪の一つ結びに青い目の右目に眼帯をした身長180ほどの女性。お店の正装越しでもわかるほどの筋肉。
それを見た男は手が震える。
「久しぶりにこの手を赤く染めなければいけないかもしれん……な」
「ひぃ!!!! ご、ごめんなさい!!!!」
「次から気を……付けろよ??」
「わわっわわかりました!!!!」
驚きすぎて男は今にも吐きそうな顔立ちで動悸を起こしていた。
それを見た仲間たちが肩を貸し、お金を置いて逃げていった。
「あ、あの……シリアさん。この方は??」
「ガエサンさんですよ!!」
「あ! そうなんですね 初めましてミロさん。助けてくださりありがとうございます」
ガエサンは驚いたような表情でカエデの方を見る。
「あの……どうかしましたか……??」
「いや……。俺が怖くないのか??」
「いえ! 全然ですよ。僕を助けてくれるような人が怖いわけないじゃないですか」
カエデは当たり前かのようにそういった。
「お前もか。俺を初見で怖がらなかったのは……お前で二人目だ」
ガエサンは少し口角をあげた。
「それより……だ。他にも……やりたいやつがいるなら相手をしよう」
さっきまでヤジを飛ばしていた者たちは全員黙ってまた食事に戻った。
「そうか……。ではゆっくりと楽しんでくれ……」
そういうとまたカエデに話しかける。
「そういえば……。カエデ……はどこのギルド所属なんだ?」
「無所属です」
それを聞いたミロはまた驚くような顔をする。
「ということは……パーティ……もいないのか??」
「そうですね。一人でダンジョンに潜ってます」
「それはよくないな……鑑定士はいるのか……??」
「鑑定士??」
「鑑定士というのは……だな。本来把握することのできない……冒険者のステータスがわかる……業種のことだ」
「へえ……。そうなんですね」
「本来なら……ギルドに一人は必ず……いるから、個人的に……雇う必要はないが……、カエデは、ギルドに……所属していない……から、個人的に雇う……必要がある……」
(そうだったんだ……。僕が冒険者になったのは最近だったから、知らなかった)
「でもそんなに詳しいなんて、ガエサンさんは冒険者なんですか??」
「昔……な。でもこの右目とともに引退……した」
「そうなんですね。不躾なことを聞いてしまいごめんなさい……」
「大丈夫だ……。気にすることでも……ない。このけがのおかげ……で、この酒場も……できた」
ガエサンはカエデの頭をなでながら再び微笑んだ。
ガエサンさんの手は温かく、久しぶりに人の温もりを直に感じた。
「また……何かあれば……俺に聞け……。頼られるのは……嫌いじゃない……」
「ありがとうございます!」
「俺は……厨房に戻る……。ゆっくり……楽しめ」
ガエサンは何事もなかったかのように厨房に戻った。
僕はそのあと、食事をしっかり楽しんで家に帰った。
「鑑定士かぁ……」
昨日ガエサンに言われたことをカエデは思い出していた。
「確かに僕は、自分のステータスを知ることができないから強くなってるのかどうかすらわからない……。一応、考えてみるかぁ」
本来の冒険者ならすぐに見つけることができるだろう……。しかしカエデは“最弱”の名が広まっている以上、仲間になってくれる者などいない。
それを知っているカエデは悩んでいたのだ。
「まあ……。とりあえずダンジョンに行きますか……」
カエデは深く考えるのをやめ、いつも通りダンジョンに向かう。
ダンジョンでカエデは戦っていて気付いたことがあった。
(慣れの影響もあるけど、体の使い方が上手くなった気がする……!!)
おそらくステータスに変化はない。しかし地の身のこなしが確実に上達している。
最弱である故、ステータスが低い。だからこそ下の階層に行くごとに強くなる
(でも……まだまだだ。まだまだ
そうして自分に喝を入れながら今日もダンジョンに一日中潜った。
ダンジョンからの帰り、おそらくパーティだろうと思われる冒険者たちが話していることがたまたま耳に入った。
「あぁ……。またあいつやったのか??」
「あいつがいるせいで俺たちがあんまり働いてないのがギルドにばれるじゃねえか……」
「あいつ。モンスターの餌にしねえか??」
「ぐふ……いいアイデアだな」
(なんて卑劣な冗談なんだ……)
おそらく愚痴の言い合いだろうと思い、この場は聞かなかったことにした。
しかしこれが後の大きな問題へと発展していくのだった……。
次の朝。 ちゅんちゅんちゅん
小鳥の声で目が覚めた。
「んん……。ふぁ~……。もう朝か……ダンジョン行かなきゃ」
(でも動物っていいよなぁ……。平等に接してくれるからなあ)
「いけない!! ぼーっとしてるとまた寝ちゃう! さっさとごはん食べちゃおっと!」
いつも通りご飯を食べ、身支度をしてダンジョンに向かう。
(今日はどこまで行こうかなぁ……。五階層……かあ)
正直カエデには五階層はトラウマだった。ディアウルフがいるからだ。
ディアウルフは通常、群れでの行動を得意としており、多いものではウルフを20体同時に連れて行動する個体もある。
「あの時はたまたま親玉一体だけだったけど、それでも勝てる気がしなかった。しかも他にも何がいるのかわからない……。怖いな……」
本来ここで鑑定士がいれば自分の強さを把握して階層を変えることができる。
(やっぱり、鑑定士優先かなぁ……)
そこから様々な鑑定士に声をかけた。
しかしカエデの顔を見るや否や、あきれたり、無視したり、さらには罵詈雑言を浴びせるものまでいた。
「はあ……。やっぱそうだよなぁ……」
カエデは悪循環に入っていた。強くなろうと下の階層に行くためには鑑定士がいる。しかし鑑定士を手に入れるためには“最弱”から抜け出さなければいけない。
「一応もう一度、ガエサンさんに相談してみるかぁ」
ダメもとでガエサンの酒場へと向かった。
「いらっしゃ~い! ってカエデ君じゃないの」
扉を開けると前回同様、シリアが立っていた。
「どうもです。あの……ガエサンさんはいらっしゃいますか??」
「ガエサンさんなら奥で休憩してるわ。今呼んでくるから待ってて」
そういうとシリアさんは奥の従業員用と思われる部屋に入っていった。
数分してガエサンを連れてシリアは戻ってきた。
「どうした……なにか……用か?」
ガエサンとカエデは椅子に腰かけながら会話を続ける。
「よいしょ……。実はあれから鑑定士を探したのですがかくかくしかじかで……」
「なるほど……。詰み……だな」
「そうなんです……。それでどうすればいいかなと思ってダメ元で……」
「俺のところに……来たと?」
「ハイ……」
今となって申し訳なさがカエデを襲う。
(いいのだろうか?? 頼ってしまって……)
「そんなに……しょぼくれるな。実は……うちにも、鑑定士は……いる。元だが」
「ほ、本当ですか!??」
カエデは机に身を乗り出してガエサンに聞く。
「あぁ……。さすがに……、パーティにやる……わけにはいかんが、一度見てもらうくらいなら……いいぞ。本人の許可次第……だが」
「ぜひ!! ぜひ!! お願いします!!!」
カエデはあまりの嬉しさからガエサンの手を握りながら懇願する。
「お……おう」
あまりの勢いにガエサンは押される。
「おいリアン……。ちょっといいか……」
「はーい? どしたんすか?? ガエサンさん」
ガエサンが呼ぶとそこに現れたのは、金髪ショートで褐色に程よい筋肉の見てわかる通りボーイッシュな女の人だった。
「わるいんだが……カエデの……ステータスを……見てやってくれ……」
「え~……はあ……ガエサンさんが言うなら……」
少しダルそうにカエデを見ながら言う。
「あ、ありがとうございます!!」
カエデは無邪気に返事をするが、それを見てリアンは
「あのなあ? 冒険者君のためじゃない。それだけは勘違いしないでほしいな? 言っておくけど僕は冒険者は大っ嫌いなんだ!」
まるでゴミを見るかのようにカエデを見る
「それでも……引き受けてくださり、ありがとうございます」
しかしカエデは普段からその視線を受けているためまったく怯まない。
「……。調子狂うな……。まあいいや。左手出して」
「こ、こうですか??」
カエデは言われるがままに左手をリアンに差し出す。
「誇り高き妖精よ。我に数奇なる運命へと導かれる生の一部を見せたまえ。
彼女が詠唱を唱えるとカエデの左手に多くの文字が浮かびあがってきた。
「す、すごい……!! これが
初めて見る
「はいはい少し黙ってくれる?? えーっと……なにこれ!???」
その数字の羅列を見てリアンは声を張って驚く。
「どうか……したのか?? リアン」
その驚きように思わずガエサンは声をかける。
「た、大変ですよ!! こいつのステータス……全部1なんですよ!!」
「な、なんだと……!! ミス……じゃないのか……」
カエデが見る以上初めてガエサンは声を荒げる。
「私の
二人の会話にまったく入れないカエデは質問する。
「えっと……。つまりどういうことなんですか???」
どういうことかわからないにせよすごいことなのかもと心を躍らせる
しかしそんな期待は次のリアンの一言に一瞬で切り裂かれた。
「あんたは史上最弱ってことよ!!!!」
「え?????」
憧れはいつでも僕を強くする 読み切り 鷹山 @hijiki0808
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