第19話…「ただ居場所を求めて」


――――「ラピスの精霊湖(夕暮れ前・晴れ)」――――


 シュルシュルと地面を滑りながら、少女は全身に日差しを浴びながら、精霊湖の周りを彷徨う。

 ここは安全だ。

 誰かに害される事もない。


『その耳、治そう』


 あの人はそう言った。

 あの人…精霊様なら、きっとソレも可能だ。

 少女は自身の耳に触れた。

 痛みなんてモノは、とうの昔に無くなっている。

 でも痛くないはずなのに、それに触れる度に痛みを覚えるのだ。

 耳ではなく、胸の奥がズキズキと…。


 当ても無く、ご飯を作る調理場へ戻ってくると、コロコロコロッと、芋が地面を転がって来た。

 少女はソレを拾い上げ、転がって来た方向を見る。

 その先には、1人のコボルトのお婆さんが、慌てた素振りで駆け寄ってくるところだった。


「あら「イオラ」ちゃん、拾ってくれてありがとう」


 黒毛の羊コボルト「ヨミア」、今はここで食事の料理長をしている老婆だ。


「イオラちゃん、顔色が良くないみたいだけど、大丈夫?」


 ヨミアの問いに、首を振りながら、大丈夫とつぶやきつつ芋を渡す。


「大丈夫だよ」


 そう言って少女…イオラは、自身の足…いや人で言う所の足…という言い方が適当なソレを、ヨミアに見せてふるふるッと振って見せた。

 それは人や獣…虫と言ったモノに存在するものとは違う…蛇のような下半身、灰色の鱗を煌めいている。


「そんな事より、何か手伝う事ある? みんなのご飯作るの手伝うよ。イオラ頑張るから」


 イオラは、前のめりになりながらヨミアへと詰め寄った。

 顔にはやってやるッという意気込みがしっかりと籠っている。

 その気迫に押されながら、ヨミアはうんうんと頷いた。


「そ、そうかい? そりゃあ助かるよ。この後、あっちゃん様も手伝いに来てくれるけど、それまでに大体の事は終わらせておきたいんだ」


 ヨミアは驚きつつも、落ち着いて微笑みを少女へと送った。


「う…」


 しかし、手伝いを受け入れてもらい、喜ぶべきイオラは、どこかぎこちなく、今までとは違って気まずそうだ。


「なんだい? まだあっちゃん様と仲良くできてないのかい?」

「うぅ~…」


 ヨミアの言葉に、少女は体を縮こまらせる。


「ここで生活するようになってしばらく経つけど、あっちゃん様が怖いのかい?」

「べ…別にそんな事…無い」


 イオラは俯きながら、胸元でもじもじと手を結んだ。


「ならいいけどね。あの方は精霊様だ。精霊様のほとんどは、人と関りを持とうとしない、興味を持たない。それなのに私達を助けて、そして住む場所と安全をくれた。とても稀有な方だ。その事に、感謝はしないといけないよ?」

「う…うん、い…イオラは…」

「さてッ、今日も今日とて、お肉メインのご飯だけど、まぁソレを嫌がる人はここにはいない。イオラちゃん、ちゃっちゃとやっちゃいましょ」


 ヨミアはイオラに包丁を渡す。


 少女は、ムスッとした表情を浮かべながら、その包丁を睨みつけた。

 それは決して、機嫌が悪いとか、そう言う訳ではない。

 集中するあまり、眉間に皴がより、目に目力がついてしまっているからだ。


「い…イオラちゃん、落ち着くんだよ…、ゆっくりだ。ゆっくりでいいから、気を付けるんだよ?」


 そんな少女を見かねて、ヨミアは見守り始めた。


「ご、ごめんなさい。イオラ…こういうのは初めてで」


 右手に包丁、左手にジャガイモを持って、その皮を剥く。

 プルプルと震える手で、でもしっかりと…そして着実に皮を剥いている。

 手慣れた手付きで料理の準備をしていくもう1人の羊コボルト白毛の「ミセス」が5個のジャガイモを剥き終わるぐらいで、イオラはようやく1つのジャガイモを剥き終わる…、それは遅いと言えば遅いが、確固たる成果だ。


「大丈夫かい?」

「うん。ごめんなさい、でも…でもやらせて? イオラにもできるから、手伝わせて…」


 声は震え、その表情にも必死さがにじみ出る。

 それを見て、ヨミアは何も言えなくなった。


 イオラは必死だ。

 ここでは、何かできる事が無ければいけない…という決まりはない。

 アレッドは、助けたからには最後まで責任を持つと決めている。

 なんでもかんでもやってあげる事が、責任を持つ事に繋がる訳ではないが、何をするにも、出来ない事をできるに変えるのも、すぐに解決しない。


 アレッドが彼らを助けたのは、あくまで自分の為である。

 最初は見捨てる事で夢見が悪くなったり、自分で自分の尾を引く事になるのを避けたかったから…、そして助けた後は…。

 とにかく、自分の駒として使う為に、彼女達をここに置いている訳ではないのだ。

 しかし、イオラは焦燥感が募るばかりだった。

 それはここの環境のせい…と言えなくもないが微々たるもので、大体は少女の過去に起因する。


「このジャガイモ大きいね」


 いくつか皮を剥き終わり、最初程には力が入っていない事で、落ち着き始めたイオラは、その時初めて自分が手に持っていたジャガイモの大きさを知る。

 どのジャガイモも、自身の拳よりも大きい。

 少女の知るソレは、いつも手の平に収まる大きさのものだ…、それこそ2個持ってようやく手から溢れそうになる程のサイズだ。


「そうだね。このジャガイモは大きさもそうだし、形も綺麗。こんなに出来のイイモノは、王都にでも行かなきゃ食べられないよ」

「王都? 王都ってデモノルストの?」

「他にどこがあるんだい? 私らの若い頃は、コボルトも向こうに住んでてね。大きな商家の屋敷で使用人として働いたもんだ。その時、祝い事に出るシチューに入れるのがこういう芋だったよ。使用人でも、そう言う時ばかりはご相伴に預かったもんさ。まぁ全部先代国王様の時代の話だがね」


「先代の王様はいい王様だって、お母様に聞いたな~」

「そうさ、あのお方は、何より人の暮らしを重んじるお方だった。力の強い魔族、弱い魔族、それぞれにできる仕事を分配して、等しく賃金を与えてくれた。あの時代だと、私らみたいな羊コボルトの生娘の毛は肌触りが良くて、服にするととても着心地がイイって、高く取引されたもんだ」

「ええッ!? 毛を? さ…寒くないの?」

「そりゃ寒いよ。でもあの時は、毛を刈ってイイ服を着て、ソレができてれば毛並みが良くて懐が肥えてるだろうって、むしろ男連中に言い寄られて大変だったぐらいだ」

「そ…そうなんだ。・・・そうだよね。お金が無かったら、毛を売っても服なんて買えないもんね」

「そうさ。金がないんじゃ、服を着てもボロボロの布切れだよ」


 はははっとヨミアは笑う。

 かくいう自分も、その時代はそれでぶいぶいと言わせて、男と夜な夜な遊んで、親にこっびどく叱られたもんだ…と、褒められた事ではないとわかっていても、胸を張るぐらいヨミアは誇らしく思っている。


『何言ってんのよ~。そんな昔の事を若い子に教えないで~、恥ずかしいわ~』


 ヨセフの隣で作業をしていたミセスは、少し顔を赤らめて、ヨセフの肩をぽんぽんっとたいして強くもない力で叩いた。


「何言ってんのよ。むしろ、あの時はあんたが一番そういう事に乗り気だったじゃないさ。旦那の「スミス」だって、その時にひっかけた口だろ?」

「やだ~、引っ掻けたなんて言い方やめてよ~。私達、ちゃんと恋愛婚したんだから~」

「何が恋愛婚だ。隙あらばスミスに言い寄ってたくせに」

「ふふふッ、あの人押しに弱いから、私がススっと寄ると、顔を真っ赤にして恥ずかしがるのよ。可愛いわ~」

「ケッ、いい年して惚気るんじゃないよ、それこそ子供には目の毒ってもんさ」


 呆れたようにため息をつきながら、ヨミアはイオラの方をチラッと見た。

 少女は、呆気にとられて、首をかしげている。


「すまないね。年甲斐も無くはしゃいじまって。昔話に花が咲いちまった」

「ううん。知らない事を知れるのは楽しいよ?」

「そうかい。ならいいんだけど」

「うん。イオラは、王都の暮らしがどんなのか知らないから面白い。お母様が昔、話してくれたおとぎ話の街みたい」

「おとぎ話…か。イオラちゃんは王都の出身じゃないのかい?」

「生まれたのはたぶんそうだけど、住んでたイオラの里は岩がいっぱいある渓谷だったよ? 岩肌に穴を掘って、お家にするの」

「渓谷かい? デモノルストにある渓谷って言うと、王都の北西にある「紅の渓谷」かな?」

「名前まではわからないけど、野菜はあまり育たなくて、そのかわり魔力がいっぱいあるから、美味しい魔物がいっぱいいた」


 そう言って、イオラはワーッと自分の両手を広げて、少しでも沢山…を表現しようとする。


「ほ~ん。ラミア族だし、魔物がぎょうさんいても、ご飯がいっぱいある…程度にしか思わんのかな? でもラミアなら、その能力で王都の方で生活するのも夢じゃないはずなんだがね」

「よく覚えてないけど、大きな建物がいっぱい並んでいるのを、見た事はあるよ」


 物心がつく前の、今となっては数少ないその頃の記憶。

 余程強い衝撃でも受けたのか、イオラの記憶にはうっすらとだけその光景が、瞼の裏に映し出される。

 でも、少女がその時に見ていたのは、そんな町並みではなく、自身の母親の姿だった。


『なんか盛り上がってるね~』


 そこへ、スイ道で手の汚れを落としたアレッドがやってくる。

 彼女の声を聴いた瞬間に、イオラはビクッと体を震わせた。


「イタッ…」


 そのはずみで、持っていた包丁で指を切り、そしてその鮮血が、薄黄色のジャガイモの身に一滴だけ落ちた。


「あれま大変だ」


 イオラの異変にいち早く気付いたヨミアは、手元にあった手ぬぐいで、少女の切れた指を覆う。


「ごめん、脅かせるつもりはなかったんだけど、すぐ治すから」


 アレッドの体がパッと光ったと思えば、先ほどまでのエプロン姿とは打って変わって、屈強な白銀の鎧姿へと変わる。

 何故だか血しぶきを浴びたかのように、血で汚れているのは、そう言う模様なのだろうか。

 指を切るなど、子供からしてみれば、転んで膝を擦り剥くぐらいによくある事だ。

 その仰々しさに、思わずイオラはブンブンッと首を横に振ってしまう。


「そ…そう……ごめん」


 再びパッと光ったアレッドは、先ほどまでと同じエプロン姿へと戻った。

 その表情には、残念そうな色がにじみ出ている。


「まぁまぁあっちゃん様、あなたの御業を包丁で指を切ったぐらいで使っていては、むしろ罰が当たるってもんですよ。イオラちゃんもソレを思って、ねぇ?」


 ヨミアがイオラを見てウィンクをする。

 幾ばくか、その意味が分からなかったが、とにかくイオラは首を縦に振った。


「そんな大げさな力でもないんだけど…」


 アレッドからしてみれば、ゲーム内で、戦闘時に当たり前のように使っていた回復系戦闘スキルを使おうとしていた。

 全開じゃないにしても、それ1発で切断とか致命の傷でもなければ回復する効果はあるはずだ。

 その時点で、オーバーパワーであるが…。


 それを機に気まずい雰囲気が漂い始める。

 かたや力になろうとして拒絶された沈黙、かたやただの大事無い切り傷に精霊様の魔法を発動させる恐れ多さ…、かたやアレッドに対してどう接していいのかわからずに…その存在に面影を追い続ける申し訳なさ…。

 誰も、この絡み合った気まずさを理解していないが、この場の空気には、とても複雑怪奇だった。


 そんな空気を打ち破る様に、パンッと気持ちの良い手を叩く音が響く。


「そうそう、あっちゃん様、畑の方はどうでした~? この前~夫が成長の速い~てビックリして増したけど」


 手を叩いたのはミセスだった。

 苦しく息苦しい空気とは真逆の笑みを浮かべながら、彼女は、持っていたジャガイモの皮をパパッと剥き終えて、アレッドの方を見る。


「畑? ああ~うん。スミスさん達と一緒にやってるの、育ちは確かにいいけど、水やりの分量を間違えると、イイ野菜にはならないみたいで、四苦八苦してるよ。実験的にジャガイモを植えてるんだけど、葉は大きく一杯生えるのに、芋自体があまり出来なかったり、出来たかと思ったら、量はあっても小さかったり、1個大きな芋ができたと思ったら、それ以外が小さくなって、大きい方が割れちゃったり…」


 アレッドは悔しそうに握り拳を作る。


「湖の水が下手な肥料以上の効果を発揮してくれるのはわかったけど、不出来なモノばっかりできてもね~。千里の道も一歩からとは言うが、まさか農作業がこんなに長い道のりとは…思ってかったよ」


 今度は、ため息をつきつつ、肩をすくめた。

 イオラの目から見て、やっぱりアレッドは変わっている。

 「少女の知る精霊」とは、やはり違う。


「味の方はどうなのです? 形や大きさが不安定でも、味が良ければいいと思いますが」

「ウチもそう思うんだけどね~。これもなかなか。味がマトモでも、どれだけ火を通しても芯が残ったり、無駄に硬くて食べられなかったり、味が薄かったり…ソレも様々、手を焼かせてくれるよ」


 そこまで言って、何かを思い出したかのように、アレッドは人差し指を立てた。


「あッ、でも、その分、スミスさんとか、皆やる気出しちゃってね。それはもうウチが手を出す余地が無くなる勢いだよ」

「それはまた。夫があっちゃん様の仕事を取ってしまって…ごめんなさいね~」


 ミセスが申し訳なさそうに頭を下げる。

 その姿に苦笑しつつ、アレッドはすぐに正させた。


「いいよ。畑作りは、人が増えて、手持ちの食材の事も、元々畑を作るつもりだったけど、農作業がしたかった訳じゃないし。そこにやりがいを見つけられた人がいるなら、その人にやってもらうのが一番。むしろ、これで他の事がいっぱいできる」

「例えば、他に何をしたいんですか?」

「ん~そうだな~。今、皆を急ごしらえの広めの家で雑魚寝をしてもらってるけど、長屋風なモノでもいいから、ちゃんと区切られた個人の空間とか作ってあげたいね」


 その経験も、パーティハウス建築の礎になる。


「他は…、霧の外に出て、狩りとか、薬草とか山菜採りにも行きたい。今は「ベッツ」さんに任せっきりだからね」


 コボルトたちは、それぞれ、自分ができる事を役割分担して、ココでの自身の役目を見つけている。

 イオラが焦りを覚えるのは、そう言う光景も1つの要因となっていた。


 話もそこそこに、アレッドは片手間に、ポンッポンッポンッと食材を手の上に出していく。


 いつ見ても、何もない所からモノが現れるのは不思議な光景だ…と、その様子に興味津々にコボルトたちは見入った。


「こうやって見ると、【マジックボックス】を使えると便利ですね~」


 ミセスはそんなアレッドの技に、羨ましそうな目を向ける。

 実際には、アレッドのソレはアイテムボックスであり、スキルの【マジックボックス】とは別物だ。


 彼女の言う【マジックボックス】は言うなれば、そんなアイテムボックスのスキル版であるAスキル。

 魔力を消費して、亜空間の箱を作り出すようなイメージだ。

 その大きさは大体大きくても段ボール1個分で、そんな空間がポンッと出来上がるだけ、アイテムボックスとは違って、時間が進行する…、だから生ものは痛むし腐る。

 便利は便利だが、コレが思いのほか魔力を喰って、維持している間、魔力を消費し続ける、アレッドの使うアイテムボックスには、そんなデメリットは存在しない。


 魔力を延々と消費し続けるというデメリットがあるからこそ、使い勝手は悪く、ソレを使う者はほとんどいないとさえ言われている。

 ソレも、[マジックバック]という道具があり、余計にスキルを習得しようとは思われない理由の1つだ。


 [マジックバック]、それはアイテム…道具であり、物として存在するバッグ…鞄を、魔法を使って改良する事で、見た目や大きさはそのままに、中を広くする魔法の鞄だ。

 その広さは、その効果を維持するために使用された[魔石]の性能に依存し、良い[魔石]を使う事で、バッグの中が倍になったり3倍になったりとできるほか、広くするだけじゃなくバッグの総重量を軽くさせる効果も付ける事ができる。

 もちろん、それだけの[魔石]となれば、高価になり、[マジックバッグ]自体の価値も跳ね上がるが、バッグの効果の維持も魔石があれば事足りて、使用者側の使用中の負担もない…。


 魔法等の才に左右され、使い続けるのにも苦労する【マジックボックス】とは、使い勝手が違い過ぎる。

 もちろん、【マジックボックス】に利点が無いわけではないが、欠点ばかりが目に付く、期待された駄スキル…と、世間では呼ばれている代物だ。

 もしも、【マジックボックス】を実用化できるレベルまで改良出来たら、この世界ではそれだけで、教えてくれ…とお金を積む人がいるかもしれない。


 今回の料理の支度は、正直に言えば、イオラが参加した事でその進行はだいぶ遅れている。

 そんな事を気に掛ける人は、少女の周りには誰もいないが、本人は申し訳なさに苛まれた。



――――「ラピスの精霊湖(夜更け・晴れ)」――――


「はぁ…」


 少女は、眠る事ができずに、少しでも眠りやすくなれば…と、湖の周りを進み、ついには一周してきたのだが、その瞼には眠さの欠片も無く冴えわたっていた。


 寂しかった。


 孤独感に苛まれ、自分の居場所を見失いそうになる。

 この湖で生活をするようになって、皆がよくしてくれるし、少女にたいして、ここにいてもイイ…と教えてくれているはずなのに、少女もそうであろう…と思えているはずなのに…、その空気に馴染めなかった。


 それは自分が皆の足手まといだから…、自分は何をやってもうまくできないから…、自身がそう思っているだけでなく、結果として事実そうなってしまっているから…、自分の事を必要のない存在だと決めつけてしまう。


「・・・お母様…」


 そんな状態でも何とか頑張ろうと思えるのは、背中を押してくれる母親の存在があるからだ。

 ここにはいない母。

 会いたいと願っても、自分の力では会いに行く事すらできない。


 その首に、[隷属化の首輪]をはめられる前にも、母の顔を見た…。

 決して遠い昔ではない、その記憶も、この短い期間で色々な事があったせいで、どんどんと薄まっていくのを、少女は感じている。

 もし、自分で自分の居場所を作る事ができずに、母の記憶が無くなった時、自分はどうなってしまうのか、ただ怖かった。


 背中を押して、勇気をくれる母の顔が思い出せなくなったら、自分を支えてくれるモノが無くなってしまう…。

 そうなったら自分は…。


 少女は、そんな恐怖に身を縮こまらせて、締め付けられる胸を抱いた。

 良い人達に囲まれていても、どうしても感じてしまう孤独感に、1人恐怖を抱きながら…。


 今もまた、母の姿を思い出す。


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