第5話 僕の能力


紋斬あやぎりの刀」


 体の奥底から沸々と力が湧いてくる。それは初めて感じる紋章の力だった。


そうか、これがお前の本来の力なんだな。


「ガアァ!!」

「ッ!?」


 ダークウルフの一匹が突然飛びかかってくる。

 俺は突然に変化した……いや、進化した刀に気を取られて油断していた。


 だが、僕は驚くほど冷静にダークウルフを視界に捕らえて進化した刀を振るう。


「……見える」

「グル?!」


 余裕があるわけじゃない。だけど数秒前までギリギリの世界を生きていた分、簡単に避けることが出来た。


 今の僕が見えている世界は、明らかにさっきまで僕が見ていた世界と違っていた。


「こ、これは……?」

「「ガアァ!!」」


 頭の中に入ってくる紋章の能力。

 その詳細はいくら魔法での再現のできない特殊な能力が多い紋章の中でも異常……に近いはずだ。


 僕は左右から飛びかかってくる二匹を身をかがめて前方に飛ぶ事で回避しつつ、魔物達のある物を確認する。


「そこか……」

「ガアァ!!」


 そして二匹の前に回避したダークウルフが僕が逃げるのを見計らったように爪で引っ掻こうとする。


 一度目の経験からその動きを予想していたのですぐに対応出来る。今回は避けるのではなく迎え撃つ。


 刀を握る手に力が入り、狙う場所を即座に定める。


 そして頭によぎる『不可能』の三文字。


 ───上等だ。


「『印切り』!!」

「ッ!?!?」


 その瞬間、ダークウルフの首元にあった紋章が切り裂かれた。


『印切り』。この能力はその名の通り『印を切る』。つまり神から授けられた紋章を切る事が出来る僕の、僕だけの紋章の能力。


 紋章は性別も種族問わず全ての生物が例外なく受け取ることが出来る。これは魔物も例外ではなかった。


 これはどこに行っても当たり前の常識だが、能力を使用するという方法以外では何人たりとも


ましてや、紋章を切るなんて事は絶対にできないのだ。


「く、くぅん。きゅぅぅぅん!!」

「「ガウ!?」」

「ハ、ハハ……」


 自分でやった事なのに自分でも驚く。それ程にこれは常識ハズレなのだ。


 ダークウルフは先程までの凶暴な様子はどこに行ったのか。まさにしっぽを巻いて森の中に逃げていった。


 僕の能力について、今のでわかったことが二つある。


まず一つ、紋章を切られても死ぬ訳では無いということ。

二つ、もしダークウルフの凶暴化が紋章による力なのであれば、切られた紋章は全ての力を失うということ。


 その情報だけでも十分重要だが、まだまだ分からない事が多い。これは更なる実験が必要だ。


「「グ、グルルル……」」

「今度はこっちから行くよ」


 ダークウルフ達はまだ何が起こったのか分かっていない。

 なぜ僕がいきなり強くなったのか。なぜ仲間はいきなり逃げだしたのか。


 何故自分達は今まで狩る側だったのに、狩られる側になっているのか。


「シッ!!」

「「ガッッ!?」」


 僕はその隙を見逃さず全力で走り出す。

そのスピードは今までの人生の中で何よりも速かったが、驚くよりも先に切る事に集中する。


 ダークウルフ達も僕が接近して来ているのに反応して避けようとしたが、動揺と混乱で反応が遅れていた。


「『印切り』!!」

「「キャウン!?」」


 僕は二匹の紋章の位置を把握して薙ぎ払うように刀を振る。

想定通り、僕の刀は二匹のダークウルフの紋章を切り裂いた。


「僕の……勝ちだ」

「「キュウン!」」


 紋章を切られたダークウルフは戦う意欲を失い、即座に逃げて行く。

俺はその姿を眺め、勝利を確かめるように呟やいた。


 もうここには、僕の命を脅かす生物はいない。


「はぁ、はぁ」


 生き残った。その言葉が僕の頭を埋めつくして行く。


 ダークウルフ一匹の死体の匂いと自分の腕の負傷から来る痛みを感じながら、段々と頭がその事実を理解し始める。


「……はぁ、はぁ。生きてる……!」


 今にも気絶してしまいそうな程に身体的にも、精神的にも疲れていた。


 だけどその分、今生きていることの喜びを噛み締めることが出来た。


 僕はゆっくり歩いて近くの木にもたれかかる。今は寒さなんて一切感じていなかった。

 もしかしたら死を感じすぎて感覚が麻痺しているのかもしれない。


「ハ、ハハ……これが最初で最後の勝利かもな……」

「……い!……おい、お前!しっかりしろ!」


 突然何処からか男の声が聞こえた気がしたが、僕はそれを認識する前に気絶してしまったのだった。





「……こ、ここは?」

「おう、目が覚めたか」


 目が覚めると僕は暖かい毛布に包まれて横になっていた。

 そしてすぐに今自分は馬車に乗っていることに気がつく。


「あ、あなたは……」

「ん?俺か?俺はどこにでもいるお節介オヤジだ。『グラン』って呼んでくれ。あ、年上だからって敬語はいらねぇぞ?そのままグランでいい」

「そ、そうか。じゃあグラン。今の状況の確認だけど、これはグランが僕を助けてくれたって事で合ってるか?」

「まあ、そうだな。このクソ寒い……って程でもないが、真夜中にそこら辺で寝てたら死んじまう程度には寒い季節にガキが道端で倒れてたからな。気まぐれで助けさせてもらった。余計なお世話だったか?」

「い、いや、そんなことは無い。助けてくれてありがとう」

「良いってことよ」


 どうやら、馬車を操作しながら少しこちらに顔を向ける彼、グランという名の男が善意で助けてくれたらしい。


 少なくとも、悪意は感じられなかったので敵ではないだろうが、流石に会ったばかりの人を信じれるほど余裕は無い。


「……ちなみに、これはどこに向かってるんだ?」

「ああ、これは今ガデン街に向かってるな。そしてもうあと一時間もしないうちに着く。もしかしてお前ガデンから来たのか?」

「いや、僕はサンガシ領から来た。僕もガテン領に向かう途中だったから大丈夫」

「おう、そりゃよかった」


 僕は左腕の手当されている部分を擦りながら話す。

 良かった、流石にあんな思いまでして元の場所に戻されるような事にはならなかったようだ。


「それにしてお前、なんであんな場所で野宿していた。しかも死にかけてたし」

「それはその、馬車の時間帯を知らなかったから……」

「じゃあ一日待てばよかったじゃねぇか」

「うっ、それは……」


 正論だが、こちらとしてもできるだけ早く出たかったのだ。


だが、だとしても大した力もないのに徒歩で街の外を歩くのは自殺願望者かただ馬鹿であることは否定できないので俺は口を噤む。


「あ〜、まぁこれ以上詮索はしねぇが、命は大切にしろよ?どうやらいい武器持ってる見てぇだし、若い奴が死ぬのは見たくねぇ」

「……ああ、流石に僕もこれは無茶しすぎたのを理解してるよ」


 僕はそばに置いてあった刀を手に持つ。


 ……夢じゃなかった。姿を変え、僕を守ってくれた相棒を眺めながらそう思った。


「そういやお前さんの名前を来ていなかったな」

「僕の名前はテル。よろしく」

「ああ、よろしく。……あと思ったんだが、お前の一人称が『僕』じゃなくて『俺』にしろ。いいな?」

「突然の命令?!」




 ♦♦♦♦♦


 べ、別に作者が何回も一人称で『僕』を『俺』と間違えて面倒くさくなった訳じゃないんだからね!


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『女神様からもらったスキルは魔力を操る最強スキル!?異種族美少女と一緒に魔王討伐目指して異世界自由旅!』という作品も連載してます!ぜひ読んでみてください!

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