第4話 覚悟の叫び
焚火を始めて二時間。すっかり周りは暗くなり、月明りで何となく見えるが真っ暗と言ってもいいぐらい暗くなっていた。
「う~、さぶっ」
三枚重ねているとはいえ、安くて薄い布。それに引火を恐れてこれ以上は火に近寄れない。
あと六時間ほどこうしていないと考えると諦めて寝てしまいたくなった。
そんな事を考えている直後であった。すぐ近くの草むらから何者かが草むらを掻き分ける音が聞こえたのは。
「っ!?誰だ……!?」
突然茂みから草がこすれる音に僕の眠気が吹っ飛び、身体に掛けた布を跳ね除けて刀を手に持ち構える。
「……グルルルル」
「……ははっ、そんな上手くいく訳なかったか」
僕は震える声で笑いながら刀を抜く。錆だらけで頼りないがこの刀が僕の命綱だった。
どうやらこいつは一匹でここに来たらしい。
魔物の名前は『ダークウルフ』。太陽の出ている時間は大人しく基本的に人を襲う事はないが、日が完全に落ちるとまるで何かに取り憑かれたかのように凶暴になる魔物だ。
「グルル……ガアァ!!」
「ッ!?ぐっ……せいっ!!」
「キャウン!?」
ダークウルフは僕を噛み殺さんと襲いかかってくる。僕は刀を横向きで差し込むことで止め、そのままダークウルフを蹴り飛ばす。
ウルフ系の魔物は集団で移動する習性持っている。
なのに一匹で僕を襲おうとているということは、もしかしたら群れから逸れたまだ若いダークウルフの可能性がある。
そして、必要以上に俺を警戒しているところを見るに、人間を見るのが初めてなのかもしれない。
多分、狩りや戦闘経験も少ないはず。そうでなければそもそも近づいて来ていたのすら気づかれずに僕は殺されていた筈だ。
そう考えると、絶望が逆転してまだ勝てる希望と戦う意欲が湧いてきた。
俺が勝てる可能性があるのは、こいつが僕という人間に慣れるまで。
俺は覚悟を決めて刀を構え、ダークウルフに全力で斬りかかった。
「僕は……死ぬわけにはいかないんだよ!!」
「ッ!!ガアァ!!」
ダークウルフは先ほどとは違い爪で攻撃してくる。俺はその攻撃を刀と鞘を使い何とか受け流し、その体を斬りつける。
「ガッ、キュン!?……グルル!」
「ダメだ、まともに刃が通らない……。当たり前か」
なんせ錆びだらけの刀だ。刃物というより鈍器に近い。
そんなもので頑丈な魔物の皮膚と毛を貫通することができる訳もなく、僕だけが一方的に体力を消費するだけだった。
「それなら……。一撃を狙うしかない!」
「グルルルル……。ガアアアア!!」
「ッ!?」
ダークウルフはまるで僕に乗りかかる様に飛びかかってくる。そしてこれが僕の最後のチャンスだと感じる。
「……『
「キャウン!?」
俺は生活魔術である『照明』を使う。この魔法はただ暗い場所を照らす魔法だが、魔力を必要以上に込めることで一度の発動での持続時間か光の強さを調節できる。
今は真夜中……というほどの時間じゃないが真っ暗なのは違いない。
そこまで多い魔力じゃなくても、この光を突然直視させられたら人間だろうと魔物だろうと一時的に目は見えなくなるだろう。
「隙あり!!」
「キュグ!?」
地面にうまく着地できずに顔を地面に打ち付けたダークウルフの頭を刀で強引に突きさす。
突き刺した瞬間、ダークウルフの体がビクッ!!っと跳ねるが、そこからダークウルフは動くことは無かった。
「……はぁ、はぁ。か、勝った?」
動かなくなったダークウルフの頭から刀を引き抜く。
血が滴る刀とダークウルフの死体を眺めながら呆然とする僕に……更なる不幸が襲う。
「「「ガアァ!!」」」
「ッ!?う、嘘だろ?」
さっき倒したダークウルフの声が聞こえていたのか、それとも僕が使った『照明』が見えたのか。
さっきのダークウルフより一回り程大きいダークウルフ三匹が唸り声を上げなが近づいてくる。
確実にさっきのウルフと違い大人のダークウルフだろう。
もしかしたら仲間が殺された事を怒っているのかもしれない。
「……冗談キツイな」
僕はダークウルフの死骸から抜いてそのまま刀を構える。
生き残る事は絶望的なだとわかっていても、それは諦める理由にはならなかった。
「僕は……アイツらに、あんな奴らに笑われるだけじゃ終われないんだ!」
───復讐……とは違う。別に殺したい訳でも陥れたい訳でもない。そんなことをすればアイツらと同格だ。
「ガァァ!」
「う、あぁぁぁ!!!」
───僕は、いつかアイツらを俺の実力で正々堂々倒したい!
『無能』だと言ってきたアイツらよりも強くなりたい!
ダークウルフの一匹が飛びかかってくる。その迫力は先程の奴より数倍怖かった。
「うぐ……」
「ガゥ!!」
「ッ!?痛っ!?」
確実に喰らえば即死級の攻撃を刀で何とか吹き飛ばされながら受け流す。
しかし、いつの間にか左から近寄って来ていたもう一匹に攻撃される。
何とか鞘で防いだが確実には防ぎきれず二の腕あたりを切り裂かれた。
「……はぁ、くっ!」
───その為なら、不可能だろうと何だろうとぶった斬ってやる!
三匹がゆっくり近づいてくる。心の中から『ああ、終わった』『もうダメだ』と情けない声が聞こえてくる。
だが今はそんなことに気を向ける余裕は無い。もし向けてしまえば僕は刀を手から離してしまうだろう。
「舐めるなァァァ!!」
僕は震える手を抑えながら刀を構え、最後の雄叫びを上げる。
心から、頭から聞こえる絶望と恐怖と諦めの声。
その声をかき消す為に叫ぶがその声は自分の声よりも大きくなっていた。
「「「ガアァァァ!」」」
ダークウルフ達はこの状況になっても油断することはなく、ジリジリと近づいてくる。そして僕の雄叫びの何倍もの声で鳴く。
その鳴き声は、まるで死神が鳴らすような轟音で。
「ああ、死ぬのか」
僕の視界が絶望に染まった、瞬間だった。
「「「キャウン!?」」」
「……えっ?」
突然僕が、僕の刀が光り輝く。よく見れば足元に落ちている鞘も輝いていた。
ダークウルフ達は、そんな突然の出来事に後ずさる。きっと光そのものにも弱いのだろう。
「な、なんなんだ!」
もしかして僕は夢を見ているのかもしれない。とんでもない力を突然手に入れて誰よりも強くなる、なんて子供じみた……何度も想像した夢。
片手で刀を持ったまま頬を抓るが……痛い。現実のようだ。
光り輝く刀身から何かが剥がれるように浮かんだ小さな、少し曇った色の細かい何かが空気中にポロポロと消えさり、数秒後には刀の光が収まった。
「こ、これは……」
そこには今までの姿とは全く違う、少し青みがかった刀身を持つ立派な刀の一振が僕の手の中にあった。
僕は頭に入ってくる刀の名前を呼ぶ。
「
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『女神様からもらったスキルは魔力を操る最強スキル!?異種族美少女と一緒に魔王討伐目指して異世界自由旅!』という作品も連載してます!ぜひ読んでみてください!
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