第3話 旅立ちの焚き火
屋敷から出た後、僕はこの街から出るために外につながる防壁の門に向かった。
この街に居座る理由も無ければ、むしろ少しでも早くあの屋敷から遠ざかりたいからだ。
この街を出て向かう次の街は決まっている。この街から北に向かった場所にある『ガデン』と言う街だ。
何故その街に向かうのかというと、国の中心である王都に向かうにはその街を経由するのが一番の近道だからだ。
ついでに、その町では『冒険者』という職業が盛んだと有名なのも理由だ。
別にこの街で冒険者登録してもいいが兄妹達……いや、もうアイツらは家族でもなければ兄弟でもない。
冒険者たちに依頼を出す場所である『冒険者ギルド』もあいつらの息がかかってている可能性がある。
考えすぎかもしれないがあいつらはそれくらいするような奴であり、それが可能な権力を持っているのだ。
「……だけどもうガデン街行きの馬車が無いのは誤算だったなあ」
どうやらこのあたりには夜には活発になる魔物がいるらしい。
朝早くから行けば活発化する前にガデン街に間に合うらしく、少ない依頼料で冒険者を雇って朝早くいくことが多いらしい。
腕利きの冒険者を雇って昼頃から出発する馬車もあるようだが、それに乗れば資金の半分どころか八割ほど持ってかれてしまうのでさすがに遠慮したかった。
「徒歩しか……いや、そっちの方が現実的じゃないな。どうするか」
できれば宿に泊まるという手も使いたくなかった。
陰湿なアイツらのことだ、僕が止まってる宿なんてすぐ見つけて真夜中に宿から追い出させたりしてくるのは目に見えていた。
「くそ……。歩くしかないか……」
馬車で一日かけてぎりぎりの距離を今から徒歩で向かうなら、休憩を考えると確実に一日跨ぐ必要がある。
先ほども言った通り夜は確実に危険だ。しかも一般人より少し強い程度の力しかない僕が、そんな魔物に勝てるはずがなかった。
「……いやでも、徒歩で街から出れば死んだと思われて嫌がらせも来なくなるはず。しかも街から出られる!デメリットは本当に死んでしまうかもしれないことか……」
デメリットがあまりにも大きいが、それはもう自分の運に任せるしかないかないようだ。
「よし、覚悟を決めよう」
僕はアイテムボックス内の食料や水などの物資の確認しつつ、ガデン街に行くための北門に向かった。
「あんた本当に大丈夫か?武器持ってるから戦えるんだろうが冗談抜きであぶねえぞ?」
「ええわかってます。それでも行かなきゃならないんです」
「そ、そうか。あんたがそこまで言うなら止めねえが……」
この門番さんいい人なんだろう。今日初めて会って名前も知らない男を心配するような人はなかなかいないんじゃないのだろうか?
……流石にひねくれすぎか。
僕は馬車が通るであろう道に沿って歩いて行く。
この道をまっすぐ行けば街にたどり着くと、さっきの門番さんに確認済みだ。
「さて、この程度で死んだなら僕は結局その程度だったってことだね。いざって時は頼むぜ?相棒」
僕は錆びた刀の鞘を軽く撫でて歩き出す。ここからはもう、完全に自分一人で生きなくちゃならない場所だ。
少しくねりのある道を数分も歩いていると気が付けば振り返っても門は見えず、周りには森しかなくなっていた。
「はは……、一人でいることに慣れてると思ったけど本当の意味で一人になったら寂しいもんだな」
どれだけ部屋にこもってばかりでも、やはりそこに人が確実に居るとわかっての一人。
なんだか孤独と孤立の違いが分かった気がした。
「……っと、ダメだダメだ。きっと一人でいる孤独感で弱気になってるな。もっと旅っぽいこと考えよう」
屋敷にいた時はよく屋敷の図書館で外の情報を集めていた。
地図だったり種族の情報だったり英雄譚、神話なんかも読んだ。
その中には妄想でしかありえないような人や場所が存在し、今も世界のどこかで僕を待っている。そう考えると元気が出てくる。
「エルフたちが守ってるどんな病も治すといわれる葉を生やす
勿論そのほかにも行きたい場所は山ほどある。すべて行けるかも体験できるかもわからないが旅とはそういうものだろう。
僕は頭の中にある行きたい場所メモを思い出しながら旅行気分で道を進むのだった。
「流石にそろそろ暗くなってきたな……。薪になりそうな枝を集めながら歩くか」
門から出て約八時間後、日が落ちて空が薄暗くなってきていた。
運よく途中で魔物にも盗賊にも襲われなかったが、道のりは途中に休み休み来たのでまだ半分ぐらいだろう。
「……野宿はここでいいかな。薪の半分を一か所に集めて……『
僕は生活魔術に分類される初級魔術『着火』を使う。
この世には紋章の能力とは別に『魔術』という自力で身に着ける力がある。
属性は火、水、風、岩、闇、光と基本の六種類があり、今回は詳しい説明は省くがそこから派生して沢山の属性がもあったりする。
そして生活魔術のような基本的に誰でも使える例外もあるが、魔術には適性……つまり才能のような物がある。
その適正が合ってないと威力も発動速度も消費魔力効率も悪くなる。
そして僕も一応魔術を使うことが出来るが……例に漏れずどの属性にも適性はなかった。
「あ、あれ?火がつかない……。ええっと、こういう時は枯葉を……」
僕はだんだん薄暗くなっている空に焦りながら枯葉を集める。
この辺りの気候は基本的に一年中暖かく、夜も凍えるほど寒い訳では無いがやはりこの時期は寒い。
屋敷を出る時に言ったが、今日は『剣の月』。
一年で一番最初の月であり、その後に『盾の月』『刀の月』『槍の月』『杖の月』『銃の月』『大剣の月』『斧の月』『弓の月』『鞭の月』『魔の月』『器の月』の十二ヶ月で構成させれてる。
つまり今は冬に分類される季節であり正直旅立ちには全くあってない時期なのだが、そんなことアイツらが考慮するわけがなかった。
「よし、これで……『着火』!」
昔に本で読んだ焚き火を何となく再現することで何とか焚き火を作ることに成功した。
僕はアイテムボックスから街で事前に買っておいた毛布替わりの安い布を三枚取り出し、火の前に座って布で体を覆う。
寝てしまいたいがそんなことをしたらきっと目が覚める前に僕は魔物の餌になっているだろう。
僕は意識が飛ばないように太ももを抓り、焚き火を眺めるのであった。
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