第2話 自由の宣言
俺はさっさと部屋に戻り服を着替えてさっさとこの屋敷を、この家が納めている領地から出ることにした。
通りがかったメイド等の使用人は皆僕に侮蔑や嘲笑の視線を送ってくる。きっともう僕が追放されたことを知っているのだろう。
だが、そんな事はもうとっくの前に慣れている。
僕はそれを無視して部屋に戻り、少しの間待っていると先程の執事が服を持ってやって来た。
僕はそれを受け取ってさっさと着替えた。
貴族によっては服を自分で脱ぐことも着ることも出来ない奴が居るらしいが、僕に着替えを手伝ってくれる使用人なんて居ないので普通に着替えができる。
まあ、誇れることでもなんでもないけどね。
着替え終わった僕は紋章の器だけを持って部屋を出た。お金や食料は全て紋章の中に、所謂『アイテムボックス』に入れてある。
全ての紋章には最低機能として道具を収納出来るという能力がある。勿論、僕の紋章も例外ではない。
……入れられる量も最底辺だったが。
使用人が追放の事を知っているのだから、兄弟達も絶対に僕が追放されたことも知っているだろう。
僕は人の通りが少ない廊下を使い、屋敷の出口に向かう。この道を通れば待ち伏せでもされていなければ出ることが出来るだろう。
……そう、待ち伏せさえされなければ。
「よぉ、テル。どこ行くんだ?」
「……リシュア兄さん」
ニヤニヤとした表情でこちらに声をかけてくる男、サンガシ家次男こと『リシュア』がそこにいた。
サンガシ家には子供が合計七人いる。
上から長男、長女、次男(リシュア)、三男(テル)、四男、次女、三女という並びだ。
年齢差は僕の年齢が十六歳で長男、長女、次女とは上下で二歳差。リシュア、四男とは上下で一歳差、三女とは三歳差であった。
先程も言ったが、全員僕の事を基本的に嫌ったり無視したりしている。
「ここに居るってことは知ってるんじゃないですか?」
「ああ?無能ごときが口答えするきかぁ?」
「……いえ、そういう訳では」
僕はわざわざ表側の出口などに向かわず裏の出口に向かえばよかった。
……まぁ、この様子じゃ出口全てに監視をつけて出れないようになっていそうだが。
「母様から聞いたぞ?この家から追放されるんだってな!ハハハ!寧ろ今まで追放されてなかった方が驚きだ!」
「……そうですか。では、失礼します」
「おいおい待てよ」
鞘に入ったままの状態の刀をドアと顔の前に挟み込まれる。
無理に通ろうとすればそのまま叩かれかねないので動くのを辞める。
「お前みたいな貧弱なやつが外に出て生きてけると思ってんのか?」
「……ですが、父上……サンガシ家当主様の命令なので出ていかなければなりません」
他の兄弟達が来てしまう前に少しでも早くこの屋敷から出たい僕は少しイラつきながら返答する。
「だからほら、俺に謝罪しろ」
「……は?」
全く意味がわからなかった。謝罪?なんで僕が謝らなければならないのか。むしろ謝らなければならないのはあなたではないのか。
「はぁ、なんのことか分からないって顔だな。これだから無能は……。いいか?お前は存在自体がこの家の不利益。お前の為の食料費を初めとして、部屋の数も部屋の光源費も風呂の水の費用も政治的な不利益も。全てがサンガシ家に不利益なんだよ!お前は存在するだけでこの家に迷惑をかけた。だから代表して俺に謝罪しろ。そしたら他の領地まで護衛ぐらい父様に頼んでやってもいいぞ?ほら、謝罪しろ」
「……」
呆れ、それ以外なかった。俺の刀によって出た不利益のことを言うのかと思えば、僕の生活費どころか僕が部屋を使うことすら不利益と断じて来た。
僕だって居たくてここにいた訳じゃない。……産まれたくて産まれた訳じゃない。出て行けるならすぐにでも出ていったさ。
そしてあんたがこの家の代表なら、あんたらが俺をこの家に縛り付けたんだ。なのに使いたくもない生活費を使わせて不利益?冗談もほどほどにして欲しい。
「お断りします」
「……今、なんて言った?」
「お断りします、といったんです。父上にならまだしも、あなたに謝る必要は感じられませんし、護衛など必要ありません。それに……」
僕は最後に精一杯の皮肉を込めて言い放つ。
「次男のあなたに代表を語られても、と思います」
「き、貴様ァァ!!」
実はこの男。この家の誰よりもプライドが高い。それこそ次男という立場に不満を持つほどに。
そして紋章の器を持つ家の大半の跡取りの基準は大抵、兄弟の中で一番戦いの強い者が選ばれる。
勿論、この家もそれが基準で選ばれる。なので長男ではなく次男、三男、もしくは長女や次女等が次の当主になることはそこまで珍しいことではない。
そしてプライドの高いリシュアは現段階で当主に最も近い長男に決闘を挑むが……結果は惨敗。
更には圧倒的な力量差を見せつけられ、堂々と屋敷の広場で決闘を挑んで屋敷の一番目立つ庭で惨敗した事実は屋敷中に広まった。
そして僕よりマシとはいえ、リシュアは屋敷中に広まる『当主にはなれない』というある意味『無能』に近いレッテルを貼らた。
更には親にさえその事実を知った上で長男と比べられる。プライドの高いリシュアにとっては屈辱以外なかっただろう。
その圧倒的な実力差にリシュアは長男にトラウマを覚えたのか、それから決闘を挑むようなことは一切無くなった。
だが、それは見方によっては逃げているようなもの。自分が一番理解しているのか、リシユアのプライドはズタズタに引き裂かれていった。
そして、最後にストレス発散としてその矛先が向けられたのが僕というわけだ。
つまり、こいつは自分が○○より下。さらに言うなら「お前は次男だから長男には勝てない」なんて事を匂わせた発言が何よりも嫌いなのだ。
自分より格下だと思ってる僕に言われるのは他の誰に言われるよりも屈辱だろう。
「死ねぇ!」
「ぐっ……」
リシュアは血走った目で僕を睨み鞘に入ったままの刀で僕を叩きつける。
勿論そのまま食らう義理はないのでコチラも鞘に入ったままの刀で防ぐが、その圧倒的な身体能力差で腕が潰れたかのような激痛が腕に走る。
「オラァ!!」
「かはっ……!!」
腕が痺れて動かない僕のことなど構わずにそのまま腹を叩かれ、そのまま三メートルほど吹き飛ぶ。
嘔吐してそのまま気絶してしまいそうなのをなんとか我慢してお腹を抑えたままリシュアの方を見る。
「なんだその反抗的な目は!調子乗ってんじゃねぇぞ!」
「お、お辞め下さい!」
「流石にそれはダメでございます!」
「オイ!クソ、離せ!」
遂には刀を鞘から出そうとしたリシュアを数人の執事が止めに入る。
勿論の事、僕の方に介抱しに来る人は誰も居なかった。
僕は痛みが残る体を持ち上げて外に出る。もう僕を止める者は居なかった。
まだ昼前、雲ひとつない気持ちのいい晴天を見上げる。『自由』、その言葉が胸を埋め尽くす。
家に心残りが全く無いわけじゃない。だがそれ以上にあの家族から別れることが出来るのは何よりも嬉しかった。
「器刻五百七年、剣の月、十二の日……!この日は忘れないでおこう。今日、僕は自由になった……!」
まだ屋敷の敷地内なので誰にも聞かれない程度の声だが、今日から新しい人生を歩むぞという誓いを込めて僕はそういったのだった。
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