紋章斬りの刀伐者〜無能と蔑まれ死の淵に追い詰められてから始まる修行旅〜
覇翔 ルギト
一章 始まりの旅
第1話 貴族家からの追放
「貴様は今日をもってこのから追放し、今後一生『サンガシ』の名を名乗ることを禁ずる!」
「……そ、そんな!」
常に息子である僕の事を疎ましく思い、顔を合わせれば最低でも言葉の暴力を投げつけてくる父。
そんな彼に突然部屋に呼ばれたかと思うと、なんの前触れもなくそう宣言された。
僕の事を疎ましく思っているのが父だけではなく家族達……いや、屋敷内全員であるという事は知っている。だけどまさか、こんなに突然だとは……。
「追放される理由が分からないなどと言わせんぞ!貴様はこのサンガシ家始まって以来の、それどころか誰も見た事のないほど無能な『
「……」
この世に生まれた者には皆、身体のどこかに『紋章』と呼ばれる強力な力を持った不思議な印を神様から授かる。
例外として存在する『紋章の器』とは、本来は肉体に刻まれる筈の紋章が武器に刻まれるという現象により手に入る当人専用の武器の事だ。
これはごく稀に起きることで、両親は肉体に紋章を授かっているのにも関わらず子供は紋章の器を手に入れるなんてこともあるらしい。
しかし、この『稀』を『確実』な物として血という形で保有している一族がいる。
実はこの国には六つの強い権力を持った貴族と王族を含めた『七紋章の血族』だけが、その家で決まった紋章の器を手に入れることが出来るのだ。
つまり僕、『テル・サンガシ』の家である『サンガシ公爵家』は『七紋章の血族』の貴族の中の一つなのだ。
「貴様の刀はサビだらけで、強力な器特有の気配もなければ紋章の能力も無い!そんな者が『サンガシ家』にとって恥意外なんだと言うのだ!」
「……も、申し訳ございません」
「謝って済む問題では無い!」
僕がこの屋敷から追放される理由。それは『七紋章の血族』として確約されたはずの強力な紋章の器を授からなかったこと。
しかも刀を抜いてみれば刀身はサビだらけ。最初は抜くことすらままならない状態だった。
紋章にはそれぞれ特殊な能力があり、特に貴族は特殊で強力な能力が多い。
例えば紋章に魔力を流せば体を強化できたり、武器に魔力の炎を纏わせたり等が有名だ。
しかし、僕の紋章の器に至ってはボロボロで刃物としても使い物にならず、紋章には何をしても全く反応しない。
つまり能力がないという前代未聞の紋章だった。
「私たちの専売特許である刀の器。その力を使えないどころか刀そのものまで使えない!そんな奴を次のパーティに出席させる訳にはいかんのだ!」
なるほど、何か焦っているように感じたのはそういう訳だったのか。
貴族達が開催するパーティ。勿論皆が楽しく盛り上がり騒ぐパーティ……ではなく、政略渦巻く貴族達の言葉の殴り合い広場の事だ。
そんな場所で出来損ないである僕を紹介などしてしまうと『サンガシ公爵家は落ちぶれた』とかなんとか言われるのは目に見えているだろう。
『七紋章の血族』は『紋章の器』が強力が故に成り立っている所もあるので、強さがその家の評価基準にされてもおかしくない。
「貴様の兄弟や他の者達は有望な器を授かったというのに……」
「……」
どういう訳か、僕を除いたサンガシ家の子供は全員が前例のない程に強力な刀を授かっていた。
しかもそれがこの家だけでなく、まるで何かが起こる予兆かのように強力な紋章を持つ者が増え始めた。
それ故に、僕の弱さが際立っているのだが。
「……もうそれは決定事項なのですか?」
「当たり前だ!パーティまで後一ヶ月。これ以上は隠蔽するのに時間が無さすぎる。本当はもっと早く追放したかったが親の情で限界まで居させてやったのだ。感謝するんだな」
……親の情、か。
貴方にとって親の情とは、息子が他の息子娘達にいじめられてても家臣や執事、メイド等が僕をバカにしてても気にせず、自分もストレス発散のように訓練に付き合わせ、都合が悪くなったらさっさと切り捨てるのが貴方の親の情なんですね。いい勉強になりましたよ。
……なんて、大声でぶちまけてみたいものだか実際には口に出さない。
出してしまえば、その腰にある刀で胴体とおさらばする羽目になるのは目に見えている。
「ありがとう……ございます」
「ふん、貴様の感謝など嬉しくもなんともない。最低限の金と食料はやる。そのゴミを持ってさっさとこの屋敷……いや、この街から出ていけ!今日中にだ!」
もはや僕はコイツから失望も怒りも、呆れすらも感じなかった。
紋章を授かり、その性能を知った時からコイツは僕に対してこうだった。もう、評価なんて下がる所まで下がった。
「……わかりました。今日中に出ていきます」
「ああ、それでいい。おい!それをこっちに持ってこい!」
「了解しました」
声を上げて執事を呼び、事前に準備していたのであろうふたつの袋を執事に渡される。情況から考えて食料とお金だろう。
袋を手渡す執事ですら僕に嫌悪の視線を向けてくる事に辟易しながら、少しだけ重い袋をしっかりと抱える。
「それを持ってさっさと出ていけ。ああ、そういえばその服にも我らの家紋が付いてあったな。着替えをよこすからそれを着て出ていけ。もう貴様には必要ないだろう?」
「……はい、わかりました」
奴はニヤニヤしながらそう言い、執事に指示を出して服を用意させる。どうせ渡される服は汚れてもいいようにという建前で安物の服を渡されるのだろう。
まあ、僕もこの家と出来るだけ縁を切れるのならそれでいいが。
「……それでは失礼します」
「ああ。もう顔を合わせることは無いだろうから、最後に家族と挨拶しておくんだな」
僕はその言葉を半ば無視し、当主の部屋を後にする。家族に顔を出すなんて茶番に付き合う気はなく、さっさと家を出ることにするのだった。
♦♦♦♦♦
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