妄想癖のある女の考え
今日は最悪な一日になる。そもそも朝の占いなんて見るんじゃなかった。上位4番目くらいまでは許せるけど、今日のアタシは最下位。しかもラッキーアイテムは「ダイヤの指輪」とかふざけたことを言いやがって。そんなくだらない石をはめるくらいなら、本厚木から少しでも都心寄りに引っ越すわ。
そして2つ目の災難は、いま横にいるデブで臭いオッサン。今日は寒いはずなのに半袖短パンで毛むくじゃらの手足を投げ出している。おまけにその剛毛がアタシの上着にくっついてる!気持ち悪い!!
想像するに、出勤前にランニングでもしたのだろう。足元のリュックには「箱根温泉」と書かれた黄ばんだタオルが引っ掛けてある。履いているのも使い古したランニングシューズだし、真っ黒に染みこんだ日焼けはランナー特有のものだからだ。
そして生乾きの汗の臭いがギュウギュウの車内に蔓延する。といってもみんなマスクをしているからきっと気づいていない。ただ、隣りに座るアタシには、加齢臭と生乾き臭とがミックスされた強烈なアーモンド臭が、マスクなど無意味と言わんばかりに突き刺さってくる。
見たくないなら目を閉じればいい。聞きたくないならイヤホンの音量を上げればいい。だけど嗅ぎたくないなら息をしなければいい、とはならない。このスメハラはアタシが席を離れる以外に解決法はない。かといってわざわざ一本見送ってまで座席を確保したアタシが、こんなオッサンのせいで席を立たなきゃならないなんて、どう考えても納得いかない。絶対にアタシはどかない!
それにしても右側の女、こいつ底意地の悪いクソババァだ。アタシが青酸カリで死にそうになってるっていうのに、肘張ってアタシをオッサンのほうへ押しやろうとしてる。
「だったらアタシと場所変わってみろよ!」って言ってやりたい。そっち側なら悪臭は遮られるし、アンタにはアタシの苦しみがわかんないからそんな意地悪いことができるんだ。
(ま、まさかグル?悪臭ジジィと意地悪ババァがグルになって、アタシを追い込んでるとか?一体なんのためにそんなキタナイやり方を?)
よくよく考えると、アタシの両隣りはいずれも新百合ヶ丘から乗って来て、登戸で同時に座った。最初からアタシ狙いで、挟み撃ちした可能性もある。
たしかにアタシは恨みを買いやすい人間だ。昨日もコンビニで、ラスト一個の「ガリガリ君白いサワー味」を子どもと争って勝ち取った。クソガキは大泣きしてたけど、弱肉強食ってものを身をもって教えてあげたんだから、むしろ感謝されてもいいくらいだと思う。でも母親のアタシを見る目は恨みに満ちていた。
――ということは、こいつらはあの母親が送り込んだ「何でも屋」かもしれない。ならばこちらも正当な手段で返り討ちに合わせてやるわ。
そこでアタシは、さらに大きく肘を張ってきた意地悪女の腕に、アタシの右腕絡めるとギュッと力強く挟んでやった。
(よし、新宿駅に着いたら駅員に引き渡してやろう)
小田急道中肘栗毛 URABE @uraberica
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