第2話 マネキン

 屋上。俺は■■と飯を食っていた。前を女子生徒が通り、離れたベンチに座った。

 

「なぁなぁ、あれじゃね? 最近噂のオカルト研究部の部長!」

 

「ん?」

 

 ■■につられて隣の席を見る。噂の部長は笑顔でパンを食べている。

 

「ふーん。普通に可愛いんじゃね」

 

「そうかぁ? なんか笑顔が胡散臭いっていうか……って、そういう事じゃねぇよ! やべぇって噂なんだよあの女」

 

「やばいって……どういう所がやばいんだよ」

 

「休みの日は心霊スポットに入り浸っているとか、やばい呪い知っているとか……」

 

「そんなに取り立てて騒ぐ程かそれ?」

 

「やべぇんだって! あの女がいるオカルト研究部の部室見た事あるか?」

 

「いや、ないけど」

 

「どこから持ってきたのか、どこで作られたのか分かんねぇ人間そっくりの人形とかよく分かんねぇボロボロの本とかが大量に置いてあるらしくて、しかも壁に藁人形が釘で打ち付けてあるらしいんだぜ?」

 

「ふーん」

 

「しかもあの女のせいで死んじまった人までいるとか……!」

 

「……でも、結局それって噂だろ?」

 

「それは……まぁ、そうだけどよ」

 

「オカ研の部室に実際に忍び込んで中を見たとか、実際にあの子が人を殺す場面を目撃したとかならともかく。噂に過ぎないのに言い立てたって仕方なくね?」

 

「でもよぉ、常にああやって笑顔なのは怖くねぇか?」

 

「いるだろ、笑顔を崩さない人って。あの人もそういうタイプじゃねぇの?」

 

「それがな、こんな話があるんだよ」

 

「また噂か?」

 

「いや、マジな話だよ。あの女常に笑顔だろ」

 

「そうだな」

 

「あの女と同じクラスに、まさに女傑、みたいな性格の人がいるんだけどな。何していても常に笑顔を浮かべているあの女の態度を気に入らなく思ったその女傑がある日あの女の上履きを隠したらしいんだよ」

 

「陰湿だな……」

 

「で、上履きがなくて焦る姿を見たくて隠れて観察していたらしいんだけど、あの女登校して上履きがないって気付いて一瞬動きを止めたらしくて」

 

「流石に笑顔も崩れるだろって思ってみていたら、女傑が上履きを隠した掃除用具入れにまっすぐ向かって中から上履き引っ張り出して、何事もなかったかのように教室行ったらしいんだよ」

 

「……」

 

「しかも、去り際に女傑が隠れている場所を見て、にっこりと笑顔を向けてったって!」

 

「それは……不気味だな」

 

「だろ? やべぇんだよあの女」

 

 チャイムが鳴る。

 

「やべっ、もう昼休み終わったのかよ!?」

 

「長く話し込みすぎたな。あの子は……」

 

 俺はベンチを見た。いつの間にか噂の部長は立ち去っていた。

 

「あの女はどうでもいいだろ、ほら、俺達も行こうぜ!」

 

「あぁ……」

 

 二人、はけていく。

 

 ーーー

 

 放課後。俺は鞄を抱えて帰ろうとした時、部屋の一室を覗こうとする■■を見つけた。

 

「なにやってんのお前」

 

「うぉっ! び、ビビらせんなよ……」

 

「いや、お前が勝手に驚いているだけなんだが。で、何してんの?」

 

「いや、ここオカルト研究部の部室なんだよ。それで、噂の真相を暴いてやろうって思って」

 

「ふーん。じゃ、俺帰るから」

 

 ■■は俺にしがみついた。

 

「待って待って待ってください待てって!」

 

「分かったわかったわかったから服を掴むな引っ張るなシワになる!」

 

「ほら、旅は道連れ世は情けって言うだろ!? どうせだったら一緒に見ようぜ!? な!?」

 

「……分かったよ。乗りかかった舟だ」

 

「まじか、助かる。じゃあ、せーの! で開けるぞ……」

 

「おう」

 

「じゃあ、行くぞ? せーの……!」

 

 扉を開ける■■。中には女子生徒の制服を着た人間そのものにしか見えないマネキンと、普通のマネキンが置いてあり、立ち並び何冊もの分厚い本が机の上に積まれている。マネキンの横には、消化器が置かれている。

 

「うわっ……なんだよこのマネキン……」

 

「本物の人間……ではないみたいだが……にしてもこれは……」

 

 マネキンを観察する■■。それを横目に机に置かれている本を手に取り開く。

 

「何なんだこの本……?」

 

 本を読んでいる俺の肩を■■が叩く。

 

「なぁ……」

 

「ん?」

 

「今、マネキンが……瞬きしたような気が……」

 

「は?」

 

 振り返りマネキンを観察する。

 

「……いや、ただのマネキンだろう」

 

「だ、だよな……気のせいだよな、そうだよな……なぁ、もう帰ろうぜ、気味がわりぃよこの部屋」

 

「そうだな……」

 

 

 

 

 

「あーあ、見られちゃった」

 

 

 

 

 

 扉の前に立つ、笑顔の、噂のオカ研の部長。青ざめる俺と■■。

 

「お、お前っ……」

 

「見られちゃったー見られちゃったー。どーしよっかなー」

 

 扉を閉めて鍵をかけ、俺達に近付いてくる。■■は尻餅をついた。

 

「なぁ、聞いていいか?」

 

「んー? なーに?」

 

「このマネキン、どうやって作ったんだ? 本物そっくりだからよ、感心してな。どうやって作ったのかなーと」

 

「そうでしょ? 自信作なんだよねーそれ。初めて作ったから上手く出来るか不安だったんだけど」

 

「初めて作ったのか……すごいな」

 

 しゃがみ込み、■■に耳打ちする。

 

「……俺が時間を稼ぐから、すきをついて逃げろ」

 

「お、おう……」

 

「ねぇねぇ、あなたはそのマネキンの作り方に興味ある?」

 

「あぁ。是非とも教えてほしいな」

 

「いいよー。その本に書いてあるんだけどねー……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人の魂を人形に込めるんだよ」

 

「は……?」

 

 鈍い音と共に倒れ込む■■。頭から血を流している。■■の後ろには、真っ白なマネキンが立っている。消化器を手に持っており、ベッタリと血がこびり付いている。

 

「後は、今死んだ彼の魂をマネキン君に入れれば、勝手に彼の見た目になるんだよー。凄いね!」

 

「お、前……は」

 

「でも、今空っぽのマネキン君はその子だけなんだよねー。どうしようかな、君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、君はどうしたい?」

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ウワサ好きのオカ研部長 如月二十一 @goodponzu2525

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