第1話

 ドスン!

 浮遊感から解放されるとともに俺の体中に衝撃が走る。

 「いってぇ」もっと優しくしてくれよ。なんて思いながらゆっくりと目を開けてみると目の前には広い草原と雲一つない青空が広がっていた。


 「ここはどこだ」

 決まり文句のような言葉。使うことなんてないと思っていたのだがこの言葉を使う時が来るとは。

 緑の草原に美しい花々、吸い込まれそうなほどの青い空。そして麗香。

 

 「ってれいかぁぁぁあ?」

 「なんでお前までいるんだよ」

 俺は急に違う場所に来てしまったこと以上に目の前にいる麗香に驚きを隠せない。

 「あれ、翔?なんでいるの?私今家にいたはずなんだけど?」

 どうやら麗香は何が起こっているのかわからないらしい。まぁ俺も確かなことはわかってはいないけど。

 

 「ちょっとまて、れいか、あのそのぉ」

 俺は咄嗟に目元を隠した。なんというかいつもの麗香の姿ではない。

 目を隠している間に麗香は何も無かったかのように立ち、ぱっぱっと黒を基調とした服についた土を落とした。

 俺が顔を赤くしていると麗香から一言。

 

 「そんな顔で私を見て、顔に何かついているの?」

 麗香は俺がどうしてこんな状態になっているのかわからないのか、いつも通りの様子で俺に喋りかけてくる。

 

 「何でもないよ」

 なんてとっさに言っちゃったけど実際は心の中で動揺しまくり。いつもクールなあの麗香がゴスロリを着ていた。そんな可愛い服着てるなんて聞いてないぞ。不意打ちは禁止だ!似合いすぎだろ。普段はあまり自分のことを話してくれないので、そんな幼馴染の新たな一面を見れて嬉しい。

 あれ、でもこの時間は勉強してるって前に話していた気がするのだがどういうことだろうか。

 

 「今とっても気持ち悪い顔をしてるわよ」

 麗香のことを考えていたらいつのまにかにやけた顔になっていたらしい。

 麗香は俺を遠ざけるような目をしながら俺に言ってきた。

 

 「というか一度状況を整理しよう」

 この話を早く終わらせたいと思い話題を変える。俺と麗香はここにくる前どんな状況でどんな感じで来たのかをお互いに話し合い、

今起こっているこの状況を俺の予測だが麗香に伝えた。


 「ってなわけでこれからどうすっかー」 見渡す限りは草原。草原。草原。スライム。

うん、スライムがいる。あの異世界に行くと大体出会うあいつらがいる。一匹、二匹、三匹、四ひき、ごひき……。

ってかなんか俺らスライムに囲まれてね?

いやー本当にスライムっているもんなんだな。お出迎えご苦労様です。うん、うん。


 「…ぉーぃ、ぉーいきいてますかー!なーに一人で納得したような顔してんのよっ!」

 ばしんっ。麗香の訴えと共に背中に細い手が当たった。

「どうすんのよこれ!」

麗香が俺をみてくる。俺は顔を赤く染めた。決して叩かれて喜んでいるわけじゃないよ?だって俺の方を見る幼馴染が可愛いすぎるんだもん。本当にその服は反則すぎる。

 だめだ。今はこんなこと考えている場合ではない。でも俺のラノベ知識があれば大丈夫。そうスライムは弱いはず。

 ここで問題が一つどうやって倒すか。

 殴っても倒せんじゃね的には思ってるけどやっぱり実際に見ると触ってみたいとは思わないな。可愛い形はしてるけどね。

 やっぱ異世界転移といえば魔法が打てるんじゃないか?でも今すぐには無理だよね。木の棒で叩くとか?ここは広い草原ってなわけで近くに木がないのでそんな都合のいい物なんて落ちてるはずない。じゃあ他には何かあるかな。

 ってか最初に出会ったのがスライムとかラッキーすぎない?強い魔物じゃなくてよかった。


 

 「____ねぇ、ねぇ、ねぇったらー!」

 いつのまにか俺は、また自分の世界に入ってしまっていたらしい。麗香が俺に声をかけてくる。


 「このスライムたちどうするの?さっきからこっちみてくるだけで動かないみたいだけど」

 たしかにこのスライムたち全然動いていないみたいだ。その場から動かずにただ俺たちをじっーと見つめていた。

 すると何かを納得したかのようにスライム同士が互いに見つめ合い、そして頷き去っていってしまった。


 「どこかに行ったみたいだね」

 麗香は安心をしたのか地面に腰を下ろす。

 スライム達は何もしない俺たちに安心したのかな。

 

 異世界あるあるイベントを終えたことだし魔法が打てるか試してみるとするか。


 「やっぱりここは異世界だと思う。魔法を使える可能性がある。戻り方もまだわからないし、ここで生きていくためにもとりあえずなにができるのか試してみたいんだけど麗香にも手伝ってほしい」


 「私にできることなら手伝うよ。これっていつになるかはわからなくても、いつかは帰れるんだよね?」

 

 「絶対に帰れるっていう保証はできないかな。でも帰れる可能性があるかもしれないからそれまでは一緒に頑張らないか?」

 俺はこの状況に不安に思っているだろう麗香に少しでも希望を持って欲しかった。


 「そ、そうだよね。今そんなこと考えたってわからないもんね。翔が一緒なら何があっても乗り越えられるような気がしてきた」

 麗香は上目遣いで俺のことを見てきた。

 翔は頬を赤らめて自分の胸の鼓動を大きく感じていた。この状況を明らかに楽しんでいる様子である。

 「魔法わたしにも使えるかな」

 麗香のこの世界で過ごすための前向きな言葉で正気に戻った。

 「使えるかもしれないよ。とりあえず何かできないか試してみるか」

 2人の仲は元の世界にいる時よりも良くなった気がする。

 


 

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俺は認めんぞ! 御野影 未来 @koyo_ri

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