第6話 毛無し星の命運

 屋根裏の通信室では、夜な夜な会議が行われている。

 本日も、たくさんの猫たちがモニター越しに激論を交わしていた。


「煮干しだな」

「ありえない! チョロこそが至高だ!」

「いや、煮干しこそが究極だ」

「何を言ぅ!」

「そちらこそ!」


 今日も決着がつかぬ内容で「ぐぬぬ」と唸って収束する。そこからが会議の始まりなのだが、本日は少しばかり重苦しい空気感が漂っている。

 統括長が両肉球を合わせ、にゃむにゃむと呟きながら話し始める準備を終えた。


「わが、ごほごほごほ!」

「大丈夫ですか!」

「問題にゃい。少し毛玉が絡んだだけだ」


 統括長が口から毛玉を吐き出すと、いよいよ本題の話に移っていく。


「本日の議題は洗脳ビームの照射についてだ」


 この話が出てくるとは思っていなかった猫たちはざわつき始める。

 洗脳ビームは、この星の全生物を強制的に支配下へと置ける光線だが、使用後のデメリットとして知能レベルが著しく下がることがわかっている。


「統括長! 発言許可を!」

「長靴国の支部長。どうぞ」

「洗脳ビームの使用は、あと50年以上ないという話ではありませんでしたか?」

「にゃ星の意志が変わったのだ。故郷の者たちは毛無し星に可能性を見出した」


 そんな急に変わるものなのかと議論が交わされるが、にゃ星の真意はわからない。

 諦めた1猫が統括長に質問を投げかける。


「この星の可能性とは何でしょうか?」

「それは、まさに君たちがこの議題に入る前に話していた内容だ」

「と言いますと……もしかして煮干しとチョロですか?」

「そうだ! 研究のためといくらかにゃ星に送っていたが、あの味を覚えた司令部は今すぐにでも手に入れたいと言ってきた!」


 チビ太にも、その気持ちは痛いほどわかった。もう以前のようなチョロ無し生活などありえない。『ホンプッチーの缶詰』や『臭気長持ちマタタビアンリミテッド』だけでなく、他にも魅力的な物が多い。それを考えただけでヨダレが止まらなくなる。

 ふと我に帰ったチビ太がモニターを見ると、みんな同じようなことを考えていたらしく、統括長までも涎かけにあとがついている。


 チビ太と同じように我に帰った猫が、再び統括長に質問する。


「楽観的な長靴国とは違って、ヨーロッパの筆頭国である芸術都市オッパリーは残していただきたい」

「何を言う! うんこを窓から投げるような国じゃないか!」

「そんなことはぬっわーい! ギャングの集まる国と一緒にしないでくれ」

「そんなの一部地域だけではないか」

「貴様こそ。昔のネタを持ち出してきて」

「ええい! 静まれぃ!」


 議論好きな欧州猫はいつも一言多い。ただ、それはアジアでも同じで、ニャッポンも近隣国から時折難癖をつけられることがある。本日は他の国が受け持ってくれたので、これ以上は無いだろう。


「なぜそこだけ残すんだね?」

「オッパリーのレストーランは、おいすぃー食事を提供してくれるのです。洗脳などされたらマズゥイ食事になってしまいます」

「「「「あ」」」」


 多くの猫たちは気づいていなかったが、洗脳ビームを浴びると知能レベルが下がるとともに味覚レベルも下がることが報告されている。

 チビ太もマズイと気づく。


「議長! 発言を!」

「うむ」

「チョロは味の向上を続けているそうです! 洗脳ビームを受けたら品質劣化だけでなく、今以上の味の追求が損なわれてしまいます」

「なんだと!?」

「さらに、にぼしだけでなく肉も産地ごとに味覚がことなりますし、作り手によって味は無限大に広がることでしょう。このままだと、にゃ星と同じような劣化チョロのレーション生活になってしまいます」


 チビ太の発言は議会が紛糾する話題となった。ビームを肯定派もいくらかいるが、全体的にはビーム否定派が多い。


「静粛に! 今回は緊急の議題であったため、多数決で決めることとする!」


 賛同するにゃーと、否定するにゃーが混ざり、再びうるさくなるモニターの音声が強制遮断された。今は議長の声だけが響いている。


「各自の思う方で投票したまえ!」


 チビ太は迷わずビーム照射否定を肉球タッチ。


「うむ。今回はビーム否定多数ということで、司令部の説得に動く。まぁ、事実を話せば考え直しただろうがな。しかし、定期的にこの議題で答弁していくことになるだろう! 以上で解散にゃー!」


 なんとか乗り切ったと安堵するチビ太に、いくつかの国からお礼の言葉と贈答品が送られてきた。


「にゃー。イッギリスとオーストニャリア、あとフィンニャンド? 珍しいにゃ」


 がさごそと箱の封を切ると、2つの瓶と袋があった。


「これは……マーマイト? こっちも似てるベジマイト。こっちはサルミニャッキ。どれも『伝統食を守ってくれてありがとう』かにゃ。全く同じにゃのも不気味にゃが、ありがたくもらうと……ぶにゃぁぁぁぁああああ!」


 小瓶の蓋を開けた瞬間広がる臭いに鼻をやられ、涙目になりながら蓋をする。次の瓶も同じで、少し嗅いだだけで目に痛みが走った。

 最後の袋は大丈夫だろうと開けた瞬間、先日の青い衣を纏いし者が脳裏に映る。


「にゃあああああああああああ!」


 屋根裏に響くチビ太の絶叫は、防音効果により誰にも聞こえていない。


 今日も地球は平和です。




 おしまい。

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宇宙猫の侵略 コアラ太 @kapusan3

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