第5話 グルーミング

 タプエット?

 何を言ってるのかわからないな。

 よくよく考えてみたら、我ら宇宙猫にタプエットなど不要だ。健康管理マシンで最適な状態を確認できるし、うちの体型も機械に入れられるので問題ない。

 未だカリカリは不味いままで、タプエットなど良いこと一つも無いではないか!


 私は”ダンコハンタイ”する!

 ところでダンコハンタイって何だと思う?

 毛無したちの映像モニター見ててさ、知らない毛無しが集まって何か食べながら話しているの。その時言ってたから、特別な食べ物だと思うんだ。


「ダンコハンタイ。どれだけ美味しい食べ物なのか考えただけで……じゅるり」

「チビ太ー。トンタタ、トンタタ」


 お? この合図は毛繕いですな。

 ぴゃぴゃーと下僕の膝に飛び乗り、いつでも毛繕うが良いとポーズを決める。


「はいはい。まずはお腹ね」


 ほほー。至福のひと時じゃ。

 やっぱり下僕のいる生活は最高ですな。

 これを知ってしまったら野良生活など戻れん。


 腹、背中、尻尾とつづき、顎までマッサージされて溶ろけてしまう。


「はい終わり」

「にゃ!」


 いつの間にか寝てしまってたようだ。

 下僕に1級毛繕い師の検定証を渡しても良いほどだな。


 ピンポーン。

「宅配便でーす」

「はいはい」


 いつもの下僕御用達の輸送組織か。外で活動するのを見たことがある。

 あいつらは猫崇拝のマークを使用している者とそうでない者がいる。

 いずれは全ての輸送組織に猫のマークを導入させるべきだと思案しているが、宇宙猫協会にも上申したほうが良いだろうか?


 あまねく世界に猫崇拝を浸透させられれば、この『チクー』という星を征服したも同然である。


「では、失礼します」

「チビ太の好きなのが届いたみたい」


 何だと?

 そいつは聞き捨てならないな。

 いや、待て。

 こういう良い話の時は猫語変換が間違っている可能性もある。

 期待は半分にして、確認すべきだろう。


「にゃにゃ」

「今開けるね」


 ペリペリと剥がすのに時間がかかる。

 下僕は丁寧に作業するせいか、こういうのは時間がかかる。

 あっちへウロウロ、こっちでウロウロ。

 この魅惑的な箱が……もうダメだ。

 うおぉぉぉぉぉ!

 カリカリカリカリカリカリ!

 爪に引っかかる感触がたまらねぇ。


「あ、ダメ!」

「にゃあー」


 何てことをする。いや、失礼した。

 今度こそじっくり待つとしよう。


 頭と尻尾が揺れているのは自覚しているが、これは猫の性なのでどうしようもない。


「はい。開けたよ」

「にゃぁぁあああ」


 ずぼっ。

 はぁあああああ。

 このフィット感がたまらない。

 絶妙な狭さゆえに、全方位に体が密着する感じ。

 最高!


「そっちじゃなくて」


 失敬した。

 この箱も素晴らしいことは事実だが、今は下僕の用意した物を見るとしよう。


「はいこれ」


 何だこれ?

 トゲトゲのついた珍妙な物体。

 これをふぉおおおおおおおおおおおおおおお!


「毛繕い用のを買ったの」


 最高じゃあ。

 もうやめるの?


「これをテーブルの足に貼り付けて……これでいつでも自分でできるよ」


 何を言ってる。

 まさか!?

 これから毎度自分で毛繕えと言うのか!

 ザリザリ。

 悪くない。

 悪くはないが、なぜだろう。

 好きな時にできるという自由と引き換えに何かを失ってしまったような気がする。




 あれから数日。

 一人用毛繕い場を使っていると慣れもしてくる。

 こいつの一番良いところは、タプ腹で見えないところも掻けるということだな。

 下僕もなかなか良い物をチョイスしたと褒めてやろう。


「チビ太ー。トンタタ、トンタタ」

「にゃにゃー」(待ってました)


 やっぱり1級毛繕い師が一番良い。

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