第4話 タプエット

 爽やかな朝日に照らされながら、今日もチビ太は公園の巡回にやってきた。

 気温が上がる前で少しばかり毛寒い。

 野良たちが無人駅に移ったせいか、閑散とした公園は広々としているように見える。


 チビ太は猫団子になってまとまるのも嫌いでは無いが、流石に野良どもとしょっちゅう顔合わせると気まずいので、個人的にはちょっと嬉しいと感じていた。


「あー、あの猫ちゃん。うんちしてる!」

「本当ね。すごい顔……」

「ふしゃぁー!」

「怒った?」


 他猫のうんぴを凝視することは好まれないのにと、毛無しどものデリカシーの無さに怒るチビ太。

 威嚇を続けていると、うんぴが戻ってしまった。

 妙な虚しさに襲われつつ、新たなうんぴ会場を探しに移動する。


 体から毒素を出したものの、未だに怒りが納まらないチビ太は歩きながら独り言ちている。


「にゃーにゃ、ふしゃー」(さっきの毛無しめ顔は覚えたぞ)

「にゃーん」(だいぶ怒ってるわね)


 久しぶりの声に懐かしさを感じ、一気に怒りが引っ込んだ。


「姉ちゃん」

「今はマロンて良い名前をもらったのよ」

「そうなんだ。下僕が見つかって良かったね」

「前は野良が良いと思ってたけど、家ってのは良いわね」


 成猫前に下僕を見つけたチビ太と違って、マロンは野良生活を数年過ごしていた。いくつかの縄張りを転々とし、どうやら最近になって寝床を定めたらしい。


「それにしても、あんた太り過ぎじゃない?」

「え? そうかな?」


 マロンに軽く体をぶつけられると、確かにチビ太のタプ具合は……たっぷんたっぷんしている。


「私も少し太ったけど、それでも2タプくらいよ」

「何それ?」

「最近猫界で流行ってるタプ測定よ。あんたは7タプくらいはありそうね」


 宇宙猫の仕事ばかり意識していたせいか、最近の猫界にうといチビ太は、猫活を始めようかと考える。


「痩せた方が良いかな?」

「その方がモテるわよ」

「少しごはん減らしてみようかな」


 軽はずみに始めてしまったダイエット宣言にチビ太は苦しむことになる。


 さっそくとばかりに、夕食の食べる量を減らし、少し残すということを始めた。

 次の日も毎食少しずつ残し、おやつももらったふりして隠す。

 3日を過ぎた辺りで下僕が心配をし始める。


「チビ太、大丈夫? もっと食べな?」

「にゃーん」(もう大丈夫)

「やっぱおかしいわ」


 1週間を過ぎた辺りから、下僕のおやつ攻撃が辛い。もう隠す場所も無く、上司に送れるだけの転送エネルギーも足りないため、もらったおやつが溢れ出した。


「やっぱり食べてない!?」


 ダダっと走り出した下僕が小箱を持ってくると、その中に押し込まれてしまう。


「にゃー! ふぎゃー!」(出して! 出せ!)


 そのまま珍妙な箱に下僕ごと乗り込み連れていかれる。不安になまま縮こまっていると、臭い建物に連れてこまれてしまった。


「チビ太さーん。奥にどうぞ」

「ありがとうございます」


 呼ばれて耳をそば立てていると、『紺色を纏いし毛無し』の前に突き出される。


「どれどれ。うーん。目も悪く無いですね。ちょっと失礼」

「にゃ! ふぎゃ! しゃー!」(やめろ! つかむな! 喰らえ!)


 何度も虫を仕留めてきた右フックも、『紺色を纏いし毛無し』には効果が無かった。手にも紺色を纏い、チビ太の爪にも屈しない毛無しに驚愕する。

 驚き過ぎて呆然としている間に、さまざまなところを覗き込まれてしまった。


「念の為注射しておきますね」プスっ。

「にゃ。にゃぁぁぁ!」


「はい終わり。太り気味なのでごはんは多少少なくても問題ありませんよ」

「ありがとうございます」


 再び小箱に詰められ、疲れ切ったせいかアジトに戻るまで寝てしまっていた。

 チビ太が目を開けるといつもと同じ室内に安心する。


「あれは何だったんだ? 夢か?」


 自分の右足を見ると白い紙が貼られている。


「夢じゃない……あんな恐ろしいところがあるなんて、毛無しも侮れないな」

「チビ太。ごはんだよー」

「お? 頑張ったから、今日だけはしっかり食っておくか」


 カリッ。

 一口噛んだだけでもわかる。

 いつもと違う臭いと味。普段のごはんを星3つとするなら、これは星1つの味。

 下僕を見ると、見たことない袋を手に持っていた。


「太り気味な猫用のを買ってみたんだけどどうかな?」


 チビ太は味の落ちたごはんを食べながら思った。

 思いつきでダイエットなどするものでは無い。


 後日見かけたマロンは4タプくらいに丸々となっており、1タプ落としたチビ太を見て逃げ去っていった。

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