第3話 金玉福郎

 猫たちの言う鉄箱とは、毛無しどもが話す列車のことだ。

 チビ太が住む下僕の家(本人が勝手に思っているだけ)も、近くに地下鉄が走っている。


 猫の縄張り範囲からしても、その地下鉄が目的の場所だと当たりをつけ、仕事の合間にやってきた。


「ジメジメしたところは嫌いなんだよな」


 小言を漏らしつつも地下道を歩いていると、時折鳴る轟音に心臓が弾けそうになる。

 ゴォォォォ! ガタタンガタタン!


「にゃぁぁぁぁ! ふっ。お、驚かすんじゃにゃい」


 焦りを隠すように右髭をピンと弾きながら強がりを言う。


「にしても横穴ってどこにゃんだ?」


 ふらふらと歩きながら探していると、暗い広場に出くわした。

 チビ太はこの広場に見え覚えがある。

 隠れて家主の後を着いてった時に入り込んだ駅というところだ。その時は珍妙な毛隠しを被った毛無しに捕まってしまったが良い思いとなっている。

 チビ太が『珍妙毛隠し毛無し』からもらった乾燥肉を思い出していると、よだれが垂れる。


「にゃはは。変な奴だな」


 チビ太は薄暗い駅の中から聞こえてきた声にビビる。


「こっちにゃ」


 声のでた方を向くと、透明な箱の中からこちらを覗く2つの光る目を見つける。


「にゃぁぁぁぁぁ! あああああお助けー!」

「驚きすぎにゃ」


 透明な扉をうんしょうんしょと開きながら二足歩行で歩く化け物は、意外にもチビ太と同じくらいの大きさだった。


「よく来た。久しぶりの客にゃ」


 木の板を脇に抱えているのは謎だが、3つに分かれた尻尾を見つけ、チビ太が安堵する。


「おぉ。猫又どのを探していました」

「そうにゃのか? そんにゃに知られているとは照れるにゃ」

「いや、あまり知られてはいません。なので探しに来ました」

「お前失礼にゃ」

「あいてっ」


 板で叩かれた頭に鈍い痛みが走る。


「遥々来たんにゃし、話くらいは聞いてやろう。この、金玉福郎がにゃ」

「え? キンタマ拭くぞう?」

「福郎にゃ! 西の巨大城下町の一角に湯屋を構えぇぃ」

「あの、長い話はちょっと……」

「本当に失礼な奴にゃ」


 その後ブツブツと愚痴を垂れ始め、話を聞けるような状況にならない。

 チビ太はボーっとしながら、晩飯のことを考えていると、ようやく我に返った福郎が声をかけてくる。


「それで、何の用事だったにゃ?」

「あ、ちょっと毛無しの捕獲活動が活発になってきたんで、猫又様に案がにゃいかと」

「ここに来れば良いにゃ」

「え?」

「ここに来たら、毛無しに捕まらにゃいと言ってるにゃ」


 なるほど、その手があったかと手を叩くチビ太に、呆れた顔の福郎が苦言をテイす。


「こんにゃのが妖怪ににゃったとは世も末にゃ」

「あ、自分は妖怪じゃなくて宇宙猫なので」

「同じにゃ」

「え?」

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