第2話 平行線
寒いな…風呂溜めるか。あ、慶夜くんを先に入れた方がいいよな?あれだけ雨に晒されていたんだ。風邪なんて引いたら大変だ。
「慶夜くん、風呂溜めるから先入っちゃいな」
「あ、はい…っ…」
慶夜くんが何故か怯えるように声を出して、下を向いてしまった。風呂、苦手なんだろうか。
「風呂苦手なの?」
「あっいや、苦手っていうか…その……怖いんです」
怖い?風呂で溺れた事でもあるのだろうか。俺も小さい頃溺れかけたことがあったっけな。
「怖い?」
「…両親が、いつもお風呂場に閉じ込めたりしてくるんです…だから…あんまりお風呂場好きじゃなくて…」
おいおい、それって虐待ってことじゃないか。まさか家出してきた理由はそれか?というかこれしか理由がないぞ。
…親が原因、か…。
「…俺もな、親に一時期そういう事されたよ」
「…え、将樹さんも…?」
…そう、俺も親から虐待を受けていた。俺が幼い頃から両親の喧嘩が絶えなかった。暇さえあれば怒鳴り合い、暴力。散々離婚だ離婚だ言う割にはに別れない。…幼いながら狂ってると思ったよ。
正式に離婚が決まったのは俺が8歳の時。俺は母親に引き取られた。…どちらに引き取られようと邪魔者扱いされることに変わりはなかっただろうけど。
「俺の目の下に傷があるだろ?これは親にやられた」
「そん、な…」
「包丁でスパっとな…」
忘れもしない。あの日、酔った母親に…俺は殺されかけたんだ。母親が俺に包丁を振りかざしたあの姿は今でも目に焼き付いている。間一髪で躱したものの、目の下を刃が掠り、そのまま傷跡が残ってしまった。
「……」
慶夜くんが俺の方に目線を向ける。そして、ゆっくりと俺の方に向かってくる。ちょ、顔が、顔が近い。
「ちょ、慶夜く…ん?」
すっ…と、慶夜くんの両腕が、俺の身体を包み込んでくる。まるで、さっき俺が慶夜くんにしたように。
「…辛かった…ですよね……痛かったですよね」
「…安心してください、僕が側に居ますから」
真っ直ぐに俺の目を見つめてくる。今の言葉が本心であると主張するように。
「ありがとう、慶夜くん」
そっと、俺も抱き返す。さっきも思ったけど、慶夜くんの体はとても細い。多分、まともに飯も食わせてもらえてないのだろう。
「あれ、慶夜くん」
「は、はい」
「顔、赤いよ?」
「えっ、い、やそ、そんなっことはっ」
「動揺しすぎじゃない…?」
俺がそう言うと、俺の胸に顔を埋めるように下を向いてしまった。ど、どうしたもんか。頭でも撫でてみるか。…触り心地良すぎない?ずっと触っていられるぞこれ。
俺は知らなかった、この時、慶夜くんの顔は更に赤くなっていたことに…。
家出してきた犬を保護したら一緒に暮らすことになった話 萌音蘿 @Utakata_Monora
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