第4話、僕は糞を踏む。
怒らしたらタイアードの二の舞になりそうだからな....。
「ふぅ~。いててて...。膝が吹っ飛んだかと思ったよ。母さん!ナイスキック!」
親指を立てて笑顔でアメリアに言っている。
この親父バカだ...。
まぁこの明るさが俺は好きだけど。
「ザック。とりあえず冒険者カードに旅の資金を少し入れておいたが自分でも稼がないとな!
男は働いてなんぼだ!」
「うん!わかったよ。」
働かざる者食うべからずって事か。
まあそうだろうな。
その後、俺たちは楽しく食事をした。
両親の旅の話やら馬鹿話やらしてタイアードはソファーで潰れた。
俺はそっと毛布をかける。
「母さん。洗い物は俺がするから休んでいて。」
「あら、そう...。うん。今日は甘えちゃおうかな!」
そう言うとアメリアはテーブルに座って分厚い本に書き物を始めた。
俺はせっせと洗い物を終わってリラックス効果のあるハーブティーをアメリアに出した。
「ありがとう。ザック今日は疲れたでしょ?
もう休みなさい。
明日から旅に出るのに、疲れを残してたらいい旅路にならないわ。」
「うん...。そうだね。じゃぁそろそろ寝るね。
あんまり根を詰めすぎないようにね。」
「ありがとう。ザック、おやすみなさい。
私の愛しの息子。」
「うん、おやすみなさい。」
俺は少し照れながら部屋に入った。
明日から旅か...。
何があるんだろう、まだ見ぬ土地、景色、冒険そんな事を考えるとワクワクして寝れそうにない。
.....。
..........。
............グーグー。
そんな事はなかった。
今日一日、目まぐるしく色々あったせいでザックの疲労はピークを向かえてて目を閉じた一瞬で深い眠りに落ちた。
その頃アメリアはイビキを豪快にかいてるタイアードの横で、
「出来た!ザックはビックリするだろうな!
明日か...。子供の成長は本当に早いわね...。
まぁ可愛い子には旅をさせろって言うし、ザックの旅が良いものになるといいな。
ねぇ...アナタ。」
「ガァーー!ガァーー!」
タイアードはイビキをかいて寝ている。
「本当に子供なんだから...。」
アメリアは魔法でタイアードの身体を浮かせベッドまで運んでいく。
「ふあぁぁ。私も寝よっと...。」
アメリアもベッドに入って眠りについた。
イビキがうるさいので沈黙の魔法をタイアードに掛けて。
翌朝。
「ザックゥゥ!!いつまで寝てるの!
今日は旅立ちの日でしょ!!
いい加減起きなさい!!」
「うるさいな....。
もう少し寝かせてくれてもいいじゃないか...。」
「起きないとどうなるか....。わかってるよね...。」
俺は瞬時に起きた。
「ハ、ハイ!!今起きます!いや起きました!」
「宜しい。顔洗って朝食食べてしまって。」
「ハイ!」
俺はキビキビと顔を洗い食卓について朝食を食べ始めた。
「あれ?父さんは?」
「父さんは庭で日課の素振りしてるわよ!
朝から本当に元気よね。」
「本当に...。」
毎日毎日、本当にスゴいな...。
そういう勤勉な所は俺も少しは見習うべきなのかも知れない。
まぁ無理だけど...。
「ザック!これ。」
アメリアが渡して来たのは本だった。
「母さん。何これ?」
「魔導書よ!昨日やっと完成させたの!」
「魔導書!?」
「魔法を覚えると便利よ。
幸いザックは魔法力もあるから読めば覚えられるわよ!」
「いやいや...。魔法なんて使ったこと無いけど。」
「初級から上級、生活魔法まで書き下ろしたの。試しにここの所、読んでみて。」
「これは水の魔法?」
「そう。このコップに手をかざして魔導書に書いてあること詠唱してみて。」
俺はアメリアの言う通りにしてみる。
「我。水の神アクエリアスの御加護の元、恵みとなる水を産み出す。ウォーター。」
初級だし、大したことはないんだろうな...。
コップ用意されてるくらいだし。
そう思っていると全身に何かが廻り、手に集まって放たれた。
来たか!?
........。
.............。
チョロチョロ....。
俺の手からコップに水が少しづつ流れて行った。
何だコレ...。ショボッ!
「成功ね!よかった。
才能があっても出来ない人も居るのよ。
魔法は詠唱も大事だけど、イメージが一番大事なの!
ザックは初級だからこんなもんだろうとイメージしたから出来たんだと思う。
慣れてくるとイメージだけで無詠唱でも出来るようになるから。」
「....う、うん。」
「水は大事なのよ!水辺の無い所に行ったら貴重なんだから。美味しいから飲んでみなさい。
魔力で少し甘くなってるハズよ。」
俺は言われた通りに自分が出した水を飲んでみた。
「旨い!!何だコレ!?」
「でしょ!?旅には水は大事なの。
後、魔法力が上がれば威力も上がるから毎日練習してね。
あっ!魔力の残量には気を付けて。
「そんなのどうやって測るの?」
「魔導書に[鑑定]っていう魔法があるから後で覚えて自分に掛けて見なさい。自分のステータスが分かるから。」
「うん、わかった!母さんありがとう。」
「食べ終わったら着替えて行く準備してきなさい。」
「うん。」
俺は朝食を終わらせて部屋に行き母アメリアがくれた服に着替えた。
サイズもピッタシ。それにやけに軽い。
何の素材で出来ているんだろう?
聞くのが怖い...。
そして、親父タイアードから貰った剣を腰に納めた。
全身鏡で見てみると、いっぱしの冒険者見たいで格好いい。
実力は見合ってないだろうが...。
着替えが終わってリビングに戻るとタイアードの姿もあった。
「おう!ザック!カッコいいじゃねーか!」
「父さん。ありがとう。」
「うん!バッチリ決まっているわ!我が子ながら惚れ惚れしちゃうわ!」
「ありがとう。母さん。」
「はい。これの中に色々入っているから。バックをなくさないようにね!って言っても魔法が掛かっているからザックと私しか開けられないんだけどね。
マジックバックだから何でも入るよ!
10トン位は入るんじゃないかな?」
「マジックバック!?
それってめちゃめちゃ高級なんじゃ?」
「良いのよ~!こんなの持っている中では小さい方だし!
もっと大きいの欲しくなったら!
頑張って自分で手に入れなさい。
いくらザックが可愛いからってこれ以上甘やかすと近所の奥さんに過保護なんて言われちゃうわぁ!」
「そ、そっか...。うん。自分で頑張るよ...。」
充分過保護だけどね...。
まぁ、もらえるものは貰っておこう。俺はそのマジックバックに魔導書を入れて両親を見た。
「これから言ってくるね。父さん、母さん。
体には気を付けて、元気でいてね。落ち着いたら会いに来るから。」
「おう!ザック!頑張れよ!」
「ザックゥ~!!いつでも帰ってきていいんだからね!」
「それじゃ旅にならないでしょ!
じゃぁ、行ってきます!」
俺は家の扉を開けて歩いて行く。
後ろから両親の「やっぱり行かないで~!」という声を聞かないように俺は振り向かずに歩いた。
声が聞こえなくなって一つ息を吐く。
[糞を踏む者]なんて言うスキルを貰った俺だったが過保護な両親のお陰でいい旅が出来るんじゃないか?
いい天気でお日様も味方してくれている様だ。
町の入り口来た。
ここから始まるんだ。
俺の旅が!俺の俺だけの冒険が!
一歩町の外に踏み出す。
ムニ。
....ムニ?
俺は足元を見た。
そこには産みたてホヤホヤの糞があった。
......。
ダァァァァァァァァァァァァーー!!
何故こんな道の真ん中にあるんだ!!
最悪だ...。
本当にクソスキルじゃねーかよ!!
俺はウォーターの魔法でブーツを洗い、
また一歩踏み出す。
ムニュゥ。
「ダァァァァァーー!!まただ!!
アァーもう嫌だ!!クソォォー!!」
[糞を踏む者]
そんなスキルを授かったザックの前途多難の物語はこれから始まっていくのだった。
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読んで頂いてありがとうございます。
短編にはなりますが、評価をぜひしていただければ幸いです。
また途中になっている作品もあるので落ち着いたときに続編を書いて行きたいと思います。
僕は糞を踏む。 一ノ瀬 遊 @ichinose1120
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