第3話、旅に出る決意。

「ところで、ザック。お前この先どうするんだ?」


タイアードが真剣な顔で言ってくる。


「どうって?特に何も考えてないけど...。」


「お前も成人なったんだ。

いつまでも家に居てもしょうがないだろう。

やりたい事とか好きにやって良いんだぞ。」


「そうね。ザックにも私達の様に世界を回って色々見て立派な人になって欲しいの。」


立派な人か...。

俺にはなれるとは、思わないけどな...。

スキルも[糞を踏む者]だし...。

でも、両親にはこれ以上世話になるわけにも行けないしな...。

旅か...。

自由気ままに生きるのも楽しいかもな。


「わかった。やりたい事を探しに旅に出る。」


「良く言った。さすが自慢の息子だ!」


「そうね!私達の自慢の息子ね!

今日はゆっくりしてね!旅の準備は私がするから!」


「いや、自分の準備は自分でするよ。」


「ダメ!私がする!」


「ザック。母さんの言うことは聞いておけ。」


「わかったよ。頼むね、母さん。」


「うん!任して!

よし、これから買い物行って夜ご飯の準備するから~!期待しててね!」


そう言うと母アメリアは外に出掛けていった。

取り残された2人。

急に親父と2人にされると何を話せば良いのか...。

そんな事を考えていると、


「ザック...。外に出ようか...。」


「え?う、うん。」


いつもとはトーンの違うタイアードの声に少し驚きながらも後を付いていった。


家の横の庭に着くとタイアードから木剣を渡され構えてきた。


「さぁ、やろうか...。」


「ちょ、ちょ、ちょっと待って!何で急に戦う事になってんだよ!」


「何でって...お前。

旅に出るなら自衛位できないと死ぬからだよ。その為に訓練は必要だろ?」


「死ぬって...大袈裟な...。」


「大袈裟じゃないぞ。この町を出たらモンスターは出るんだ。

戦いを知らない奴が何人も死んでるのを俺は見ているからな。

俺はお前に死んで欲しくないから鍛えるんだ。」


「いやいや、明日旅に出るのにこんな付け焼き刃でなんとかならないでしょ!?」


「ん?そんな事ないぞ。基礎ならもう教え終わってるからな。」


「は?基礎なんて教わってないけど...。」


「まぁ、伝えずにやらしてたから当然か...。

ザック!大丈夫だ!構えてみろ。しっくり来ると思うから。」


本当かな...。

俺は半信半疑で木剣を握ってみる。

初めて握るのにやけにしっくり来る。

なんか変な感覚だ...。


「ほら、しっくり来たろ?」


「う、うん。」


「よし、なら大丈夫だな!遠慮なく打ち込んでこい!」


「行くよ!!」


俺は木剣を強く握り、タイアードに突っ込んでいく。

そして思いっきり上段から振り抜いた。



ガツーーン!!


剣と剣が強くぶつかった。


「いい撃ち込みだ!!だが。」


がら空きになった俺のボディにタイアードの蹴りが飛んできた。

俺は瞬時に判断してバックステップで避ける。


「いい判断だ。今の蹴りを所見で避けるなんて中々出来ないぞ。俺も本気で行く。」


いやいや、本気で来るなよ...。

いくら木剣でもまともに喰らったら死ぬって...。

旅に出る前に、天国に旅立ってしまうよ。

母さん、先立つ不幸をお許し下さい。


俺はそんな事を思いながらタイアードと対峙する。

それから2時間ほどノンストップで打ち合った。

結果、お互いマトモに攻撃を喰らう事もなく終了となった。


「ザック。お前スゴいな...。これなら安心して旅に出せるわ。」


「ハァハァ...。そりゃどうも...。」


俺には2時間も撃ち合って息切れ一つしてない親父の方がスゴいと思う...。

ってか本当はバケモノじゃねーかなとさえ思った。


「ザック!これ餞別な!」


タイアードは1本の剣を俺に渡してきた。


「これは?」


「その剣は俺が素材を選んで知り合いに打って貰ったザックに合うオリジナル剣だ。

せっかくだから抜いてみろよ!」


そう言われて鞘から剣を抜いてみる。

その剣は不思議な輝きを放っていた。


「なんかスゴいね...。」


「そりゃそうだろ!この剣を打ってくれた俺の仲間が最高の出来って言ってたからな!

ザック...。

もしお金に困ってもこの剣は売るなよ...。」


「売らないよ!!

俺は父さんと違って無茶はしない堅実主義だから大丈夫。」


「そうだよな....。

ザック...。ギャンブルと女とお酒には気を付けろ」


そう言ったタイアードの背後から鬼の形相をするアメリアが立っていた。


「貴方...。ギャンブルと女がなんだって...。」


ボキボキッと指をならしながらアメリアはタイアードに近づく。


「ちょっと待ってくれ...。母さん落ち着けって!今俺の若い時の失敗をだな...。」


「やかましい!!天誅!!」


ドゴォォーン!!


アメリアの右ストレートが綺麗にタイアードの顔面を捕らえる。

殴られたタイアードは回転しながら空高く舞った。


これは死んだな...。

親父無念...。


「さぁさぁザック。あんなバカほっといて家に入りましょ。」


「う、うん。」


あの親父が一撃で沈むとは、アメリア恐ろべし...。

それにしても何でアメリアはこんなに怒っているのか...?

俺には理解できなかったが怖くて聞けなかった。まぁ、聞いた所でしょうもなさそうだから聞かないが。


家のリビングに入るとアメリアは料理を始めたので俺は水浴びをして汗を流した。

さっぱりして出ていくとタイアードがアメリアに土下座していて弁明をしていたので、俺は自分の部屋に行ってベットに寝転んだ。


明日からは一人か....。

そう考えると少し寂しい気持ちになった。

両親は俺が寂しがらないようにいつも笑わせてくれたし、若干過保護気味だったが本当両親の間に産まれて幸せだった。

そんなこと考えてると自然に涙が頬を伝う。


ダメだ、ダメだ!!

泣くのは今で終わりだ。

明日からは泣いてはいられない。

俺は涙を脱ぐって深呼吸をした。


俺が落ち着いた頃、


「ザック~!!ご飯出来たわよぉ~!早く来なさい!」


「うん!今行くよ!」


俺は部屋を出てリビングに行った。

食卓には普段よりも豪勢な料理が並んでいた。

親父とも仲直りした見たいで期限が良くなっていた。

あんな勢いで殴られた親父の顔は腫れの一つもなくニコニコしていた。

どういう防御力してんだか...。



「ほらほら、ザック。早く座って。」


「う、うん。」


俺が着席するとグラスを持った親父が、


「息子の新たな門出に乾杯~!!」

「乾杯~!」

「か、乾杯。」


さっきお酒には気を付けろと言った親父はエールをグビグビ飲んでいる。

殴られた衝撃でさっきの記憶飛んでいるのか?

不思議な親だ...。


「そうそうコレ。ザックに私からのプレゼント。旅をするなら。格好良くないとね。」


広げて見ると黒をメインとした。

格好いい服とコートだった。

さすがタイアードと違ってセンスがいい。

一回タイアードが買ってきた服はセンスの欠片も無いようなだっさい服だったもんな。

あれ以来自分で買っていたけど、

アメリアとは感性が似ているのかもな。


「私の知り合いに作って貰った魔法の服一式。

付与は私が色々したから。便利よ!

だけど、お金に困っても売らないでね。

売られたら母さんショックで倒れてしまうかも...。」


「売らないよ!

どんだけお金に困るの事があるのさ!」


タイアードと同じ事を言ってくる。

うちの両親は似た者同士なんだな。

それは仲良いわけだ。

さっきのケンカ?も仲がいい証拠みたいなものか...。


「なんの付与が付いているの?」


「フフン!それは内緒~!旅をしながら母の愛を感じてみてね。」


「なんだよ...。それ...。」


うちの両親はブッ飛んでいるからな...。

鑑定屋とかあったら見てもらってもいいな。


「さぁさぁ、ザック!冷めないうちに食べましょ!」


「うん!頂きます!」


パクっ!


「母さん美味しいよ!!ありがとう。」


「良いのよ...。しばらくは私の手料理食べれなくなるんだから、お腹一杯食べてね!」


「うん!!」


「母さんの料理は本当世界一だな!」


「アナタったら大袈裟なんだから...。」


アメリアは恥ずかしそうに頬を赤らめた。

本当にラブラブな事で何より。

近いうち弟か妹が出来てそうだな...。

楽しみにしてよっと。


「そうそうザック。コレお前のカード作っておいたから。」


「カード?」


「あぁ。旅をするにも暫くしたらお金もなくなるだろう。そうならない為に仕事をする必要がある。コレは冒険者カードだよ。

全冒険者ギルドで使えるから便利だぞ~!」


「えっ?俺登録してないけど...。」


「アメリアにザックの能力を聞いて成人になった瞬間、俺が勝手に発行した。」


「そういうのって本人居なくてもいいの?」


「何言ってるんだ?無理に決まってるだろ!

俺がこの町の冒険者ギルドの長だから出来るって事だ。」


「は?父さんギルド長なの?」


「そうだぞ!ってか言わなかったっけ?」


「聞いてないよ!

仕事の事なんか話さないじゃないか!」


「そうだっけか?まぁ、気にするな。

俺がどうであれザックはザックだろ?」


「そうだけど...。

何か釈然としない...。って言うと母さんも何か仕事してるの?」


「ザックは母さんの仕事も知らんのか!?

母さんの仕事は...。」


とタイアードが言おうとしたとき、テーブルのしたの方で打撃音が聞こえた。

タイアードは膝を抱え悶えている。


「母さんは専業主婦よ...。」


「いや、今父さんが何か言おうと..。」


「専・業・主・婦!です...。」


「そうだよね...。」


俺は絶対違うと思ったがこれ以上聞くのをやめた。


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