第41話 キャンプ場にて ①

「「きゃーーー!」」「まってー」


「待ちなさーーい!」


 キャンプ場に着くなり近くに流れている小さな川に向かって咲とあかりちゃんは勢いよく駆けて行った。一歩出遅れた大輝君は二人の後を追い、文香さんが三人の後を追った。そして三人は川に入る前に文香さんに捕まっていた。


 キャンプ場にはすでにいくつかのテントが張られており、団体や家族が色々な準備をしていた。

 ここにはテントを張らなくても寝泊りできるコテージがあるが、今回そこは利用しない。ここにいる他の家族や団体と同じようにテントを張ってキャンプを楽しむとのことだ。ちなみにシャワーやトイレはキャンプ場にあるサニタリーを利用する。


 雄二さんにあっちに行くぞと言われ、十分ほど歩いて連れられてきた場所は先程よりも景観が良い場所であった。大きく浅い川が流れており、すぐそばにはBBQができるようになっているところがある。そしてテントを張るのに最適な場所もあった。

 俺は咲や他の子ども達に何かあった時のために事前に文香さんから場所を聞き、下調べをしておいた。しかしこのような場所は利用してよいキャンプ場として表記されていなかったはずだ。ポケットから家で印刷したここの案内場を出して確認していると横から雄二さんが教えてくれた。


「この場所は…… ここだな!あ、心配しなくても大丈夫だぞ?ちゃんと許可は取ってるから。実はな、ここのキャンプ場は俺の知り合いが経営していてな。仲間で集まる時はここでBBQしてるんだ。だからほら、あそこなんか地面が平らに整ってるだろ?ここは秘密の場所ってわけよ!」


「雄二さんには感謝しかないですね」


「なーに、いいってことよ!ここなら周りを気にせずワイワイできるしな」


 二人で話していると、子ども達の騒ぐ声が聞こえてきた。もう遊びたくてしょうがないのだろう。


「文香!子ども達をお願いしてもいいか? 俺たちはテント立てたりしてるから」

 

「わかったわ~」


 こうして子どもの面倒を見るのを女性陣が、キャンプの準備をするのを男性陣がするということで話がまとまった。俺は文香さん達に咲のことをお願いして、さっそく雄二さん秀幸さんと一緒にテントから取り掛かる。


「それにしても徹君はカッコいいね~。顔はいいし、身長は高いし!何より優しく礼儀正しくでいい男だね」


 テントを広げ、ポールを通している時に秀幸さんが突然そんなことを言った。そしてそれに雄二さんも賛同する。


「秀幸さんは会うのは今日が初めてでしたよね?徹君はね、俺が初めて会った時も今と変わらず礼儀正しくていい子だったんですよ!」


「へぇ~、それっていつ頃ですか?」


「中学二年生だったから十四歳の時かな?」


「中学生の頃からですか!しっかりしてますねぇ!僕なんか親に反抗ばかりしてましたよ」


「恥ずかしいのでそろそろこの話やめません?」


 俺がいないところでなら構わないけど、いる前でこういう話をされると少し恥ずかしい。雄二さんはそんな俺を見て大笑いした。


「照れてんのか?ん~?ワッハッハッ」


「僕は初めて会ったので徹君のこと色々知りたいんだよ!」


「そう言われたら何も言い返せないじゃないですか」


「まぁこの続きは釣りの時にして!今はちゃっちゃとテント立てちゃうか」


「そうですね!」


 それから二十分くらいで人が六人は入るであろう大きめのテントを三つ立てた。その後折りたたみのテーブルや椅子を用意してから、俺たちは釣りをするため川へ向かった。





「さーて、そろそろ大ちゃんのところに行こうかなー」


「秀幸さん、飽きるの早くないですか?」


「そりゃそうだよ~。秀ちゃんだけ一匹も釣れてないんだから。プッ」


「あ!雄二さん今笑ったでしょ!もーほんとなんで僕だけ釣れないのー!」


 釣りを始めて十五分、だいぶ打ち解けた俺たちは会話も弾み、雄二さんは秀幸さんのことを秀ちゃんと呼んでいた。そして会話から分かるように何故か秀幸さんだけ一匹も釣れていなかった。ちなみに釣りに慣れている雄二さんは五匹、釣り初心者の俺は2匹釣り上げていた。釣り経験者であるにもかかわらず、初心者の俺が釣るたびにがっかりしたり魚が食い付くのを待てなかったりとまるで子ども……いや少年のようだった。そんなわけで三人で盛り上がっていると秀幸さんの釣竿の浮きが沈んでいるのに気付いた。


「あれ?秀幸さんかかってますよ!」


「ん?おぉー!ほんとだほんとだ!んっ⁈ んーっ、くっそぉぉぉお——でいっ!」


「「「うおぉぉぉお!」」」


 最初かかったのが分かった時は引きがあまり強くなさそうだったが、秀幸さんが気付いて竿を持った瞬間に突然引きが強くなりその勢いで竿が持ってかれそうになっていた。しかし釣りを始めて本日初めての当たりを引いた秀幸さんは手放すまいと踏ん張り、70センチ越えのニジマスを釣り上げた。俺や雄二さんが釣り上げた15~20センチの鮎よりも格段に大きく、思わず三人ともテンションが上がった。


「これすっごい重いぞ!」


 見るからにブクッとかなり太っていて重そうで、持ってみるとその想像していたよりも重かった。そこから気分が良くなった秀幸さんはもっと釣るぞーとはりきっていた。そして——


「よしっ!そろそろ昼だから戻るか」


「そうですね!釣りって楽しいんだなぁ」


「大ちゃんきっと喜ぶぞ~」


 結局約二時間半釣りをしていた。初めての釣りに夢中になった俺はあの後四匹釣り上げた。雄二さんは鮎だけでなくニジマスやヤマメなど七匹以上釣り上げていた。そして終始はりきっていた秀幸のバケツには一際大きいニジマスが一匹だけいた。

 そう、あれから一匹も釣り上げることができなかったのだった。秀幸さんは今にも泣きそうな、悲しい表情をしながら大輝君の元へと戻っていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 元いた場所に戻ると咲達はテントの中でおままごとをしていた。話を聞くと川で遊ぶのはみんな一緒がいいと言うのでテントの中で遊ばせていたらしい。

 これからお昼ご飯を食べるため、文香さん達が子ども達を呼んできてくれた。俺たちはそれぞれ釣り上げた魚を見せるためにバケツを地面に置いた。


「「「すごーい!」」」


 子ども達はみんなびっくりしていてその反応はとても嬉しかった。その中でも一番喜ばれたのは秀幸さんのニジマスであった。秀幸さんは一匹しか釣れなかったことで内心喜んでもらえるか不安でしょうがなかったようだ。秀幸さんはとても満足そうに、今日一の笑顔を見せた。


 それから少しの間子ども達が魚を観察した後でお昼ご飯の時間となった。お昼ご飯は朝から文香さんと恵さんがそれぞれ用意してきてくれたお弁当だ。俺も作ろうとしたが二人が大丈夫だよと言ってくれたので素直にお言葉に甘えた。

 二人が持ってきた二重箱の上の段にはお稲荷さんとおにぎりが、下の段には卵焼きや唐揚げ、ハンバーグ、海老フライなど様々なおかずが詰まっていた。こうして大人数でお弁当をつつくなんて運動会みたいだなと懐かしく感じた。

 こうしてみんなで美味しくお弁当を頂いた後、子ども達をお昼寝させた。

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幼い妹をもつぼっち、実は世界一。 洞山楓 @dousann

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