第40話 車内道中
「やっぱり夜遅くまではしゃぐわよね~」
「そうですね。寝かせるのが大変でしたよ」
「友達も一緒だとなると尚更よね」
俺と文香さん、恵さんで昨夜の子どもたちのはしゃぎ様について話をしていた。やはり次の日に何か楽しみなことがある時の夜は少し大変なのだ。
「今日から二日間あかりはきっと雄二さんにべったりね。いつもたくさん遊べないからって楽しみにしていたわ」
「そりゃほんとか!これは最高の二日間になりそうだ!!」
運転席でテンション上がりまくりの雄二さん。
「ねぇ恵、大ちゃんは?大ちゃんは僕にべったりかな?」
「うーん、秀幸さんよりも徹君にべったりかも」
「俺ですか⁈」
「この前遊んでもらってから結構な頻度で徹君どこにいるの?って聞かれるのよ。相当楽しかったみたいで」
「徹君~、僕の大ちゃんを取らないでくれよ~」
「大丈夫ですよ。取りませんって」
雄二さんのような男らしさとは逆に少しなよなよしているこの人は恵さんの旦那さんである青木
その後運転席、助手席に座っている雄二さんと秀幸さん、一番前の席に座っている文香さんと通路挟んで俺の横に座っている恵さんがそれぞれ会話をし始めた。
するとこの時を待っていたかのように後ろから肩を掴まれ俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「まだ咲ちゃん起きないでしょ?ちょっとこっち座りなさいよ」
俺は言われるがまま青木さんの隣に座る。用件はさっきのことだろう。
「徹君、私が母から質問攻めされてる時あなた関係ないって顔して一切こっち向かなかったわよね?どういうこと?」
「俺が何か言ったらややこしくなると思ったんですよ」
「そうならないように助けるんでしょ!」
「でも恵さん何か企んでるような顔してましたし、それにややこしくなったら青木さん絶対俺のせいにしますよね?」
「当たり前でしょ?」
この人無茶苦茶だ……
「青木さんって鬼ですね」
「はぁ⁈鬼ってな——」
「しぃー。そんなに大きな声出したらみんな起きちゃいますよ」
俺は咄嗟に青木さんの口を手で塞いだ。
「んー。んーー! っぷはぁ。ちょっと苦しいでしょバカッ」
どうやら鼻まで塞いでしまっていたようだ。申し訳ない。
「それはすみませんでした。でも小さい子が寝てるんですから考えてくださいね」
「分かったわよ。ってなんで年下の徹君に注意されなきゃいけないのよ。それにこれは徹君が私のこと鬼とか言うからでしょ」
「年下とかは関係ありませんし、青木さんが無茶苦茶なこと言うからですよ」
「はぁ、もーいいわよ」
溜息つきたいのは俺の方なんですけども。
「ねぇ、ここで青木って苗字で呼ばれるのも変だからこれから下の名前で呼んで」
「でもいいんですか?初めて会った時嫌がってませんでしたっけ?」
「……あの時はあの時、今は今でしょ?」
「ちなみに私はののちゃんって呼んでるわよ〜」
「お母さんは黙ってて!」
普段からこういうやりとりはしないんだろうか。それとも俺が普段の青木さんを知らないだけなのか。青木さんものすごく慌ただしい。夏休み前に初めて話した時は冷静で強引で、何より怖い印象だったけど少し違ったみたいだ。
絶対にののちゃんって呼ぶなよと睨んでくるのでこれ以上機嫌を損ねないように乃々花さんとお呼びする。
「そういえばなんでいつも髪縛らないの?今日みたいに縛ってたらいいのに」
「あー、髪下ろしてたら人寄ってこないと思って。人と関わるの好きじゃないので」
「ふーん。なんか勿体ない気がするけど」
「勿体ないですか?」
「ののちゃんは徹君のことかっこいいって言いたいのよね〜!」
「そ、そんなこと言ってないでしょ!」
「徹君ごめんね〜。ののちゃん素直じゃないから」
「いえ、全然大丈夫です」
そしてこんな感じでだらだらしながら話すこと三十分後、ようやくちびっ子達が起きた。俺は咲に呼ばれて元の席に戻った。
「おにー……たん。ここどこー……?」
「おはよう。ここは車の中だよ」
「なんでー?」
「これからキャンプに行くんだよ。昨日から楽しみにしてたでしょ?」
「きゃんぷ…… きゃんぷだぁ!」
キャンプという言葉で全てを思い出したかのようにパッチリと目が開かれ、咲は完全に目覚めた。
「おにーたん!きゃんぷだよ!もーつく?」
「そうだね。もう少しかかるかな」
「はやくいくの!」
「分かったから落ち着いて」
すでに興奮状態の咲はそれでも落ち着くことはなく、窓から外を見てキャンプキャンプと騒いでいる。しかしこれは咲に限ったことではなく、あかりちゃんも同じように騒いでいた。大輝君はというと、まだ眠いのか起きてからずっとボーッとしていた。俺は後ろを向いてそんな大輝君に挨拶する。
「大輝君おはよう」
すると大輝君は俺の声にビクッと反応し、その後嬉しそうに名前を連呼した。
「とーるだ…… とーる!とーる!」
隣では乃々花さんがなんでこんなに懐いてるのとがっかりしていた。
俺はこのまま後ろを向いたままでは危ないので後で遊ぶことを大輝君と約束して座り直した。
そしてキャンプ場までの約二時間を朝ご飯を食べたり、みんなで歌を歌ったりしながら過ごすのだった。
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