第39話 キャンプへ

「ほら、もうそろそろお迎えが来るわよ! 早くしなさい」


 キャンプが楽しみでしょうがない、子どものようにはしゃぐ母にそう急かされて私は眠い目を擦りながらようやく動き出す。

 起きるのが遅いと言われたけど考えてみてよ。朝の五時だよ?私からすれば頑張って早く起きた方よ。普段こんな時間に起きることなんてないんだから。

 私はパッと着替えてすでに外で待っている家族の所へ荷物を持って行く。


「ののちゃんお化粧する時間くらいちゃんと取りなさいよ」


「家族旅行なんだし別にいいでしょ?それに私普段からそんなに化粧しないし」


「いつ誰に会うかなんて分からないわよ? それに誰かが見てるかもしれないじゃない」


「誰も私のことなんか見ないわよ」 


「あら~。ののちゃん可愛いのに」


「親バカも程々にね」


 化粧なんて面倒くさいことしたくない。彼氏がいるわけじゃないし、化粧したところで誰かに見せる意味がない。母はこんなこと言っているが私は誰かに可愛いって言われたことなんてない。


 母とそんな中身のない会話していると迎えの車が家の前にやってきた。白のハイエースワゴン。何これ、ロケ車じゃん。

 迎えに来てくれたのは、保育園で弟と仲良くしているあかりちゃんという子の家族だ。確か斉藤さんだったかな?


「おはようございます!二日間お世話になります」


「おはようございます!いえいえ!楽しみましょうね」


「斉藤さん、僕途中運転変わりますよ!」


「そんな全然大丈夫ですよ!任せといてください」


「あの、二日間よろしくお願いします」


「あら!乃々花ちゃん!可愛いわね~」


「おう!そんなに堅くならないで大丈夫だからな!」


 親同士、そして私も挨拶し終わったところで車に乗り込む。うちの両親はチャイルドシートを二つ席に設置していた。うちには幼い弟が一人しかいないのに。ちなみにその弟は母に抱かれてまだ寝ている。


「ねぇなんで二つ?」


「ああ、後もう二人乗るんだが一人はうちのちびと同じ歳なんだよ。チャイルドシート捨てちゃったみたいだから貸してあげるんだ」


 どうやら今回は三組の家族でキャンプをするみたいね。これは堅くならないでという方が難しいかな。

 車に乗ると一番前の席に設置されたチャイルドシートに座って寝ている女の子がいた。めちゃくちゃ可愛い。妹ほしいなぁ。ってかこの子もうちのとあまり変わらないくらいなのかな?


 そうして車に乗って十分くらいして次の家に着いた。車内から外を見ると高身長のイケメンが幼い女の子を抱っこして待っていた。少し化粧しておけばよかったと思ってしまった自分が情けない。モデルだとか芸能人だと言われても納得するほどのイケメンだし、今外で斉藤さん夫婦と挨拶している最中に見せた笑顔なんてクラスの女子がみたらすぐに惚れて騒ぐんじゃないかしら。私が少し緊張して待っていると母から声がかけられる。


「なーに緊張してるの~?まぁ徹君イケメンだもんねぇ」


「うるさ——え?」


 徹君?今徹君って言った⁈徹君ってまさか愛華のじゃないよね……?いや、確かあのくらい身長はあったような気がするし、そもそも私の知り合いで徹って名前の人その人しかいないし。でももしかしたら違うって可能性も……


 夏休み前に会った時のことを思い出そうとしたが、その前に驚いた声が私の耳に届いた。


「……あれ、青木さん⁈」


 それは答えだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 



「よいしょっと」


 俺はあらゆる準備を終えて咲を抱っこする。今は朝の五時過ぎ、咲が起きるには辛い時間だ。それに加えて昨夜はキャンプだと楽しみすぎて寝る時間がいつもより遅かったからな。

 二人分の荷物を持って玄関を出る。今日から二日間は斉藤さん家と恵さん家にお世話になるので、俺にできることがあれば積極的にしていきたいと思っている。まぁ一番は咲にキャンプを楽しんでもらえるように頑張ることだ。

 外に出て少ししたところで斉藤さん家の車が家の前に止まった。さすがハイエースワゴン、十人乗りの車はやっぱりでかいな。


「おはようございます。二日間よろしくお願いします」


「おはよう!やっぱ咲ちゃんも寝てるよな。あかりも大輝君も寝てるよ」


「おはよ~!二日間楽しもうね!」


 雄二さんと文香さんに挨拶をしたところで車へ乗り込む。恵さんとはこの間会ったけど旦那さんには会ったことがないのでちゃんと挨拶をしないとな。

 俺は挨拶すべく、車のドアを開けて車内を見渡すと恵さん、恵さんの旦那さん、そして一番後ろの席には意外な人が座っていた。


「……あれ、青木さん⁈」


「…………」


 何も答えない青木さんに恵さんが尋ねる。


「あら?ののちゃん徹君とお友達なの?」


「……友達っていうか高校の後輩ってだけ」


 小さな声でボソボソと答える青木さん。恵さんが俺にどうなの?というような視線を送ってくるのでそれに答える。


「青木さんの言う通りです。最近知り合ったばかりで」


「ふ~ん」


 恵さんは何か企むようなニヤニヤ顔をした。


 その後恵さんに色々質問されて少し不機嫌そうにしている青木さんを横目に俺は咲をチャイルドシートに座らせるのだった。

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