居候
「お前いつまでゴロゴロする気だよ」
祝日の今日。友人宅のソファの上で雑誌や漫画を読みながら仕事の疲れを癒す。これもまた仕事の一環だろう。友人の
「自宅のリビングでゆっくり過ごして、何が悪い?」
「居候が何を言いやがる。そこ、お前の寝床じゃねーぞ」
今日は休日なのに機嫌が悪い。生真面目な奴なのはわかっているが、いつも以上に冗談が通じない。普通にイライラしているようだ。
小田の家は広い。「家賃補助でいいところに住んでいる」という自慢話を聞いたときは
これ以上小言を浴び続けるのも苦痛なので仕方なく伸びをして起きようとした。そのとき、棚の並びにある広辞苑に手が当たった。広辞苑は重い。しかし、手元の外箱は密度が低く軽い。持つとばさりと数冊が中で傾く感触があった。「なんだろう」と思いながら腰を上げてそれを手にとって確認してみると、中には数冊のアレな本が入っていた。
「あれ~、お前これ」と表紙を小田に向かって見せる。
小田は「なんだよ」と言ってこっちを見にきた。
「あ!いやそれは!その……」
小田は腕組みして天井のほうを向いてしまった。
中学生みたいな反応しやがって、と思いながら反撃のチャンスを逃さないように注意して言葉を選ぶ。
「まあお前、年下好きそうだもんな。世話焼きなところあるじゃん」
返事はない。
「それにしてもお前、もうちょっと隠す場所考えろよ」
「いや忘れてたんだよ処分するのを!昔のだから!」
確認したら確かに発行年が古いようだ。しかし古い記憶にしてもだ、他人に恥部を
腹の虫は収まったようだが、小田はそれから少し無口になった。この儀式じみた空間にもう少し長いこと居座れそうで良かった。居候がいるうちに外箱の中身が片付けられることは無さそうだ。
短編集 戸田 至(トダイタル) @maitya
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