ある日の決闘

 リンゲル砦の訓練場に人が集まる。理由は話題の特攻兵器とクリサンサマム騎士団の序列4位が真剣で決闘するとの事だからだ。貴族対平民の、方や騎士団の中でも指折りの腕利貴族、方や訓練で周りの2、3倍の荷物を背負って行軍訓練しても平気な顔でケロッと訓練をこなす変態兵、しかも様々な武器なども制作していると言う、注目の決闘が行われるのだ。しかも『真剣で』という事に非常に大きな意味がある。その効力とルールは国の法律で定まっており、非常に大きな決定力を持つ。コレを覆すには、王家の許可が必要なほどである。同時にそのような中、対戦するフリッツは・・・


(気奴、ミスった事にして首落としたろかな・・・(˃̵ᴗ˂̵#)


 転生して以来、2番目の怒気を纏っていた。審判役の副軍団長も、フリッツの怒気に押され冷や汗をかいていた。なぜ彼がここまでキレているのか。それは決闘を挑まれた時の相手のタイミングと態度による。






 ある日、フリッツは鍛冶場に居た。理由は戦に備えて予備の刀剣や弾薬を作りたかったからだ。ついでにサバイバルキットなども用意し、ゲリラ戦の用意をしている。あとここを使う許可を取る時に軍団長に依頼された物も製作している。そして刀を打とうと、玉鋼を熱し、鍛造して鋼を鍛えて行く。そして最高のタイミングで鋼を打とうとした時、白い手袋が投げつけられた。・・・打っている鋼に対して。咄嗟に槌を使って手袋を掬い上げ、手に取る。そして次の瞬間、


「よし!取ったな!勝負しろ!」

「は?」


 フリッツが呆けている間に、鋼はどんどんと冷えていく。気がついたときには、もう鋼はダメになっていた。闖入者を、見る。いや、睨みつける。・・・今世で誰にも見せた事がないほどの殺意を視線に乗せて。そして先程まで鍛えていた鋼を自信に満ちた顔つきの非常識で無教養で救い用の無い気狂い貴族に怒りのまま投げ付ける。投げる体制も何もないただ本能で投げた、少々冷めたとはいえまだ赤みの残る鋼は、●●●●以下のアリ以下の何かの頭を掠め、更に咄嗟に避けた人々を通り抜け、石造りの城の壁に当たって、下にあった木の机に落ち、煙を上げ始めた。僅かに頭が冷えたが、全くもって殺意は衰える事なく、一呼吸を挟んで馬鹿に向き直る。どうにかして貴族向けの笑顔を貼り付けたが、もし今腰に刀を刺していたら迷わず切り掛かって居たであろうほどの怒りを必死に理性で押さえつけ、槌を置き、炉の火を落ち着かせ、腰巾着が顔を真っ赤にした主人を必死に抑えるのを横目に見ながら息を整え、俺は声を掛ける。


「こんにちは。えぇ〜〜〜〜〜っとお名前はなんでしたっけ?」


 まるで神経を逆撫でするような質問だが、あまりの状況に煮え切った頭が冴えないため、思わず出てしまった。


「何だと!戦術特攻兵器が口答えするな!」

「あぁそうですか、とりあえず決闘は受けてあげますから早く条件も言いなさい」


 もうなげやりに対応する。話を聞くだけ無駄だと悟った。


「とりあえず、退いてください」

「あぁん!?」

「このままだと丸焦げですよ」


 指を刺した方向から、チリチリと音がする。そして焦げ臭い匂いもする。まるで木が燃えるかのような・・・一同が振り向くと、机が燃えていた。しかもちょっとした焚き火くらいには煙がモクモクと。部屋は石造りのため、建物に燃え移ることはないであろうが、それでも火事は不味い。放心している衆愚を放って、その辺に置いておいた水を入れた桶を手に取り、無理やり人をどかして火の前に立ち、水をぶっ掛ける。『ジュ〜』と、音を立てながら火の勢いが衰えていく。同時に凄まじい量の水蒸気が立ち込める。しかし、熱源である鉄はまだまだ熱を持っているので、ヤットコを手に取り、鉄を炉の隣にある水桶に突っ込んで冷やしておく。ついでに、炉で温めていた他の鋼たちを取り出して室温で冷ましておく。そして知能の一欠片も感じられない男が止める暇もなくその辺のカギ棒で水桶の中に入れてしまった。


「早く行くぞこの平民!」


 ・・・我慢の限界であった。右手の側にあった長柄の火工用ハンマーを手に取り、そいつに殴りかかる。そいつの一切変化しない言動にもはや感銘を受けそうになるが、俺がキレたのはそこでは無い。そいつは流石に貴族らしく武の心得はある様で、手に持っていたカギ棒で加工用ハンマーのスイングを防ぐ。しかし炉の中の鉄などを引っ掛けて押したり引いたりする用のカギ棒ではハンマーの衝撃に耐えられる訳がなく、1発でへしゃげてしまった。●●●●野郎が直ぐに腰に刺していた剣を抜くが、それが役に立つ前に、腰巾着が間に割って入った。某小説では○イッチと呼ばれるであろう交代をしている間に、俺はハンマーを高く振り上げていた。当たり処が悪ければ1発で即死するであろうハンマーを、片手剣を抜き上段に構える奴に全力でフルスイングする。そいつは自分から見て右にハンマーを逸らそうとしていた様だが、片手で扱える様に作られた剣が鉄を叩くためのハンマーのフルスイングに勝てる訳がなく、ハンマーの持ち手の部分に当たったのだが簡単に弾かれ、手から離れてしまう。しかもハンマーの軌道は殆ど変わらずにである。そしてそのままハンマーは床に叩きつけられ、床に敷かれた防火用の石材を割って止まった。見ると、相手は咄嗟に頭を後ろに振った事でなんとか頭部への直撃は避けられたが、胸元の寸前を即死級の物が通り過ぎた事による動揺で放心してしまっている様である。そして一瞬の静寂が訪れる。流石にここまでやるとフリッツも怒気よりも理性が勝る。そしてお互いが再起動し、フリッツがハンマーから手を離し、護衛の者とアイコンタクトで状況が終了した事を確認し合い、とっとと場を収めようとした時、●●●●獣が、先程抜いた剣で俺に斬りかかって来た、その時、


「全員!そこを動くな!」


 良く通る声で、軍団長が止めに入った。しかし、振り始めた剣がそう簡単に止まるわけがなく、その剣が必中であることを悟った俺は、その剣を真剣白刃取りで防ぎ、事なきを得た。その後すぐに憲兵が獣を取り押さえ、連行して行った。

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とある職人の日記~わたくしは戦争屋ではありません。万能職人と言えばいいでしょうか? 東之鷹 @19982100

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