地を這う蛹は、やがて天を舞う蝶となる。
神に仇名す男の叛神譜──
現代日本で『カミシマ』として生きた繭玉。
それは、大切な人を理不尽な運命で失い、心を折られた生産技術者の物語。
そんな彼の前世は、剣と魔法が息づくファンタジー世界で、貴族の少年『オリヴァー』として生きた希望に満ちた日々でした。
二つの道が交差した未来で、神への復讐を誓う英雄『アレックス』としての姿がプロローグで示唆されています。
特に引き込まれるのが鮮やかな対比ですね。現代編で描かれる、胸が張り裂けるほど悲痛な愛と喪失の物語が、読者の心に重くのしかかります。
でも、だからこそ、舞台が移るファンタジー世界での描写がより一層輝いて見えるのでは、ないでしょうか。
オリヴァーの少年時代は打って変わり、練られた魔法体系や歴史、文化に彩られています。
頼もしくも個性的な三人の女性の師匠──尊大ながらも面倒見の良い祓魔師ミュルタレ、天才的で快活なゴーレム職人ミーナ、物静かで心優しいエリーザ達との交流は、読んでいて心温まるものがありますね。
彼女たちに導かれ、真理に触れていく過程こそが、本作が持つファンタジー部分の中核要素かと。
悲劇的な過去と希望に満ちた過去。相反するような二つの記憶を持つ主人公が、これからどのような運命を辿るのか。どうなりて天空を舞う蝶へと至るのか。
骨太なファンタジーが好きな方にお勧めしたい一作です。