錬金術師は幸せだったのか

猫丸ういろう

第1話

 今から俺の思い出を話していこうと思う。

 自分で言うのもなんだが俺は天才だったと思う。

 10代にして錬金術れんきんじゅつをマスターしたからな。マスター出来る奴はわずかで一生かけてもマスター出来ないのがほとんどだ。

 マスターってのはあれだよ、錬金術れんきんじゅつを完璧に理解し世界の真理に辿り着いた奴の事だ。気付いたら目の前に神がいてな、色々と教えてもらうんだよ。

 真理が何かって? そんなもん言える訳ないだろ! 言ったらあれだぞ! グロ注意だぞ! 説明すると神様が「こんにちは」して俺の体が「さようなら」だよ!

 

「はぁ、疲れたぜー! こんな時は酒に限るなぁ! え? 誰に説明してるかって? 独り言に決まってんだろ……。寂しいなぁ、話し相手が欲しい! ……て言うか彼女! かわいい彼女が欲しい!」

 

 この男、幼少の頃より錬金術れんきんじゅつを学び10代の全てを錬金術れんきんじゅつに使った為に知り合いがいない。20歳、童貞である。現在話しかけているのは確かゴミ捨て場に落ちていた、クマの人形だ。

 

「やめろ! そんな目で俺を見るなぁ! お前には彼女が出来ないだと? クマさん人形のお前に何が分かるってんだよー! えぇ?」

 

(ふっ、バカな男よなクマ)

 

 この男バカだろ? 1人で何やってんだよ! 天才の発明はいつ起こるか分からないとかで部屋に記憶装置きおくそうちとか言う機械を作って映像として記録させてた事をすっかり忘れてやがる! 後で思い出して辛い思いすんのによ。本当バカだわこいつ!後は、そうだあいつが裏切ったんだよな。

 

「おいおいおい! テメェ! 裏切りやがったな! クマさん人形の癖に彼女持ちとはどう言う事だよ! 久しぶりに街に行ってみりゃリボンつけた彼女さんがいるじゃねーの。 俺の事騙してたんだな! 彼女いない同盟作ろうぜとか言った癖によ」

 

(ほう! 遂に気付いたかクマ! 我はモテるからなぁクマ。レディーが離してくれんのだよクマ)

 

 あぁ、あぁやってられなかったわこの時は。クマ人形に彼女がいて俺にはいないって……。俺が何をしたって言うんですか神様? あぁ、神よ! 見捨てるのですね、おくたばりになって下さい。

 ズンと音がして物が落ちてきたんだよな。


「いてー! 物が落ちてきた……。何か適当に積んでたのか? 今度直すか」

 

(物なんて積んであったかクマ? 我に心臓はないがドキッとしたぞクマ)

 

 本当に何だったんだろうな、気にする事でもないか。

 

「あぁ! 何で俺には彼女が……。出来ないなら仕方ない! 創ろう! ははは! 俺は禁術に手を染めるぜクマさんよぉ!」

 

(愚かな男だ、人間を創るなど無理に決まってるだろうにクマ)

 

 そう決意してからかなりの時が立っていたが進捗は一切なかった。

 俺ももう40代か……。天才が20年掛けても何も出来ないなんて……。

 人間創るなんて無理だろこれ。

 

「おーい! クマさんよぉ! 最近は全然話してくれないじゃんかよぉ。無視すんなって……、嘘だろ」

 

 クマさん人形だったものは酷くボロボロになり腕はちぎれ、体から綿が飛び出ている。首も取れそうだ。

 

「どうしてこんなに……、もう治らないよな……」

 

(ふっ、我ももう限界と言う事さクマ。そろそろか、最後にお前と話せてよかった……クマ)

 ストンと首が落ちた音が部屋に響く。

 

「あ……あ……、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 確か数日寝込んだな。

 ここから狂った様に没頭した成果で、人間を創る事に成功はしたが問題があった。

  人の形をした容器に創っているのだが、容器から出すとすぐに消えてしまうのだ。

 

「くそ! やはり、人間を形成している要素と魔力だけではすぐに魔力が散ってしまってダメか……、俺のボンキュッボンがーー!」

 

 おぎゃぁ、おぎゃぁと近くの家から赤ん坊の泣く声がする。確か最近引っ越してきた家族だな。うるさくなってしまうかもと謝りに来ていたな。

 

「ふむ、そうだ! 赤ん坊から育てよう! 魔力も少しずつ定着させていき魔力が安定する様に魔法核まほうかくもつければ! いけるぞ!」

 

 魔法核まほうかくとは魔力を使えない人でも魔力を感じ魔法として安定させる事が出来る様になる物で世には発表されていないオリジナルの者だった。

 魔法とはすぐに散ってしまう魔力を安定させて魔法として使うもので魔力を安定させにくい人間では使う事が難しいもの。(俺が調べた結果)魔法が使える人を魔法学園に集めて訓練させていたな。

 これを発表し改良を続ければ魔法は多くの人が使える様になる程の大発明だとは気づいてない。

 

 しばらく経った頃。

 

「おぎゃぁ、おぎゃぁ!」

 

「ははは! 遂にやったぞ! 俺は成功したんだ! 名前は、そうだな……アイリス! 俺の希望だ」

 

 この時は嬉しかったなぁ。遂に成功したからなぁ。この時はいつか嫁にする為に育てようと思ってた頃だな。気付いたら娘として育ててたがな。

 

「どうしよう……、赤ん坊なんて育てた事ないしよぉ……。あ、確か隣の家が赤ん坊を育ててたな!」

 

 それから隣の家の夫婦には世話になりっぱなしだったなぁ。知り合いが行方不明になって子供だけ放置されてたから連れて来たって事にしたが、よくいけたな! 今でもそれは怪しいって思うわ。

 そうそう! あんな事もあったよな、娘は本当に天才だ! これは親バカではない。

 

「アイリス? 何してるんだ?」

 

「おとうさま! かみさまに会ってました!」

 

「え? もう錬金術れんきんじゅつをマスターしたのか?」

 

「はい、おとうさま! アイリスはすごいですか?」

 

「あぁ! アイリスは天才だ! 凄いぞぉ!」

 

「ありがとうございます! おとうさま!」

 

 アイリスが10歳になって少しした頃だったな。神様に会って来たって言った時は本当に驚いた。俺より早く錬金術をマスターするなんてな。

 俺に似て天才だよ! まじで、うちの娘が一番! アイリスまじ天使!

 

 アイリスとの生活は幸せだったな。

 彼女とかいらなかったわ、娘が一番。

 

 アイリスが天才だからと魔法学園に通わせたらどうかと言われて血の涙を流しながら見送ったな。普通は四年かかる所を天才過ぎて一年で卒業して来たけどな。

 

 幸せだったなぁ……、そろそろか……。

 

「アイリス……、おいで」

 

「はい、お父様」

 

「アイリス、そろそろ時間みたいだ……。今まで沢山ありがとうな。アイリスがいてくれて幸せだったよ」

 

「私も……私も幸せでした。私がホムンクルスでお父様の本当の子供じゃないと知った時に言ってくれましたよね。「血の繋がりは無くてもお前は俺の子だ! 愛してる」と、私は凄く嬉しかった」

 

「あぁ、アイリスは間違いなく俺の子だ」

 

 当たり前だ。アイリスは俺の子だ、血の繋がりなんて関係ない。

 

「これからはアイリスの時間だ。アイリスの時間は周りの人より長いかもしれない。色々とあるかもしれないが、アイリスを大切にしてくれる人を大切にしてあげなさい、それとそこにある記憶装置きおくそうちだけは壊してくれ」

 

「はい、わかりました! お父様は彼女を作りたかったんですよね? お父様を男性として愛してくれる人が欲しかったんですよね?」

 

「あぁ、最初はそんな目的だったな」

 

「その願いは叶いましたよ、私はお父様を一人の男性としても愛しております」

 

「そうか……、こんな素敵な子に愛されて幸せ者だなぁ……」

 

 この時歴史に名前は残さなかったが一人の天才錬金術師てんさいれんきんじゅつしが命を落とした。

 

「お父様……おとうさま……」

 

 亡くなってしまわれたのね。お父様、アイリスはあなたを愛しております。

 お父様の葬儀が行われて数日が経って思い出した。

 

記憶装置きおくそうちよね……、一度見てから壊しましょう」 

 

 そこにはお父様が楽しそうにクマさん人形に話しかけている映像があった。

 

「この人形……、意思を感じるわ……。こんな事もあるのね、お父様は気付いていないみたいだけど」

 

 そう言えばこの人形、街で見た時にリボンをつけたクマの人形と小さいクマの人形のセットで売っていたわね。家族かしら。

 

「私のアイリスって名前……、花言葉で希望って意味があるのね……。素敵な名前ね」


 私の時間か……どうしましょうか、旅でもしてみようかな。

 その時家のドアを叩く音が家に響く。

 

 「すいません! ここがアイリスさんの家で間違いないでしょうか?」

 

 「えぇ、私がアイリスよ。」

 

 「はじめまして! 僕は勇者としてこの世界に呼ばれました。アイリスさんの力をお借りしたいのです! 一緒に魔王を倒す旅に出ませんか?」

 

「それもいいわね……、分かりました。一緒に行きましょう。それでは、お父様行ってきます」



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 最後まで読んで頂きありがとうございました。

 お楽しみいただけたでしょうか?

 こんな錬金術師もいていいのかなと思い書かせて頂きました。

 初の投稿もあり稚拙な文章だと感じた方もいらっしゃると思います。

 努力していきますので今後とも宜しくお願い致します。

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